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吟剣詩舞の若人に聞く 第63回
野澤美裕さん
 
野澤美裕さん(八歳)●新潟県南魚沼郡在住
(平成十五年度全国剣詩舞コンクール決勝大会詩舞幼年の部準優勝)
父:野澤宗翔さん(神宗流宗峰館副館長)
母:野澤宗優さん
師(祖母):岡村宗峰さん(神宗流宗峰館館長)
師(宗家):林神宗さん(神宗流総本部二代宗家)
手のひらに書いた人の字を呑んで、みごと準優勝
 西高東低といわれる剣詩舞界にあって、東日本から初出場で準優勝を勝ち得た野澤美裕さん。今後の成長が期待される美裕さんに、ご家族やご宗家を交えながらコンクールのこと詩舞のことなどをお聞きしました。
 
――美裕ちゃん、準優勝おめでとう。感想はありますか?
美裕「はい嬉しいです」(笑)
――何歳から詩舞をしているの?
美裕「え・・・」(笑)
「(写真を見ながら)この写真に写っているときは、一歳の時ですね。お祖母様が着物を着せて、扇を持たせて撮った写真です」
――小さい頃から習っているね?
美裕「はい」(笑)
――ご宗家と、こちらの経緯などをお聞かせください?
「はい。私の母が初代神宗流の宗家でございましたが、この十日町とご縁がありまして、三十年前にこちらに教場を開きました。それから四年後ぐらいに、母の生徒さんである岡村先生が六日町の方に教場を開かれ、両方で月一回教えるようになりました。平成十年に二代目を継承しましたが、それ以前から母の代替わりとして、私が月に一度、東京からこちらへ教えに来ています」
――ずいぶん長いお付き合いになりますね?
「そうですね」
――美裕ちゃん、詩舞は楽しいですか?
美裕「はい」
――他にもいろいろお稽古しているね?
美裕「エアロビクスにバレーに社交ダンス、算盤に勉強の塾です」(笑)
――すごいね、毎日忙しいね?
美裕「はい」(爆笑)
――他のお稽古と比較して詩舞は大変ですか?
美裕「とても難しいけど、面白いです」
――どんな点が難しいですか?
美裕「ウルトラCがあるところです」
岡村「扇のことでしょうね」
「扇の難しい扱いのことを、ウルトラCといっているのです」(笑)
――お稽古は厳しいですか?
美裕「厳しいときもあるし、ほめられるときもあります」
――いま教えているのは岡村先生ですか?
岡村「はい、宗家は月一度なので、その間を補っています」
――教えていて美裕ちゃんはいかがですか?
岡村「わりあいスムーズに行っていると思います。子供だから時々、反抗的になりますけど」(笑)
――ご宗家から見た美裕ちゃんの資質というのは?
「私が振り付けを通しで教えても、黙ってついてきますね。手を上げれば手を上げるし、足を引けば引きますし、目に映った形を自分の形にすることができます。その反応の早さには驚きますね。だから説明もなく、三、四回舞えば振り付けがつながります。ひいき目といわれても、私は天才少女だと思います」(笑)
――美裕ちゃんの長所と短所はなんですか?
岡村「宗家の言うことはその通りにやるのですが、私の言うことは聞きません(爆笑)。そこが短所ですね(笑)。でも、なぜか言ったことをメモしているのです。それにはビックリしました」
「初めのころ、注意する点を私が書いていましたが、その後、二人で書く癖をつけ、それが今では自分で書くようになったのでしょう」
――コンクールは初めて出たの?
美裕「全国大会は初めてです」
「東京都総連盟で二回優勝して、今年東日本地区大会で初めて優勝して全国大会に出ました」
――初めてで全国大会の準優勝はすごいね?
美裕「・・・」(笑)
――当日はご宗家も会場におられたのですか?
「決勝のときは福井にいまして、連絡が入ったときは驚きましたよ。この子のお父さん野澤宗翔さんが平成七年一般一部の剣舞四位に入って以来のことですから。うちの流統としてはそれが最高位でしたから、嬉しくて飛び上がりました」(笑)
宗優「私は会場にいましたが、名前を呼ばれたときは嘘でしょ、と思いました」(笑)
岡村「私は何かの間違いだろうと思いましたよ」(笑)
 
