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巻頭言
災害時医療支援船構想とは
日本透析医会 会長 山崎親雄
 
 
 日本透析医会が主催いたします災害対策の講演会にようこそおいで下さいました。
 
 振り返ってみますと、この中にも覚えておられる方が何人かいらっしゃるでしょうが、阪神大震災の時に「被災地の六甲アイランドから、患者さんを乗せた船が大阪港まで着いた」という報道が、震災発生してから3日目か4日目に、新聞やテレビに大きく取り上げらたことがありました。今日ここに出席してご挨拶をいただきます内藤先生と、すでにお亡くなりました大阪市立大学山上先生の、お二人の発想でもって、あの震災時に患者さん救援のために船を動かしたという大変な事実がございました。
 
 その阪神大震災以後、日本透析医会と日本透析医学会が、災害時における透析患者さん支援の取り組みを進めてきました。
 そうした中で神戸大学の井上先生から、災害に対する支援船のお話があり、また災医連押田先生のご協力も頂きまして、この災害時医療支援船の構想が具体的なものとなってまいりました。このたび、これから育っていくであろう災害支援船のお話をさせていただくことになり大変有難く思っております。
 
 またそうした災害時の船舶による患者支援活動の構築に対して日本財団の事業助成を得られましたことに対しましても、大変幸せなことと思っております。
 災害に遭遇したときの、「できることは何でも」という2人の医師の英断から「災害時には船舶を使える」という発想が始まり、それがここまで一つの事業として大きく育ってきたと言うことを考えますと感慨深いものがあります。
 今後、何年かの間に、非常に大規模な災害が起きることが予想されています。たとえば、噂されております東京都直下型地震、あるいは私の住んでいる名古屋では東海沖地震と東南海沖地震が一辺に来ますと、もう今まででは信じられないような大災害が起こるだろうと恐れられております。
 そういう災害が起こった時に、今日もお見えになっております内閣府から日本中の海の皆さんに声が掛かって、ありとあらゆる所から船が集まって来るというのは、夢のような話ではありますが、一方で非常に実現可能な話ではないかと思います。
 しかしその実現には、こうした取り組みに関わっておられる皆さんが善意を持って、何とかしなければいけないという思いで関わっていられるところが、いちばん重要と思っております。
 
 そうした夢のある大きな事業に対して、まだわからないことも多いですけれども、できるところで少しずつ始めていきたいというふうに考えております。
 
 今日はご講演いただく方々にそうしたことについて良いお話を聞かさせてもらえると期待しております。また皆様におかれましても、講演を聴かれて、何か災害に対して感ずるものを持って帰られることになれば、大変幸せに存じます。
 
(2月12日災害時医療支援船構想報告講演会・首都直下型地震と医療「開会のことば」より)
 
日本透析医会日本財団助成事業
2005年度活動の経過
災害時医療支援船構想
2005年の経過
■2005年3月9日
深江丸による医師の体験航海
(災害医療連絡協議会主催)
〈写真1〉
 
■2005年5月17日
第1回調査委員会「災害時医療支援船運用計画策定と実施」
(ニュー神田ホテル)〈写真2〉
 
■2005年6月5日
第1回実行部会
(神戸大学海事科学部)
 
■2005年7月18日〜19日
深江丸による医療スタッフの体験乗船
・透析施設看護師・臨床工学技士・医師による宿泊乗船航海体験
・CHF機器を用いた緊急船上透析の可能性検討〈写真3〉
 
■2005年9月14日
第2回実行部会
(神戸大学海事科学部)
 
■2005年10月2日
深江丸による患者さん移送運用航海
(阪神西宮駅〜神戸大学深江キャンパス〜大阪港〜白鷺病院)
〈写真4〉
 
■2005年11月14日
第3回実行部会
(神戸大学海事科学部)
 
■2006年1月14日
透析医療資機材輸送懇談会
(神戸大学海事科学部)〈写真5〉
 
■2006年2月12日
災害時医療支援船構想報告講演会
(東京お台場・船の科学館)
〈写真6〉
 
3月9日 深江丸による医師の体験航海
 
5月17日 第1回調査委員会
 
7月18日〜19日 医療スタッフによる体験乗船
 
10月2日 患者さん移送運用航海
 
1月14日 透析医療資機材輸送懇談会
 
2月12日 災害時医療支援船構想報告講演会
 
◆船舶利用のメリット
 船舶はもともと地上の災害の影響を受けない独立したライフラインを自前で確保しています。また独自の通信施設を持ち情報伝達の手段も障害を受けません。そして何より、救援を求めている被災地に自分の力で、向かえるという能力を持っています。
◆海陸連携支援事業の検討
 日本透析医会は、日本財団の助成を得て、日本透析医学会、神戸大学海事科学部、災害医療連絡協議会と協力して神戸大学海事科学部の練習船『深江丸』を中心に災害時に医療支援にあたる船として転用する海陸連携支援の事業を2005年から始め、災害時の医療支援を想定してその準備のための活動を始めました。
 
 日本透析医会はその災害時の透析施設・透析患者さん支援の一方法として災害時情報伝達・集計専用ページを中心とした災害情報ネットワークを作り上げてきました。
 これは被災施設の情報を収集し、その支援要請に対して周辺支援施設(患者受け入れ可能な施設)との間で情報調整を行うことによって患者さん支援を速やかに行おうとするものです。
 また、災害時に危機管理メーリングリストを活用して行政、支援機関・組織・団体との災害時の情報交換を迅速に進めるシステムを作っています。
 海陸連携支援システムは、とくに船舶による患者さんの移送や医療機器・物資の輸送に船舶を利用していく「災害時医療支援船」構想の情報の中枢を担うものです。
 災害に強い通信機器を備えた船舶の特性を生かして陸路・空路をも含めた患者さん支援に役立てられるものに発展確立しようとしているものです。
 2005年度の運用航海ではこの海陸支援システムの作動を想定してシミュレーションが行われました。


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