日本財団 図書館


分かりやすい自閉症基礎講座
―アラカルト―
2005.12.11.
ペアレントメンター養成講座
ゆうあい会館
東京都立梅ヶ丘病院 市川宏伸
 
高機能自閉症・アスペルガー障害とADHD
(自閉症スペクトラム障害)
共通点:
(1)行動様式:多動(低年齢)
(2)意思伝達能力:言語障害?
(3)常同行動:強迫行動(こだわり)
・自閉性障害の診断上の優位(DSM)
・操作的診断基準以外の概念(自閉症スペクトラム障害)
 
操作的診断基準の功罪
PDDはAD/HDに優先するのか?
DSMでは・・・
AD/HDの症状は広汎性発達障害、精神分裂病・・・の経過中にのみ起こるものでなく・・・
臨床では・・・
AD/HDと診断した子どもの経過を追試しているとPDDの診断基準を満たすことがある
PDD-NOSもAD/HDに優先するのか?
 
結論
・自閉性障害の57.6%、PDD-NOSの85%は同時にADHDの診断基準を満たしていた
・年少の者の方がADHDの症状を有していた
・両方の診断をつけた方が治療上効果的な症例もあった
 
原因追究の鍵
・単一の疾患か否か
カナー型とアスペルガー型
・原因は一つだろうか
いくつかの要素の関与?
・どうして発症までの時間差があるのか?
生得的なものか、後天的なものか?
・追究の難しさ(診断の困難、実験動物の開発、研究費・研究者の少なさなど)
*米国での実践:NIMHと特定財団との協力
 
原因を一つと仮定した考え
・脳内伝達物質の異常
セロトニン、ドーパミン
・補酵素の異常
・多くは偶然の結果に基いて
セクレチン
ワクチン
防腐剤
 すべて、仮説に基いており、医学的証拠に欠けている
 
MMRワクチンの関与
・英国では、「MMRワクチンの接種を始めてから自閉症の発症率が増加している」との報告
・その後、これを支持する報告がある
・これについては、大規模な調査が行なわれており、近く結果が出る
・日本では、MMRワクチンが一時期のみ接種されていた
・日本での報告では、否定的である
 
ワクチンの防腐剤の関与
・米国から、「ワクチン接種後に自閉症の症状が出現した」の報告がでた
・「ワクチンの中のチメロサール(水銀製剤)が原因である」との報告が出た
・「水銀排出剤(キレート剤)を使用すると、症状がおさまり、この症状は可逆的であった」との報告があった
 
防腐剤関与への疑問
・ワクチンをする前から症状のある子どももある
・デンマークからの報告からは、「防腐剤を抜いたワクチンを使用してからも、自閉症の発症率は増加している
・水銀中毒の際には、自閉症の症状はみられなかった
 
ワクチンと自閉症
IOM(An Institute of Medicine)の報告
2004年のIOM報告の概略:
 2000年、疾患抑制・予防センター(CDC)および国立保健研究所(NH)は、独立した専門員会(the Immunization Safety Review Committee: 免疫安全性検討委員会)に対して、ワクチンが確かに健康上の問題を引き起こす証拠を評価して、結論および勧告を報告するように諮問した。
もっとも重要な結論:
・チメロサールを含むワクチンもMMRワクチンも自閉症とは関連しない
・自閉症とMMRワクチンおよびチメロサール含有ワクチンの関連についての仮説はそれを指示する証拠に欠けており、理論上のものに過ぎない
・自閉症の原因を発見するための研究は、これからは他の有望な事実調査に向けられるべきである。この調査は最近の知識や証拠に支持され、回答が得られるより多くの裏付けをもたらすものである。
 
遺伝的研究
・自閉症児の家人の中には、自閉症の出現率が高い
・双生児の研究では、一卵性の方が二卵性よりも出現率が高い
・遺伝子研究から、特定の染色体対の関与が報告されている
・単遺伝子遺伝か多遺伝子遺伝か
 
自閉症と染色体
染色体対 報告数 染色体対 報告数 染色体対 報告数
1 7 9 1 17 10
2 17 10 2 18 5
3 6 11 6 19 3
4 5 12 3 20 4
5 6 13 12 21 4
6 9 14 1 22 10
7 44 15 60 X 55
8 5 16 13 Y 5
 
福祉と自閉症
・自閉症の様々な様態(75%は知的障害を並存)
・機能により必要性は異なる
知的障害者入所施設の60-65%は広汎性発達障害者(行動上の問題を抱えやすい)
知的水準に並行しない対人関係の問題がある
一部は本人のみが悩みを抱え、社会的に認知されていない
・福祉職員の専門性向上と経済的裏付け
発達障害者支援センターなどの活動
 
