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(2)生物生産量測定実験による深層水の生物生産特性
1)実験方法
 次の方法で、上記「(1)沖ノ鳥島海域の栄養塩類特性とサンゴ礁造礁の可能性」でサンゴ礁を活性化する要素として考えられた礁外深層水の生産特性を検討した。
A.実験・培養サンプルの採水時期及び培養期間等
 表3には、生物生産量の測定を行ったサンプルとその原海水のサンプリング時期それに培養期間と条件等を示した。なお、水温条件は、現地表層海水と一致させるため、船舶が停泊する表層海水を汲み上げ、写真1に示した培養水槽に掛け流しにした。
 
表3 生物生産量測定実験に用いた培養サンプルの採水時期及び培養期間等
 
B.実験手順
 図2には生物生産量測定実験の手順、写真1には実験・培養風景を示した。
 
図2 生物生産量測定実験の手順フロー
 
 
写真1 生物生産量測定実験の風景
 
培養サンプル収納
 
遮光ネットでの日照調整
 
C.観測・分析項目及び方法
 表4には、生物生産量測定実験における観測及び分析項目と方法を示した。
 
表4 生物生産量測定実験の観測・分析項目及び方法
観測・分析項目 観測・分析方法
水温 堀場社U-21XDによる定時観測
光量子 盟和商事(株)製LI-1400による連続観測
生物 従属栄養細菌数 染色後、落射蛍光顕微鏡による計数
ピコシアノバクテリア 染色後、落射蛍光顕微鏡による計数
従属栄養微小鞭毛虫 染色後、落射蛍光顕微鏡による計数
独立栄養微小鞭毛虫 染色後、落射蛍光顕微鏡による計数
植物プランクトン 生物顕微鏡による計数
クロロフィルa DMF(N, N-dimethylformamide) 10mlで24時間抽出後,蛍光法で測定
化学 粒子態有機炭素(POC) Thermofinigan社製POC,PON測定用EA1110を備えたDELTA plus Advantageで測定
粒子態有機窒素(PON)
13C同位元素
硝酸塩(NO3) カドミウム還元法
亜硝酸塩(NO2) エチレンジアミン法
アンモニア(NH4) インドフェノール法
リン酸塩(PO4) モリブデンブルー法
珪酸塩(Si(OH)4) モリブデンブルー法
 
2)深層水の生物生産特性
 表5には、生物生産量測定実験における各項目の観測・分析結果、図3には主要項目の変化を光合成生物、分解生物、水質、生物生産量に分けて示した。また、表6にはプランクトンの変化を示した。
 まず、光合成生物の変化について検討する(図3(1))。独立栄養微小鞭毛藻の変化(図3(1)中段)が、各培養サンプルの特性を良く反映している。独立栄養微小鞭毛藻は、全ての培養サンプルが時間経過と共に増加している。特に、深層水と混合し、栄養塩を増やした培養サンプルで顕著であり、深層水が生物生産力を向上させる能力を持っていることを示している。また、ピコシアノバクテリア(図3(1)上段)に関しても、深層水を混入した培養サンプルでは独立栄養微小鞭毛藻と同様に増加している。クロロフィルa(図3(1)下段)も、深層水を混入した培養サンプルは、同一レベルを保つか、あるいは増加しており、深層水の生物生産力向上能力を支持している。また、図3(3)下段の硝酸塩(NO3)は、礁内及び礁外表層培養サンプルでは増加して、バクテリアの有機物分解活動が勝っているのに対し、深層水混入培養サンプルでは減少・消費傾向にあり、光合成生物の生産活動の方が大きい。
 次に、各培養サンプルによる生物生産量の結果を検討する。図3(4)下段は、13Cの変化量(純生産量)を存在するクロロフィルaで割った光合成指標を示している。全培養サンプルで行った培養24時間後の光合成指標で各サンプルを比較すると、礁外表層が最も高く、次いで、深層水を混入した2培養サンプル、そして礁内サンプルが最も低い結果となった。礁外表層で高かった理由は、少ない栄養塩状態でも光合成生物が極微量の状態では24時間の範囲で生産活動が行えることを示している。深層水を混入した培養サンプルの方が、礁内サンプルよりも高いのは、深層水の栄養塩による効果であろう。
 なお、この光合成指標の結果で着目したいのは、深層水を混入した2培養サンプルの48時間後の状況である。両サンプルともに、48時間後で減少している。この結果は、図3(4)上段の純生産量や表6のプランクトン数の結果も同じである。また、これに対応するように、図3(2)上段の従属栄養細菌数が時間経過と共に増加している。つまり、今回の実験では、光合成生物による生産活動が行われると共に、バクテリア等による分解・消費活動も行われており、すなわち、微小生物間のマイクロバイアル・ループの生産・分解作用が同時に、しかも近いレベルで行われていたことを推測させる。上記、光合成指標や純生産量の時間変化は、その一例を表していると考えられる。また、マイクロバイアル・ループの作用、特に分解作用は、バクテリアの餌となる有機物量の多い礁内サンプルで顕著に見られ、低い光合成指標や純生産量の他に、ピコシアノバクテリアとクロロフィルaの顕著な減少(図3(1))等にも表れている。
 このような生産と分解の微妙な関係は、培養した生物量及び栄養塩の少なさと培養実験実施における光条件の設定が適切でなかったことに理由があると考えられる。通常、生物が充分な光合成活動を行う光量子は2000μmol程度と考えられているが、今回の実験は、船上に持ち込んだ水槽が使えずに、光を通さない鉄製の水槽を用いたことで、最大でも500μmol程度の光条件で実施することになった。その結果、通常よりも分解作用が大きく機能する状態となったものと推測される。
 いずれにしても、光合成生物量の変化や光合成指標等の結果では、深層水が生物生産力の向上に役立つことを示した。今後、沖ノ鳥島サンゴ礁の活性化に深層水を活用して行くには、取水して礁内に供給する適切な地点と水深、さらには設定する栄養塩濃度の検討が必要である。そのためには、今回実施した海中生物に対する培養試験を現実に即した方法(光条件等)で行うと共に、サンゴや有孔虫を用いた培養実験も必要であると考える。







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