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付録
A1. 論文
 
A1.1 Etty R. Agoes(インドネシア・パジャジャラン大学法学部教授)
「「海を護る」の実現に向けた政治的意志、政策および制度的な枠組み―インドネシアの事例研究―」
A1.2 Sam Bateman(オーストラリア・ウーロンゴン大学海洋政策センター教授)
「「海を護る」概念の実現に向けた能力構築」
A1.3 Robert Beckman(シンガポール国立大学法学部教授)
「マラッカ・シンガポール海峡における協力体制の確立と実施」
A1.4 Chua Thia-Eng(東アジア海域海洋環境管理パートナーシップ(PEMSEA)地域プログラムディレクター)
「東アジア海域の安全保障:地域対話の枠組強化」
A1.5 John C DeSilva(インド海洋保全・海洋研究センター理事長/インド海軍退役中将)
「総合的な海洋の安全保障―政治的意志、政策および制度的な枠組み」
A1.6 John C DeSilva(インド海洋保全・海洋研究センター理事長/インド海軍退役中将)
「我らの海を救う−監視システムと環境管理」
A1.7 Zhiguo Gao(高之国)(中国国家海洋局海洋発展戦略研究所上級研究員)
「北東アジア海域の環境管理:統治問題と制度上のアプローチ」
A1.8 河野真理子(早稲田大学法学部教授)
「新たな概念「海を護る」に基づくアジア地域での国際協力の実現に向けて」
A1.9 M. M. Magallona(フィリピン大学法学部教授)
「プロジェクト計画:国際規制レジームの包括的かつ統一されたグローバルな海洋ガバナンスへの統合」
A1.10 奥脇直也(東京大学大学院公共政策研究部教授)
「アジア海域の海洋ガバナンスと情報協力体制の構築」
A1.11 Wilfrido V. Villacorta(ASEAN事務局次長)
「海を護るためのASEANイニシアチブ」
A1.12 Stanley B. Weeks(米国国際応用科学協会上級研究員)
「海上安全保障のための能力構築―アルバニアの事例研究―」
 
A2. 海外調査における面会者および収集資料一覧
 
「海を護る」の実現に向けた政治的意志、政策および制度的な枠組み
インドネシアの事例研究
Etty R. Agoes
パジャジャラン大学法学部教授
 
概要
 多くの国が「海の憲法」として認めた1982年海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)は、2004年2月までに沿岸国127カ国および内陸国17カ国が批准している。しかし、最初の署名国159カ国のうち29カ国がまだ同条約を批准していない。国連総会において、海洋法条約に従うことを確保するため、国内法を同条約の規定に一致させることについて、署名国への要請が行われたことを想起すべきであろう。
 
 2004年11月16日は、海洋法条約が発効してからちょうど10年目に当たる。1982年のUNCLOS第312条に基づき、すべての署名国は、同条約に対する具体的な修正案を国連事務総長に書面で提案できることになっている。そのため、この文脈において、海洋安全保障の新たな概念を、海洋法条約の包括的な規定を基礎として提案することが可能である。
 
 本論文では、国内法を海洋法条約に一致させるという事務総長の要請に対応するため、インドネシア政府が実行してきた国家レベルの取り組みを分析する。また、国の統合的な海洋政策がないために、分野横断的な方法で取り組むことの難しさを述べたい。
 
「海を護る」の実現に向けた政治的意志、政策および制度的な枠組み
インドネシアの事例研究
Etty R. Agoes
パジャジャラン大学法学部 教授
 
はじめに
 1982年の国連海洋法条約第4部に盛り込まれた群島国の制度の導入によって、インドネシアの特殊な地形の国際法による承認に対する同国の苦労が確認された。これにより、インドネシア群島内部の資源についても、同国の排他的権利が確認されたことになる。インドネシア語でtanah airは陸地と水という意味であるが、この言葉は同国にとっての海洋の重要性を最も的確に表現している。
 1982年の海洋法条約の実効性は、条約が拘束力あるものとなる点に依るところが大きいが、正式な批准を通して、実効性は最大限に達成され得る。この点を踏まえ、インドネシア政府は1985年12月31日、同条約への批准に関する国内法第17号の制定を決定した。同条約は未発効であったが、インドネシア政府はその実施方法を検討するだけでなく、自国利益のためにいかに有意義な法を用いるか決定しようとした1
 1982年の海洋法条約は、これまでに制定された条約の中で最も複雑な条約の一つといえる。同条約には基線の他、内水の様々な海洋管轄水域、領海、国際航行に利用される海峡、群島水域、接続水域、大陸棚、排他的経済水域、公海、そして国際的な海底区域(international seabed area)などに関する幅広い問題を扱っている。また、航行、漁業、海洋科学調査、海洋汚染、海洋の境界画定、海洋の軍事的利用といった、様々な活動をも扱っている。さらに、内陸国、地理的不利国、紛争解決に関する特別な規定も含んでいる。
 Friedheim氏によれば、1982年の国連海洋法条約とは2
 