司法と自閉症
・了解できない行動上の問題
軽度の発達障害が認知されていない
裁判官が理解しがたい
「反省していない」と判断されやすい・・・重罰?
司法精神医学の専門家が熟知していない
・家裁調査官の段階で、その存在を認知
現在の矯正プログラムに乗りにくい
調査官を対象とした啓発活動
特定の治療システムが必要
 
措置入院を反復した例
症例 A.H. 男子 初診時 16才6月
・弟、妹、両親の5人家族
・定頸、始歩、始語ともに遅く、4歳時に療育手帳4度
・通常級に通うが、多動で集団行動困難
・母が一対一で対応して通学
・高機能自閉症とされるが、暴力事件あり服薬
・当時の主治医の指導で、中学は数日を除いて不登校
・通信制高校に在籍するが、ほとんど通わず退学
・母は過干渉で過保護、父は無関心
・虚言、恐喝、乱暴などが出現し、警察の補導の対象
・措置入院7回あるが、入院すると安定
 
17歳(1月)、17歳4月(1月)、19歳6月(2月)、19歳9月(1月)、20歳3月(1月)、20歳9月(5月)、21歳7月(3月)、21歳11月(1月)
・さまざまな作業所、アスペ対象の施設へ通うが、対人関係で破綻
・知的障害者入所施設でも安定するが、退所すると暫くして不安定となる
・家人が対応に苦慮
・父の登場(母との関係の改善)
・信頼できると考える人の言うことには素直に従う
・母との両価的な関係
IQ: 70(WISC-III)
診断:アスペルガー障害、行為障害
 
発達障害者支援法について
1 これまでの経過
・多くの公的扶助は知的障害者(児)が対象であった
・7〜8年前より、知的障害を持たない発達障害者への援助を求める運動が始まり、共感する議員の間で、議員立法を作ることが考えられた。
・厚生労働省が中心になり、文部科学省も加わって、議員、医療・教育・福祉関係者らによる検討が行なわれ、平成16年12月、発達障害者支援法が成立した。
 
2 内容について
・議員立法であり、理念法である
・対象者(児)は、「脳機能の障害であって、その障害が通常低年齢に発症するもののうち、ICDのF8(学習能力の特異的発達障害、広汎性発達障害など)およびF9(多動性障害、行為障害、チック障害など)に含まれるもの」とされた
・国民には、「障害者への理解と障害者の社会参加に対する協力」を求めている
・医療、保健、福祉、教育、労働の業務に関する部局へは“障害者支援の連携”を求めている
・国、都道府県および市町村に対しては、「発達障害に対する国民の理解を深めるように啓発活動を行なう」こととしている
・教育関係者には、“発達障害児(者)への教育的配慮”を義務付けている
・就労については、「就労機会の確保、学校における就労支援の準備をする」こととしている
・「自閉症・発達支援センター」は「発達障害者センター」として、法の対象とする障害に対象を拡大してその事業を行なうこととなった
・センターは「発達障害を対象とする専門医療機関の確保および支援体制の整備、医療または保健業務に従事する者に対して知識の普及・啓発に努める」ことになっている
・発達障害者への適切な支援のため、さまざまな分野で専門的知識を有する人材の確保をする
・発達障害の実態の把握とともに、原因の究明、診断および治療、支援方法などの調査研究を行なう
 
特別支援教育について
1)特別支援教育のながれ
従来は、知的障害の段階で分けて教育
知的障害養護学校(低機能)
知的障害心身障害児学級(中機能)
通常学級(高機能・アスペルガー)
情緒障害児学級(?)
通常学級にいる、対人関係に困難を示す子どもにどんな教育がよいのか
 
2)特別支援教育
・通常学級に居る、特別な指導の必要な子どもはどれ位いるのか
・そのための教育の場、対応の仕方
モデル教室の設置
・教育のみでなく、心理、医療との連携の必要性(専門家チーム)
 
3)特別支援教育対象者
・軽度の発達上の障害があり、学校場面で不適応を示す子どもたちへの教育
・最近の調査(文部科学省:2002.10.23)
学習障害的な著しい困難を示す・・・4.5%
行動面で著しい困難を示す・・・2.5%
対人関係面で著しい困難を示す・・・0.8%
 
特別支援教育を推進するための制度の在り方
1 教育の現状と課題
2 理念と基本的考え方
3 盲・聾・養護学校制度の見直し
4 小中学校における制度的見直し
5 教員免許制度の見直し
6 関連する諸課題
*義務教育特別部会の動向


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION