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2. 養護学校の1日
1. 登校の様子〜朝の始まり
 「おはようございまーす!」朝8:30、校門から元気のよい声が聞こえてきます。自力通学を行う中学部、高等部の生徒が登校してきました。彼らは電車やバスを乗り継いで登校します。しばらくすると、スクールバスが次々に校門から入って来ます。生徒の多くがスクールバスで通学しています。バスの乗降口では担任の先生が、子どもたちが降りてくるのを待っています。
 小学部の子どもたちにとっては、バスから降りた瞬間から学校での勉強が始まります。担任の先生とあいさつしたり、玄関で靴を履き替えたりということが学習課題となっている子もいます。「自分の教室まで一人で行く」ことにチャレンジしている子もいます。
 教室に入ると、自分の荷物の整理をしてから体操服に着替えます。着替えが済むと、朝の会が始まるまで自由に遊びます。ブランコや自転車に乗って遊ぶ子もいれば、写真カードで、「砂場に行きたい」、「トランポリンで遊びたい」と先生に伝えている子もいます。このように、小学部ではゆったりとした雰囲気で1日が始まります。中学部、高等部では、この時間帯に「朝の運動」としてランニングや体操を行います。
 朝の会では、出席をとったり、その日の時間割や予定を確認したり、クラスのみんなで歌遊びや手遊びをしたりします。時間割は、授業ごとに1枚1枚のカードになっていて、文字だけではなく写真や絵が添えられています。それを順番に並べていくのです。
 
2. 小学部の学習
 ここで小学部の学習についてみてみましょう。まず、国語や算数の基礎的な学習があります。色や形、事物の名称などの課題に取り組む子、書字や計算に取り組む子まで、それぞれの力に合わせて課題が設定されています。話す、聞くという内容に関しては、身体を大きく動かしたごっこ遊びの中で取り組むこともあります。その際、いろいろなお話をもとにした設定や、生活の中にあるような設定(例えば「買い物をしよう」「電車に乗ろう」で活動を行います。音楽、図工、体育といった学習についても、子どもたちが楽しく取り組めるように遊びの要素を多く含んだ活動が多いです。この他に、小学部みんなで集まってゲームをしたり、季節の行事をしたりして遊ぶ集会の時間もあります。
 午前中の学習が終わると、子どもたちが楽しみにしているのは給食です。ここでも自分で給食の用意をしたり、クラスのワゴンを運んできたり、牛乳を配ったり、配膳したりという一つ一つのことが大切な学習となっています。また、ただ食事するというだけではなく、好きな食べ物を「おかわりちょうだい!」、苦手な食べ物を「減らしてよ!」と伝えたり、「もうちょっとだけ食べてみようよ」と先生から提案されたりと、いろいろなやりとりができる場面でもあります。
 昼休みに自由に遊んだ後、昼からの学習があります。そして、学習が終わると着替えをして、終わりの会をした後、バスに乗って帰ります。小学部の子どもたちは早く帰る日もありますが、3時すぎにバスに乗る日が多いです。
 養護学校の小学部では、教科の指導とともに、衣服の着脱、食事、排泄など身の回りのことに関するスキルを身につける、いわゆる「日常生活の指導」が、大きな位置を占めています。これらは生活全般を通して取り組まれます。また、他にもコミュニケーションや行動上の課題など、それぞれの力や特性に応じた取り組みがなされています。
 
3. 中学部、高等部の学習
 中学部でも、1日の大きな流れは変わりませんが、学習内容の面で、「身の回り」から「社会生活」へと取り組む課題の重点が移っていきます。したがって、教科やコミュニケーションの指導の比重が大きくなります。それぞれの生徒の力や特性に応じて様々です。さらに、中学部では高等部での取り組みとも関連して、「作業学習」という内容があります。「作業」の種類は高等部よりも少ないことが多いようです。
 高等部では、教科の学習に加えて、働く意欲を培い、卒業後の職業生活や社会自立を目指し、生活する力を高めることをねらいとして、作業学習に取り組む時間を設定しています。作業の例としては、木工、陶芸、農作業、さをり織、手芸、紙工、食品加工などがあります。それぞれ班に分かれて、年間を通じて製品となるものを製作していきます。学校によっては、企業から材料を預かって、部品の仕分けや袋詰めなどの作業を行うところもあります。また、作業学習の一環として、実際に施設や企業に出かけていき、そこでの仕事を体験する現場体験実習も行われます。
 
A養護学校 小学部の時間割
 
4. 交流学習について
 養護学校の各学部では、交流学習としてそれぞれ近隣の小、中学校、高校の児童生徒とふれあい、共に過ごす時間を設定することが多いです。回数は、年に数回のところが多いようです。
 また、小学部、中学部では、希望すればそれぞれの児童生徒が居住している地域の学校に行って、地域の子どもたちと一緒に活動する機会を設けることもできます。実施回数は学校によって様々です。
 
