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4 講演
「学校における児童の安全対策と地域社会の連携」
文部科学省 戸田芳雄体育官
<はじめに>
 私は、只今、ご紹介いただきましたけれども、もともと小中学校の教員でございます。言葉のなまりでわかると思いますが、山形県の教員でございまして、小中学校に15年ほど勤務経験があります。現在、文部科学省で安全教育を担当しております。
 小学校で2,100名ぐらいの学校におりました。それは、山形県の上山という温泉地がありますが、そこに上山小学校という大きな小学校がありまして、一つの学年で340〜350から400名いるというところにいました。また、山間の非常に小さい学校も経験しました。
 その後に、山形県の教育委員会で7、8年おりまして、そのあと市の教育委員会に出まして、学校教育課長をやりました。その後、文部省に12年前きまして、間もなく満12年になるところでございます。
 私が文部省にきたのは平成6年で、当時は、安全は、だいたい交通安全の研修をやっていればいいんだ、あとは暇だよというふうにお聞きしたのですが、何と次の平成7年1月に阪神淡路大震災が起こりまして、文科省では災害安全と言っていますが、防災関係の仕事がものすごく大きくなりました。私も神戸には何回もおじゃまして、さまざまな先生方といろいろお話したり、子どもたちとさまざまなかかわりを持ったりというようにしながら、この10年をやってまいりました。
 さらに、平成11年には京都の日野小学校の事件が発生し、学校の校庭で、懇談会でお母さんが懇談しているときに小学生が殺されてしまったという事件があり、平成13年には、附属池田小学校の事件が起こってしまった。そして、模倣、類似の事件がたくさんありました。そういうことがありまして、最近、防災、防犯の内容が非常に広がってきました。
 ここのところも、そんな事情で大変忙しいところですが、警察庁とは常に大変お世話になって連携しておりますので、ぜひ話をしてくださいということでまいりました。お役に立つかどうかわかりませんが、文部科学省で今はこんな考え方でこんなふうにやっています。学校の先生方とか教育委員会にもこんなふうに指導していますということで、実際に私が担当者として、いろいろなことをやっていますので、その一端でもお聞き取りいただいて、各都道府県等で、特に防犯ボランティアなどの充実についてぜひご尽力いただければ、子どもたちのためにも役に立つのではないかなと思っております。よろしくお願いいたします。
 
<文部科学省の取り組み>
 ちょっとPRだけしておきますが、実は附属池田小学校の事件があって、そのときには先生方が本当にパニックで、迅速に救急車すら呼べなかった。あるいは電話連絡すらもできなかったということで、大変な大失態だと遺族の方、その他の方々からお叱りをいただきました。やはり、そんなことは学校では起こらないという前提でそれまで日本の社会は成り立ってきたわけですが、そういう前提が崩れてしまった。では、二度と同じようなことは繰り返さないようにしようということで、そんなときにどのように対応したらいいのかというときになかなか具体的な案が思い浮かばない。そこで、モデルというか、参考になるようなものを作ろうということで作ったものが、この「学校への不審者侵入時の危機管理マニュアル」です。
 これは、各学校に5冊ぐらいづつ、国公私立の幼小中高にすべて配布したものでございますが、これをもとにいろいろな研修とか訓練をしたり、マニュアルそのものを作ったりしてくださいというお願いしているものでございます。皆さんにおあげできるほどあればよかったのですが、残念ながら私の手元にございません。これは(独)スポーツ振興センターというところで、300円程度の廉価でカラーページのものを頒布しています。
 ここで、学校における不審者への緊急対応の例ということで、これは目次です。目次をフローチャート式にわかりやすくしてB2のポスター判にして、学校にこれを張れるようなかたちにして1冊、1冊に付録として付けています。それを見ながらやれば一応のことはできるのではないか、バタバタしないで済むのではないかということから作成しました。もちろん一番重要なのは、そういうことが起こらないように事前の備えをしておくこと、予防こそが最大の備えだということをこの本で書いています。
 ただ、そうは言っても不審者が侵入する可能性は否定できませんし、いろいろな事件、事故などが起こりますので、やはりそのときの対応の仕方にっいては基本的に覚えておかなければいけないし訓練しておかなければいけないということで、このようなものを作っております。
 それからほとんど同時に作ったのですが、「学校の安全管理に関する取り組み事例集」ということで、これも文部科学省の著作物です。独立行政法人のスポーツ振興センターというところで有償で頒布しておりまして、ホームページなどにも載っています。ここには「不審者浸入時の危機管理を中心に」というふうに副題が書いてありますが、簡単に言えば、学校の敷地内とか校舎内だけではなくて、登下校であるとか地域の安全を含めた取組み事例について、ほかの学校でも参考にしてほしいというのを、紹介しています。この中に実は、今日の防犯ボランティア的な活動を、保護者だったり高齢者の方々だったり、地域の多くの方々がやっている例というのは結構ございます。そういうふうに、学校や子どものために地域の方々のお力をぜひいただきたいということで進めております。これが文部科学省の防犯関係で出している二つの資料です。
 このような資料作りの他に、各都道府県に平成14年度から、地域ぐるみの安全を目指したモデル地区事業を警察庁のご協力でやらせていただいています。モデルになったところは大変熱心にやるのですが、そうでないところとか、あるいは事件、事故がまだ発生していないところは、うちの学校はまさかそんなことはないだろうということで、その「まさか」が心配です。地域によっても温度差があり、同じ地域でも学校によって温度差があって、取り組みにずいぶん違いがあるというようなことがありまして、そこの差を埋めていかなければいけないということが、今課題になっております。そういう中で、私のレジュメを準備させていただきましたので、大まかに要点だけお話しさせていただきます。
 