準優勝を喜ぶ(左)より野澤宗優さん(母)、林神宗さん(宗家)、野澤美裕さん、師であり祖母である岡村宗峰さん
 
――でも舞っているのはご覧になっているので、期待もあったでしょう?
岡村「どうかな、という感じでした(笑)。うまくいけば入選できるか、でも初めてのことでしたから、複雑な心境でしたね」
――コンクールのような大きな舞台に出て、ドキドキした?
美裕「ドキドキするときは、手に人の字を書いてそれを飲み込むの」(爆笑)
――誰にそんなことを教わったの?
美裕「保育園のとき初めて舞台に出て、その時、保育園の先生に教えてもらいました」(笑)
――性格的には物怖じしないタイプですか?
宗優「本人もドキドキしてはいると思うのですが、舞台の袖に立つと覚悟が決まるというのか、いわゆる本番に強いタイプだと思います。決勝大会では私が舞台の袖までついていくことができなくて、大丈夫と聞いたらウンと答えて、さっさと行ってしまいました」(笑)
――ついて来てもらわなくても平気なのだ?
美裕「はい」(笑)
――お母様は最高どこまでいかれましたか?
宗優「東日本大会で三位です」(笑)
――これまでは家族の中で一番上ですね?
宗優「はい・・・」(爆笑)
――友達は準優勝したことを知っているの?
美裕「はい、教えました(笑)。みんなすごいといってくれました。先生にはまだ言っていません」(笑)
――なぜ言わないの?
美裕「だって恥ずかしいから」(笑)
――コンクールの吟題を選ばれたのはご宗家ですか?
「まあ詩のイメージから選ぶ場合もありますが、今回は指定吟題をこの子に聞いてもらい、この吟がいいといったものを選びました」
――吟を聞いてわかるの?
美裕「・・・」(笑)
「感覚的にわかるのではないでしょうか」
岡村「よく乗れるものを選んだのね?」(笑)
「私が指定吟題を聞いたとき、『胡隠君を尋ぬ』の前奏の音のイメージがこの子に合っているとは感じていましたね」
――振り付けで気をつけた点はございますか?
「大人がやっても難しいだろうと思う動きを入れても、この子ならできますので、特に気をつけたことはありません。ただ、細かな手直しはお祖母様にしていただきましたし、やはり女の子なので強いものというよりは、柔らかな感じにしようと思いました」
 
林神宗宗家から指導を受ける野澤美裕さん
 
――今後、どのように指導しようと思っておられますか?
「準優勝をいただいたので、今度は優勝を狙いたいですね(笑)。それにともなって、雰囲気は持っているので、技術的な面をもっと身に付けさせようと考えています。また、この教室の先輩のナオちゃんが都合でちょっと離れていたのですが戻ってきてくれたので、二人でお稽古ができるようになるから、この子の励みにもなると思います」
――こんどは優勝したい?
美裕「したいけど、優勝したら三年休まなければならないから、それも嫌だな」(爆笑)
――ずっと二位で行きたいのだ?
「初めて聞いたね。ずっと二位で行き、少年の部に移る前の年に優勝したいのだ」(笑)
――コンクールの前に気をつけられたことはありますか?
宗優「東日本大会に初めて出たとき風邪をひいてしまいましたが、それを押して出場した経験がありましたから、昨年は絶対に風をひかせないように気をつけました。また、転んで怪我をよくするので、そんなことにも気をつけました」
――熱が出ても出場したの?
美裕「出ないと優勝できないでしょ」(爆笑)
――今年も出るの、お稽古している?調子はどう?
美裕「はいしています。調子はまあまあ」(笑)
――今回の吟題は何ですか?
「『月夜三叉口に舟を泛ぶ』です。美裕ちゃんには合っていると思います」
美裕「すごく難しい、ウルトラCが入っているから」(笑)
――美裕ちゃんに何かアドバイスをお願いします?
宗優「見た通り、身内ですから今日までダラダラと来ていますので、これからは節度を持って指導していきたいと考えています。ご宗家の、親子でありながら厳しい師弟関係を見ており、私もそれを学ばなければいけないと思っています」
「小学校の間は続けてくれると思いますが、中学に入るときくらいから、果たして勉強やクラブ活動と両立できるか少し心配ですが、あと四年は時々眠ってもやると思いますから(笑)、その間にしっかり技術を身に付けさせたいと思っています」
――美裕ちゃん、最後に一言お願いします?
美裕「優勝目指してがんばります」(笑)
――優勝したら出られなくなるよ?
美裕「剣舞があるからいいの」(爆笑)
――今日はインタビューにお答えいただき、ありがとうございました。ぜひ優勝してまたインタビューさせてください。


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