 「・・・海洋を管理するための枠組み、あるいは骨格として位置づけることができる。海洋管理の基本構造や、実際の管理規則をそれらに従う者に委ねるがゆえに、これは憲法なのである。すなわち、同条約は、海洋の利用という重要な側面に関して、誰に責任があり、誰が決定する権利を有するかを述べている。」
 
 本論文では、こうした見解に基づき、「海を護る」という概念の実施のための政治的意志、政策および制度的枠組みが、1982年の国連海洋法条約の実施を通して成し遂げられうるということを提案したい。ただし、同条約の締約国の一つとしてのインドネシアの経験に基づくなら、包括的な国家海洋政策なくしては、実施へ向けた努力は複雑かつ困難なものであろう。
 
1 Agoes, Etty R., "Indonesia and the LOS Convention," Marine Policy, March 1991.
2 Friedheim, R.L., "A Proper Order for the Oceans : an Agenda for the New Century," in Vidas, D., Ostreng, W., (eds), Order for the Oceans at the Turn of the Century, Kluwer Law International, the Hague, 1999, as cited by Hinds, L., "Ocean Governance and the Implementation Gap," Marine Policy, 27 (2003) 349-356.
 
実施の問題
 同条約は長く複雑であるため、政策決定者や政策顧問は、この新しい海の法律を十分に理解するため、同条約の綿密な分析と精査を必要とする。同条約の実施は、立法者、執行者、行政者といった、異なった視点から関わる任務の性質を説明するため、法的、規制的、行政的、または協力的性質の活動を通して描き出される規定を基礎とし得るであろう。
 したがって、活動の一覧としては、新たな法制度を踏まえた上で、既存の活動を再検討中の異なった分野の様々な人が容易に利用できるものを作るべきである。多くの国は、政策決定と立法準備とにかかわらず、行政または組織の本質にかかわる重要な決断に直面するだろうが、そうすることで、いくつかの行政上の意味は、細部にまで取り扱われねばならない。実際に、政策と実施の問題の検討が着手可能であるという観点から、行政上の問題は、総じて活動の一覧に焦点を注いでいるとみなされるかもしれない。
 条約規定を検討しつつ、実施の活動は、以下の分類において達成することができるだろう3
1. 立法と規制:新しい法律や規制の導入、または既存の法律や規制の再検討など、加盟国が法的または規制措置を講じる可能性のあるすべての事案を把握する。同条約と一致させる目的において多くの場合、単に修正や改正を必要とするだけの現行の法律がある。また、すでにいくつかの課題に対応しうる他の国際合意事項に準じて採用された法律が存在することも考えられる。
2. 活動による規則:既知領域の利用国は、自国の法的課題や取り組む状況を確認するため、条約の様々な部や節を分類する必要がある。
3. 公表または告示:条約規定の多くは、法律や規制、情報の交換、報告書の公表、地図や海図の作成準備などに関する十分な公表と告示を求めている。したがって政策決定者は、法律や規則の制定、その他の対策の採用、協調的な性質を持つ様々な合意や協定への加盟といった自然の流れの中で、加盟国間で提供あるいは交換される情報の性質や領域、形式を決定しなくてはならない。
4. 監視と執行:法的、規制措置を伴う条約の条項と、この観点から推測される結果の把握。政府もまた、監視、統制、執行の必要性と能力を踏まえてこの状況を検討すべきである。
5. 行政的、組織的な要請:政策決定のためのメカニズム、立法やその他の方策を準備するプロセス、既存の局や部署間での機能の配分、これらの目的に関連する全分野の調整、といった問題を検討する。幾つかの場合においては、状況を正当な理由として包括的な見地による取り組みを扱う必要があり、共通の必要性に関しても、様々な分野別の必要条件を検討する必要がある。漁業行政、環境保護、海上の安全、海洋科学調査、海洋技術の発展など適用可能な分野では、共通の要素を認識するための試みが実施された。
6. 他の諸国または国際機関を通じた協力: 立法上、行政上の活動の意味を伴った、他の諸国との直接的な、または国際組織を通じた協力的な活動の可能性の指摘。かかる協力は、例えば、海上の安全、生物資源、海洋環境、海洋科学調査および海洋技術の分野に求められる。
 