<学校における子どもの安全対策と地域社会との連携>
 「学校における子どもの安全対策と地域社会との連携」ということでございますが、ここでは、学校というのは安全でなければいけない。やはり、子どもたちが学習したり遊んだりという中で、1日7時間、8時間、あるいは部活などをやるともっと長い時間を子どもたちが生活する場所でありますので、学校というのは当然安全な場所であるべきということが前提になっておりますし、そういう考え方で今までも進めてはいたわけです。しかし、どうしてもこれまでは通常、階段から落ちてけがをするなとか、跳び箱や何かをやってけがをしないようにというところが中心で、あとは登下校中の交通事故などに気をつけるということが一般的でした。今のような犯罪の被害に遭うというのは、そんなに大きな内容とはなっていなかったわけです。
 それが、先ほど申し上げたような経緯でどんどん深刻な状況になってきたということがありまして、そのためには日頃の安全管理、安全教育を含めて、学校でできることを学校でやる。ただし、学校の先生方が学校の中だけ守ったとしても、子どもは登下校しますからその通学路のなかでの危険ということでは、例えばクラスに40人の子どもがいれば、担任が40人を一人ひとり皆を送り迎えするわけにはいかないわけです。そういうことも含めて、子どもたち自身も安全について危険なところとそうでないところをちゃんと判別したり、あるいは不審者とそうでない人を判別してそれに近づかない、危険を避けるという能力も付けなければいけない。それから立正大学助教授の小宮先生の地域安全マップの講義で触れたと思いますが、例えばあのような教育をする中で、子どもたちに犯罪の被害に遭いやすいところとそうでないところはどんなところかを教える必要もあります。
 そうは言っても、子どもというのはまだまだひ弱です。ですから、そういうときにはやっぱり、例えば防犯ブザーであったりとか大声であったりとか、そういうもので近くの人の応援をいただきながら助けてもらう。「子ども110番の家」であったり、地域の方々のお声がけであったり、あるいは監視の目であったりということでご協力をいただかないと、子どもの安全というのは守れないというのが前提です。
 「地域ぐるみで」と言うと、附属池田小学校の事件の起こったあと、ずいぶんマスコミの方などから学校は責任逃れをするのかと言われましたが、そうではないということを説明しています。やはり、学校や子どもの安全とか安心というのは、地域の安全、安心が基盤になって確立できるものだ。だから学校では確かに、その附属池田小学校ではいろいろな不手際がありまして、それは大変率直におわび申し上げますけれども、そういうことが二度と起こらないように、文部科学省としても教育委員会等と協力してがんばります。我々の悪口などはいくら書いても結構ですけれども、子どもは先生方だけで守るもので学校だけが悪いという非難のみに終始するのはやめてほしいと申し上げていました。原点として学校や子どもを守る、特に子どもを守るためには学校の先生方と保護者と地域の方々、それから地域に大きく影響を与えるマスコミのあなた方もぜひ協力してほしいと説得しました。少し経ってから、学校に対する批判のみの論調は少なくなり、今後の課題を明らかになるものに変化していきました。
 その後、優秀なよくやっているところなどをテレビなどで報道してくれたり、新聞などでも評価してくれたりしています。まだまだ取り組みは不十分ですが、少しずつよくなってきているのではないかと思っています。やはり、学校は安全であるべきであるし、子どもたちの安全は確保しなければいけない。そうすると、子どもたちの安全を確保するためには、先生方はもちろん学校でやるべきことをしっかりやってほしいと、今、はっぱをかけています。資料も作っています。地域ぐるみのモデル事業も継続して、拡充しながらやっています。
 そして地域学校安全指導員(スクールガードリーダー)という、制度までいっていませんが新しく事業を起こしまして、各学校でやっているボランティアの方々の安全を守るためにも、どんなふうなやり方でどんなことに気をつけてやってほしいかなどということについて、この方々に指導をお願いしています。それを今年度から始めまして、1都道府県が予算上では二十数名ぐらいずつということで、合計1,200〜1,500ぐらいの方をお願いして、各校区のボランティアの方々のご指導などをお願いしているというのが、現状でございます。
 それから施設設備等については、今、予算が非常に厳しい折なのでなかなか難しいのですが、地方交付税の積算の中にも、防犯にかかわる施設設備とか、そういうものが買えるような積算をしています。ただ、それを買うかどうかは地方の自治体の裁量によります。そういう財政的な支援などもやっていますし、充実していかなければと思っています。


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