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ニュージーランド視察報告書

 事業名 犯罪被害者に対し直接的支援を実施するための人材育成事業
 団体名 被害者支援都民センター 注目度注目度1


1)−(1)ニュージーランドの犯罪被害者支援に関する法制度
同志社大学 奥村 正雄
I はじめに
 ニュージーランドは、1963年10月に世界で初めて1963年犯罪被害者補償法(The Criminal Injuries Compensation Act 1963)を制定して翌年1月1日から同制度を施行し、犯罪被害者に対する経済的支援の先駆けとなった国であり、その後も多くの先進的な犯罪被害者支援制度の導入を図り、また、様々な改革を経て、こんにち犯罪被害者対策先進国の一つとなっている。
 種々の支援対策の中でも、犯罪被害者補償制度のほか、刑事手続における犯罪被害者の保護対策として、1987年犯罪被害者法(The Victims of Offences Act 1987)に続き、2002年被害者権利法(The Victims' Rights Act 2002)が制定されるといった法整備が図られている。さらに、近時、世界的に修復的司法の問題が大きな論議を呼んでいるが、同国では、裁判所が関与した形態の修復的司法のパイロットスキームが実施され、その成果が注目されている。
 以下では、被害回復と刑事手続上の被害者保護の点を中心に、今回の視察調査で得られた情報、および文献資料等から得られた知見を基に、同国における犯罪被害者支援に関する法制度について、若干の紹介を行うことにする。
 
II 被害回復の制度
(1)災害補償制度
1. 犯罪被害者が被った犯罪被害の経済的救済は、本来、民事賠償制度によるのが原則であり、後述するようにニュージーランドを除いて、基本的にどの国においてもそのようなシステムが確立している。もっとも、現実には、加害者の資力不足等の事情から勝訴しても賠償金がとれないこと、刑事事件とは別に民事訴訟を提起し、しかも刑事手続とは別個に新たな証拠に基づき訴訟を提起する必要があるため被害者側の負担が大きく、また訴訟遅延があるなどの事情により、同制度により救済される犯罪被害者は少なく、その実効性が乏しい現実があるのも世界的に共通の現象であろう。
 こうして、民事賠償制度から取り残された犯罪被害者は泣き寝入りするしかなかった状況に風穴を開けたのが、イギリスの刑罰改良家であった、M.フライ女史(M. Fry)であった。フライは、1957年に国による犯罪被害者補償制度の必要性を説き、民事救済を受けられない気の毒な犯罪被害者に対して国が社会を代表して被害補償を行うことにより、経済的に支援するとともに、犯人に対する復讐心を緩和することが可能であると考え、法制度化のロビー活動を展開した。これによりイギリスでは、1964年8月1日から「要綱」(scheme)として犯罪被害者補償制度(Criminal Injuries Compensation Scheme)が発足した(1)
 これに先立ち、コモンウェルスの一員であるニュージーランドは、民事賠償請求訴訟の実効性が乏しいことやイギリスの動向も踏まえ、いち早く同年1月1日に法制度として同制度をスタートさせた。その後の展開は、最も影響を受けたイギリスだけではなく、他の国とも異なる独自の経済的支援対策を講じていくことになった。
 
2. ニュージーランドの犯罪被害者補償制度は、労災補償型の性格を有し、労災補償レベルの補償を国が犯罪被害者に補てんするという形態をとった(2)。その後、1967年のウッドハウス委員会が、交通事故や労災等の被害者救済の見直しの過程で、犯罪被害も労災等と同様の災害として位置付け、無過失の災害補償制度の創設を勧告した。これを受けて、同制度は、これらを包括する補償制度の中に統合されることになった。1972年災害補償法(The Accident Compensation Act 1972)により、災害補償公社(Accident Compensation Corporation 以下、ACCと略称する。)が設置され、犯罪被害は「災害による人的被害」として国による補償対象となることになった。災害補償給付の財源は、強制加入の国民災害保険制度による。これにより、被告人の責任の有無を問わず、生じた犯罪被害も他の原因に基づく被害と区別なく災害として取り扱われ、補償される。そのかわり、懲罰によるダメージ以外の人的被害に対して民事賠償訴訟を提起できないことになった。
 同法は、1973年と1974年と相次いで改正され、給付対象者に学生や未就労者、および海外からの旅行者も含めることになった。その後も、1982年、1992年に、補償対象犯罪の拡大や、補償範囲・補償額の改正が行われた(3)。そして、2001年に、現行の2001年被害防止・社会復帰及び補償法(The Injury Prevention, Rehabilitation and Compensation Act 2001)が制定されるにいたっている。
 