 これに加え、同時に考慮されるべき複数の科学技術的な側面がある。条約規定の多くは、海洋分野における科学技術的な能力の効果的な応用と、発展途上国の能力を高め改善するための国際協力に左右される。例えば、海図や地図の整備に取り組む人々は特別な技術的能力を必要とする。
 
3 活動一覧は、1982年の国際海洋法条約がまだ条約草案だった頃に行われた英コモンウェルス局の研究に基づいており、これは以下の文献に収録されている。E. D. Brown, "The UN Convention on the Law of the Sea, 1982 : A Guide for National Policy Making, Legislation and Administration," Book 1, Commonwealth Secretariat, London, March 1987.
 
海洋政策の必要性
 Hinds氏によれば、海洋管理のための制度的な枠組みは、次の2つの柱に基づき作成された。(1)地域的な要素を伴った国連システムに集約されたグローバルな計画と、(2)分散した自立国の特定の活動を代表する国家の活動。4同氏はまた、数十年におよぶ国連計画でも特に、主権国家の管轄権下の分野とそれらの活動は、期待された成果を生んでいないと述べている。この失敗は「海洋に関する世界委員会」(World Commission on the Oceans)の1988年の報告書によって次のように認識されている5
 
「(1)国際レベルでの調整と共同プログラミングに対する国際的なメカニズムが脆弱なことは周知の通りで、運用的というよりも抽象的な性質であることもあり、(2)多くの開発途上国政府や過渡期にある国家が、自国民の経済的福祉の重要性を認識しても、こうした国家は未だに海洋の持つ可能性を利用できる立場にはない。」
 
 国際的なレベルでは政策立案は国際協力に不可欠であり、多くの場合、国連食糧農業機関(FAO)や国際海事機関(IMO)、国連教育科学文化機関−政府間海洋学委員会(UNESCO-IOC)、国連環境計画(UNEP)などの国際機関を介した協力が行われる。東南アジア諸国連合(ASEAN)など地域レベルでの協力の例は少なく、海洋犯罪や海賊行為、テロ行為など“逼迫した状況”の場合に限られている。インドネシア政府は、ASEAN加盟国との海洋における協調という提案課題を検討中である。
 国内レベルでは、政策決定は通常、関連する政府機関の合法的な指示の範囲で実行される。機関幹部は、政策決定の過程において重要な役割を果たしているが、彼らこそが、政策決定や活動プログラムの実現に向けた合法的な指示を各機関に与えることができるのである。当然のことながら、このような取り組みは、非常に分野ごとのアプローチを採用することからして、その成果は総合的な国家政策への連携に極めて限定的である。オーストラリア、カナダ、韓国、アメリカ合衆国など一部の国家では、国内海洋政策を策定するなどイニシアティブを発揮している。
 
4 Hinds, L. supra, n.2.
5 World Commission on the Oceans, The Oceans Our Future, Cambridge University Press, Cambridge, 1998, p. 147-152, as cited by Hinds, L., supra, n.2.
 
インドネシアの事例
 新しい海の憲法となる1982年の国連海洋法条約が成立した際、インドネシア政府は新しい法律の実現に向け革新的な方法を講じた。1982年以前、海上での活動に関するインドネシアの法律と規則の大半は、1958年のジュネーブ海洋法4条約に基づいていた。
 インドネシアでは1982年の同条約を批准する以前、海上活動に対処する多くの法律や規則が存在していた。その大半は植民地時代に制定されたものか、あるいは、独立後に1958年のジュネーブ4条約に基づき制定したものである。しかし1980年、インドネシアは、1982年の同条約実現に向けた初めての試みと位置づけられる動きを見せた。それは、200カイリ排他的経済水域を強く主張し、インドネシアの排他的経済水域に関する1983年の法律第5号を成立させることであった。
 インドネシア政府は、同国の領海外においても海洋生物資源の保護が必要であるという根拠に基づきながら、自国民のたんぱく質源の供給を確保するためにも、自国の主張を曲げない姿勢を余儀なくされた。政府の開発プログラムに沿って、国家の繁栄のために海洋生物資源を理性的に管理する必要性も生じている。インドネシアはまた、加盟国の慣行からも明らかなように、排他的経済水域はすでに国際慣習法の一部になっているという申し立てが存在することも承知している。
 群島国家として発展する目的での国土の利用、計画、規制に関して規定する目的の他、国土以外の場所においてもインドネシアが自然資源の管理のため主権に基づいて自国の法律を行使することや、国際法によって規制される他の合法的権利に基づいて権利を行使することが可能なように、インドネシアは1992年、以下の原則を規定する空間計画に関する法律第24号を成立させた6
 