5. 全般を通して
 学校によって規模が違いますが、小学部では大体5〜6人で1クラスとなり、3人くらいの教師で担当することが多いようです。中学部、高等部になると若干1クラスの人数が増えます。そして、1学年あたりの人数は、地域の学校を卒業後入学してくる生徒が増える中学部、高等部が小学部よりもずっと多くなります。
 高等部は通常の学校と比べると人数は少なく、個に応じた指導を行える環境にあると思います。一人ひとりの子どもにとって必要なことを教えていくことが可能なのです。教師は複数でクラス担任をするので、お互いに意見交換ができ、家庭と学校も毎日やりとりができます。
 養護学校において大切なのは、卒業後の生活をイメージして、どのような大人に本人がなりたいか、ご家族がなってほしいかを出し合いながら、学校や家庭において取り組むべきことは何かを絶えず吟味していくことです。
 養護学校でも様々な行事が行なわれています。行事の様子や学習の様子は、各養護学校のホームページでも紹介されていますので、ぜひ一度ご覧になってみて下さい。
 
小学校の通常学級での一日
 ここでは、通常学級に在籍している小学4年生の、ある高機能自閉症のお子さんの様子を例として通常学級での1日の過ごし方についてご紹介したいと思います。
 
4年1組  時間割 B  6月前半分
 
登校:集団登校でみんなと一緒に並んで登校します。朝の調子がよくないときは、保護者が班の後ろについて来られることもあります。
朝の会:お知らせ係をしているので、朝、学校に来ると初めに先生のところに行き、今日の予定を聞きます。そして、学級の黒板に予定を書き、朝の会で報告するのが仕事です。一日の見通しが立つので、朝の時間も落ち着いて過ごせます。
授業:基本的には、周りの子どもたちと同じように授業を受けます。先生が声かけをしてくれたり、そっと肩に手をおいたりして、毎回発表したい気持ちをおさめてくれます。総合的な学習の時間や作文の時間など、苦手な教科では、音楽の先生や連絡係のコーディネーターの先生が一緒に学習をしてくれることがあります。
個別指導の時間:1週間に1時間だけですが、図工の時間の後半は別の教室で、特殊学級の先生と学習をしています。友だちとけんかになってしまう場面などについて、話をしたり、実際に寸劇をしたりするなどして対応の仕方を学びます。
休み時間:業間休みは友だちと遊びます。みんな遊びの時はルールを説明してもらえるので楽しく参加できます。昼休みは、図書室で好きな本を一人でゆっくり読むようにしています。
終わりの会:自分を振り返る時間があります。また、終わりの会の後には、先生と二人で、生活の約束について、振り返りをすることもあります。約束ができていたら、シールがもらえ、10枚集めると家で好きな活動ができるようなシステムになっています。
リラックススペース:教室の隅に、本箱で仕切った小さなスペースがあり、自由に本を読んだりできます。イライラしたときなどは、そこで気持ちを落ち着かせています。それでも無理な場合は、保健室に行ってもよいことになっています。
行事:初めての行事の前には、前年のビデオを見せてもらったり、リハーサルをしたり、くわしいプログラムをもらったりします。見通しができるので、最後まで参加できるようになりました。
 
 15分間の授業や小学校での英語の授業など、学校ごとで工夫をするようになり、この例とは違っていることも多くあります。特に、高機能自閉症やアスペルガー症候群の児童に対する取り組みは、学校によってさまざまです。いま、学校は、特別支援教育への移行の最中にあります。少しずつではありますが、個々の子どもたちへの対応が適切になされるようになってきています。子どもにとって必要なものを、学校と保護者が一緒になって、少しずつ作り上げているというのが現状です。
 
 最後に、先輩お母さんからのアドバイスをご紹介したいと思います。
 私は、自分から進んで、いろいろな人と話をするようしてきました。担任の先生とは、連絡ノートつくり、朝の様子など家のことを伝えるようにしました。先生からも、時々学校の様子を書いてくださることがありました。
 また、学校に行ったときなどは担任の先生だけでなく教頭先生やコーディネーター役の先生、特殊学級を担当する先生、保健室の先生など、たくさんの先生に相談にのってもらいました。いろいろな人と情報交換をすることで、学校での様子がよく分かり、子どもが思い込みをしているときも、正してあげることができ、子どもの小さなサインに気づいてあげることもできました。
 学年があがり先生が変わったときにも、よく知っている先生が同じ学年におられたりして、スムーズにいきました。学年が変わったときには、担任の先生に子どものことを説明したプロフィールブックを渡して読んでもらいました。
 PTAの会にもどんどん参加し、友だちを作りました。学級懇談会でも先生にも助けてもらって子どもの話をしました。今では、子どものことを理解してくださる人が増え、けんかをして誤りに行っても、逆に励まされることもありました。特に、特殊学級のお母さんたちと話をするようになって、悩みごとを一人で抱えずに話せるようになりました。
 もともと、外に出て話をするのは苦手で、初めは抵抗があったのですが、一緒になって喜んだり、心配してくれる人がたくさんできるようになり、今は、子どものおかげで自分もいい経験をさせてもらっているなあと考えられるようになりました。
 
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