3. 現行法は、2001年9月に成立し、翌年4月1日から全面施行され、同日以降に発生した被害について補償対象としている。ACCによると、毎年N$1,400万を社会復帰、医療、週給補償のために支出している。その財源は、既述のように基本的に国民の強制加入による保険金であるが、その内わけは、雇用保険、所得税、自営業者からの保険、未就労者に対する政府からの拠出金、ガソリン税・自動車登録料等である。その他、これらの株式運用利益も入っている。
 現行法が補償対象とする客体は、原則的としてニュージーランド国民であるが、有職者であると否とを問わず、また、海外旅行中において受けた被害についても対象となる。また、外国からの訪問者が被害を受けた場合であっても、ACCが要求する基準を満たせば補償対象となる。現行法が定義する「人的被害」とは、身体障害または身体障害により惹起された精神的障害であり、後者には性暴力や虐待による精神的ショックも含まれる。ただし、感情を害した、ストレスを受けた、享楽感情が喪失したといった情緒的な影響は含まれない。人的被害が惹起される場合として、(1)職場、家庭、道路上において発生しうる事故、(2)就労中の通常の業務の過程から発生しうる疾病または感染、(3)医療事故(4)性暴力・虐待が挙げられている。
 一方、ACCが人的被害と認めないものとしては、以下のものがある。(1)疾病、(2)ストレス、感情の悪化、享楽感情の喪失等の情緒的な影響、(3)業務出張を除く、海外での治療費、(4)日常使用から生ずる歯の痛み、(5)医療事故や異常な程度に行動を要求された就労中の障害を除く、心臓疾患または大脳疾患、(6)加齢に伴って生ずる人的障害、(7)咳やくしゃみから生ずるヘルニア。さらに、ACCは、自殺や意図的な自傷から生じた障害については、治療を除き、何らの補償も行わない。
 こうして、犯罪被害者がACCに申請した補償請求が認められると、医療費、逸失利益としての週給の保障、障害が重大で長期の療養を要する場合の一時金ないし独立の手当の給付、病院等への交通費および入院費に関して援助が受けられる。なお、一時金として給付される給付金の多寡は、障害の程度により異なる。ちなみに、2004年7月現在では、最少額がN$2,602.73であり、最高額がN$104,109.06であった。また、死亡した場合の葬祭費用の最高額は、N$4,684.91であった(4)
 
(2)損害賠償命令
 損害賠償命令とは、刑事手続において、裁判所が有罪の被告人に対して被害者への損害賠償を命ずる制度であり、罰金と併科可能であり、罰金より優先しうるものであり、主として英米圏で採用されている。もっとも、ニュージーランドの制度は、イギリスの損害賠償命令(Compensation Orders)(5)、アメリカの損害賠償命令(Compensation Order)とも異なり、各国において制度の内容や手続等に若干の相違がみられる。
 ニュージーランドにおける損害賠償命令は、従前より個別法により類似の制度が認められていたが、1985年刑事司法法(The Criminal Justice Act 1985)によって現行制度が確立した(6)。同制度は、1987年刑事司法法、1993年刑事司法改正法等による改正を経て、2002年量刑法(The Criminal Sentencing Act 2002)により現行の形態となっている(7)。すなわち、同法12条は、損害賠償命令の言渡しの量刑が被告人ないし被告人の家族に不当な負担とならない限り、またはその他の特別の事情により言渡しが不適切とならない限り、裁判所はその言渡しを行わなければならないと規定している。同法32条はまた、従前において心理的障害または財物の喪失もしくは毀棄の場合に言渡しが制限されていたが、財物の喪失もしくは毀棄の被害を被った被害者がその結果として心理的・身体的障害または財物の喪失もしくは毀棄の被害を被った場合にも損害賠償命令の適用を拡大している。もっとも、裁判所は被害者が2001年被害防止・社会復帰及び補償法により補償を受けることができると判断した場合は、いかなる財産の喪失もしくは毀棄に対しても損害賠償命令を言渡すことができない。さらに、裁判所は、同命令と罰金刑の併科が適切であると判断したが、被告人の資力が乏しい場合には、同命令を優先させて言渡すことになる。
 一方、2002年量刑法は、裁判所が被害者側と被告人側との修復的な話し合いの結果を考慮することを義務付けている。すなわち、同法10条は、被告人が被害者に対して(謝罪、賠償、または労務もしくは奉仕等の実行を含む)修復措置をとったかどうかを考慮することを義務付けている。裁判所は、その修復的な措置が履行されたか、被害者側に受け入れられたかどうかを考慮しなければならない。このように、ニュージーランドの損害賠償命令は、修復的司法との関係が深い点が特徴である。
 なお、損害賠償命令の言渡し件数は、2003年度において、総計15,676件のうち、暴力事犯で1,531件(10.0%)、その他の身体犯で142件(3.4%)、財産犯で11,680件(23.8%)等であった。また、言渡し額は、2003年度において、総額N$18,781,015のうち、N$100以下が4033(25.7%)、N$100以上250以下が3296(21.0%)、N$250以上500以下が3002(19.2%)、N$500以上1000以下が2139(13.6%)、N$1000以上5000以下が2535(16.2%)、N$5000以上が671(4.3%)であった。
 従来、ニュージーランドにおける損害賠償命令の言渡し率が低く、その積極的な運用という面で問題があるとの指摘(8)がある。しかし、2002年量刑法は、損害賠償命令の言渡しの拡大のために、1985年刑事司法法28条が罰金の全額または一部を身体的・心理的障害を受けた被害者に対して支払うことを可能にするとしていた規定を廃止した。その結果、同命令の言渡し率は上記のように従前よりも増加している。


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