1. 計画: 発展プログラムの構築と決定によって構成され、各プログラムの行動計画の形成を含み、
2. 活用: 許可証の発布、評価、実際の空間利用に基づき、
3. 規制: 監視と規制に基づく
 
 1996年、インドネシア政府は自国の領海に関する新しい法律第6号を成立させた7。これは1960年の法律第4号を改正したもので、1982年の国連海洋法条約で具体化された原則が明記された。この新法は基本的に、領海幅12カイリといった古い原則を守っている。基点と基点を結ぶ直線基線の古い規定は、新しい直線群島基線によりしかるべく調整された。新しい基線や領海、排他的経済水域の外側の限界、インドネシア隣国との間で未だに画定されていないか、もしくは交渉中の特別な線を示すため、新法にはイラスト地図が附属される。新しい基線は、2002年の政令38号の制定によって決定された。
 通過通航権、群島航路帯通航、アクセス・通信権などのいくつかの新しい概念も包括された。無害通航権の規定は適宜調整されるもので、2002年の政令36号では更に規制された。通過通航権はマラッカ海峡、シンガポール海峡のみが適用対象となることから、この権利に関する追加規制は、インドネシア、マレーシアおよびシンガポールの沿岸三国での事案になる。群島航路帯通航の新たな権利が、南北あるいはその逆方向の群島航路帯にのみ適用されることは、インドネシアの合意を得てIMOによって採択された。外国船籍の船舶や航空機の権利は、2002年の政令37号で規制されている。
 漁業を含む海洋資源を最適に活用することを目指し、インドネシアは関連する国内法を整備する努力により、その可能性を追求してきた。同政府は、1985年の国内法第17号の制定、1985年の漁業に関する法律第9号の施行、そして前記したインドネシアの領海に関する1996年の法律第6号に準じて国連海洋法条約を批准した。この他、海上輸送に関する1992年の法律第21号や、1997年の生物環境管理のための基本規定に関する法律第23号も制定している。
 
6 State Gazette No. 115 of 1992, Additional State Gazette No.3501 of 1992.
7 State Gazette No. 73 of 1996, Additional State Gazette No. 3647 of 1996.
 
幾つかの特定の問題
 特定の問題としては、いわゆる違法漁業や海上における海賊行為、武装強盗などがある。これらは地域的にも国際的にも懸念される問題として表面化している。
 
違法漁業
 過去数年、海洋や漁業の発展が抱える問題の一つに、インドネシア領海および排他的経済水域における違法漁業が挙げられる。今日、水産資源の搾取は著しいが、それにより得られる利益は期待に達していない。この理由として、現在インドネシアの排他的経済水域での漁業を認可されている約7千隻のインドネシア船籍の船舶のうち、多くが東南アジア諸国や、それ以外の地域の外国企業の所有となっていることが挙げられる。外国船籍の船舶への許可移譲の結果として、インドネシア政府の年間損失額は13億6千万米ドル以上に達すると試算されている。この他、FAOの2001年の報告書によれば、違法漁業による水揚げ高は、年間150万トンにも達するとされる。
 
 自国領海における諸問題に対処できる国力を強化するため、インドネシア政府は海洋漁業省(Department of Marine and Fisheries)を設置した。また、違法漁業などの問題に対処するため、以下に挙げる努力も行っている。
 
