沖ノ鳥島の再生について 〜沖ノ鳥島研究会としての取り組み〜
海洋政策研究財団 沖ノ鳥島研究会 福島 朋彦
1.はじめに
沖ノ鳥島には海水面の上下に翻弄された歴史がある。氷期に広大な陸域を現したかと思えば、間氷期にはその大部分を水没させた。そして再び間氷期にある現代、私たちは沈みゆく沖ノ鳥島に立ち会おうとしている。
沖ノ鳥島研究会は、そんな歴史の必然に抗するが如く、かつて存在したような陸域を取り戻そうとしているのである。研究会では、海面の低下していた氷期の姿に思いを寄せて、陸域が形成されることを“島の再生”と呼ぶことにしている。そして、今回の調査を“島の再生”のフィージビリティを推し量るための基礎調査と位置付け、サンゴ、有孔虫および砂礫に関する調査を行なった。本報告で述べるのは、このうちの砂礫の移送・堆積状況についてである。
2.沖ノ鳥島研究会の概要
(1) 研究会のメンバー
沖ノ鳥島研究会は、平成16年12月にシップ・アンド・オーシャン財団(現、海洋政策研究財団)により結成された研究グループである。メンバーは東京水産大学(現東京海洋大学)名誉教授の大森信博士、東京大学の茅根創助教授、海洋政策研究財団・常務理事の寺島紘士および同研究員の加々美康彦と福島朋彦からなる。このほかにオブザーバーとして国土交通省・河川局・海岸室の野田徹氏、日本財団・海洋グループの山田吉彦氏、古川秀雄氏および高橋秀章氏が参加している。
(2) 設立の背景
沖ノ鳥島には、維持再生、利用計画および法的地位、などの検討課題がある(図1)。沖ノ鳥島研究会では、このなかの島の維持再生こそが喫緊の課題と認識している。
環礁内にある2つの小島は、侵食と水没により、消失の危機に瀕している。侵食については、コンクリートブロックの整備やチタン製の防護ネットの設置などの対策が講じられてきたが、水没に関する対策はこれまでのところ皆無である。
水没を予想する理由は島の沈降と海面上昇のためである。島の沈降の原因は今から4千万年前まで遡らなければならない。当時、沖ノ鳥島を含む九州―パラオ海嶺は、その下に沈み込む太平洋プレートに支えられていたのだが、沈み込み帯が徐々に移動するようになるにつれて、支えが失われて100年に1cmの速度で沈むようになったのである。これに対して、海面上昇の方はごく最近のイベントであるが、島の沈降よりも桁違いに影響が大きい。今世紀の海面上昇は10-90cmと予測されているが、仮にこの中間値をとったとしても、沖ノ鳥島にある小島はあと半世紀も待たずして消失の運命にある。補強工事は侵食を防ぐことができても、忍び寄る“島消失”の危機は食い止めようもない。だからこそ、“島の再生”が必要なのである。
図1 沖ノ鳥島を巡る検討課題と沖ノ鳥島再生計画の位置付け
(3)研究会の目標
沖ノ鳥島研究会の目指す“島の再生”とは、沖ノ鳥島の環礁内にサンゴの欠片(ガレキサンゴ)や有孔虫の殻でできた州島を“自然”に形成させることを指す。そのためにはサンゴや有孔虫の生育環境を整え、より多くの“材料”を生産するとともに、それらを効率的に堆積させる方法を模索する必要がある。それらの技術を開発することおよび具体的な実行計画を提案することが研究会の目標である。
(4)島の再生の実現性
陸域の形成は、自然界では必ずしも特異な現象ではなく、条件さえ揃えば短い時間にも起こりうる。津波などの超巨大エネルギーにより高さ数mの巨礫が運ばれること、台風のような大エネルギーに伴い数kmにわたるリッジが一晩で形成されることなど、自然のエネルギーが陸域を形成する事例は多々ある。
沖ノ鳥島研究会の目指す州島は、それらよりはやや慎ましやかで、通常の波浪や流れによって形成される陸域のことである。津波や台風よりも時間を要すが、それでも10年を目処にした計画を検討している。決して途方もない歳月を想定した州島つくりを提案しようとしているのではない。
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