1. 地元の船、特に小規模な漁師が所有する船の性能を強化
2. 外国船籍の船舶が絡む複数の事例に対し、国内法や国際法に沿って法的制裁を課すため、法の執行と漁業規制を強化
3. 外国船籍の船舶へのライセンスに関する新たな規制の発行
4. 違法漁業が発生するおそれのある特定の海上地域において警察の巡視を支援するため、船舶監視システム(VMS)によって支えられる監視コントロールシステム(MCS)の実現や、レンタルの衛星によって動作する総合情報システム(CIS)を活用した安全保障の強化
5. 海事漁業監視局(Directorate General of Surveillance on Marine Affairs and Fisheries)や、入国管理局(Directorate General of Immigration)、税関局(Directorate General of Custom)、租税局(Directorate General of Taxation)、検事当局(Attorney General Office)など関係するインライン組織における協力の強化
 
 インドネシア政府は最近、違法漁業に対しての一層厳しい制裁を課すことを盛り込んだ漁業に関する2004年の新法第31号を成立させた。海事漁業省(Department of Marine Affairs and Fisheries)はこの実現に向けた関係組織との協力を必要としている。
 
海上における海賊行為、武装強盗
 近年、インドネシアの管轄権水域において複数の海賊行為が発生しており、その大半は、船舶を狙った武装強盗か、未遂も含む襲撃行為であり、停泊中あるいは海上航行中の船舶に対して実行される。インドネシア領海が広大であることや、最近の経済危機の影響があいまって、船舶に対する武装強盗は急増している。この原因として、警察当局の人員不足や、領海監視や規制のための技術設備の不足が挙げられる。
 国内法の整備という点においてインドネシアは、1985年の法律第17号を制定することにより1982年の国連海洋法条約を批准している。海賊行為に対する法律、特に、法の執行に関して、インドネシア刑法は“海賊行為”と“船舶に対する武装強盗”を438〜443条、および447〜451条において規定している。加えて、“海賊行為”は、1939年の領海法令(Territorial Waters Ordinance)の、特に第13条と14条においても明記されている。自国領海における航行の安全について、インドネシア政府は、MSC/CIRC 622/Rev.1や、MSC/CIRC 623/Rev.1など関係するIMOの通報(IMO Circulars)において、各政府組織、船舶所有者、運航者、船長や船員に対する通達を出している。さらに、外国人犯罪者の拘束を支援するため、マレーシア、フィリピン、タイ、オーストラリアとの間に犯罪人引渡条約を締結している。
 特に法の執行における国力を強化するため、インドネシア政府はインドネシア海軍との協調の下、海上安全保障調整機構(Maritime Security Coordinating Agency, BAKORKMLA)と称する部内間の組織を設置した。これは、国家警察や海上通信局(Directorate General of Sea Communication)、入国管理局(Directorate General of Immigration)、税関局(Directorate General of Customs)、租税局(Directorate General of Taxation)、国家捜査救助機関(National SAR Agency)、および検事当局(Attorney General Office)によって構成される。その他、対海賊行為の部隊が配属される指令管理センター(Command and Control Center, PUSKODAL)をバタム島に設立した。
 安全保障と安全の理由から、「海上警察」(POLAIRUD)、インドネシア沿岸警備隊KPLP(Indonesian Coast and Sea Guard Unit)が、全国の各地区本部や港湾に配属された。さらに、インドネシア政府は、マレーシアやシンガポールなどの隣国と協調して、マラッカ・シンガポール海峡における組織的な対海賊行為パトロールを実施し、同海域における海賊行為を激減させる一定の効果をもたらした。
 監視の目的としては、日本の国際協力機構(JICA)の援助を得て、タンジュン・ウバン、バタム、ドマイ、ブラワンおよびジャカルタに「海上安全情報システム」(Marine Safety and Information System: MSIS)を設置した。
 特にマラッカ・シンガポール海峡における航行の安全を維持強化することを考慮して、インドネシア政府はすべての国家に対し、1982年国連海洋法条約の第43条の実現を検討するようアピールしている。
 前記した二課題に対処するためのインライン組織間の協調という形における分野横断的なアプローチは、奏功しているとみることができる。しかし、その他の事案については未だに、解決が容易でない多くの分野横断的な課題が残されている。
 インドネシアはかつて、国家発展のための基本的なガイドラインを採用していた。それは、政府内の各部門における発展プログラムで、通常は5年計画であった。そのようなガイドラインは、現在は存在せず、代わりに各分野の組織が、独自の発展プログラムを有している。こうしたアプローチが競争問題を生じることは容易に想像できる。果たして国内の海洋政策がそのような問題の答えになりうるだろうか。
 
(2004年11月25日 バンドン)


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