4.3 海難発生状況
海難の発生状況については、最近の国会において海上保安庁から次のように報告されている。「沖ノ鳥島の周辺海域における海難事故の発生状況というお尋ねでございますが、過去10年間で見てみますと、沖ノ鳥島周辺海域におきましては、日本漁船2隻、外国船籍の貨物船2隻の乗揚げ海難が発生しているところでございます。
これらはいずれも沖ノ鳥島の環礁の外縁部に乗揚げたものでございまして、具体的に申し上げますと、平成7年に日本漁船が1隻、平成7年に外国船籍の貨物船が1隻、平成9年に同じく外国船籍の貨物船1隻の乗揚げがございまして、その後、平成10年から今日までの約7年余りの間におきましては、日本漁船1隻、これは平成15年に発生を見ておりますが、そうした発生状況になっているところでございます。」
(本文面は、第162国会、参議院・農林水産委員会(17.3.18)議事録からコピーしたものである)本議事録を踏まえ、海上保安庁に詳細を確認したところ第6表のとおりであった。
第6表
年月日
時刻 |
海難
種別 |
概要 |
原因 |
平成7年6月25日
0500 |
乗揚 |
漁場から鹿児島向け航行中の日本籍漁船
(約70トン) |
見張り不十分 |
平成8年4月20日
2101 |
乗揚 |
韓国からオーストラリア向け航行中の外国船籍貨物船(約2万5千トン) |
同上 |
平成9年9月24日
0010 |
乗揚 |
オーストラリアから韓国向けの外国船籍貨物船(約8万トン) |
作業架台を島全体と誤認したもの |
平成15年1月13日
0240 |
乗揚 |
那覇市から沖ノ鳥島周辺漁場向け航行中の日本籍漁船(約70トン) |
見張り不十分 |
|
注1:場所はいずれも周辺リーフの端部
4.4 既存構造物(SEP)のレーダー視認状況
今回沖ノ鳥島へ向かう調査船(航洋丸)のレーダーを使用し、同島にアプローチする時に調査船のレーダーにどの位の距離から同島内の既存構造物(SEP)を視認できるか、及び同船のレーダー及びAIS等航海計器を使用し、付近航行船舶の状況を調査した。
航洋丸にはレーダーが2基搭載されており、第1レーダーのアンテナ高さは、21mで、第2レーダーのアンテナ高さは19mである。また、SEP上の構造物を含めた高さを24mとした時のレーダー視認距離Lは、
L=4.12( H+ h)Km =4.12( 21+ 24)=39Km 約21海里
である。実際にはSEPをレーダーで確認できた距離は計算値より多少延びた24海里であった。
また、海上保安庁の調査によると、沖ノ鳥島から6海里付近から、リーフの外縁部の形状がレーダーで確認できたとのことである。
4.5 航路標識の必要性
以上述べたような状況を考慮し、我が国周辺海域を航行する船舶数から見た場合、沖ノ鳥島周辺半径30海里海域では、商船等が年間約440隻(先の海上保安庁の調査結果を年間値に換算)と少なく、また、海難の発生について見ても我が国周辺海域における乗揚海難だけをとってみても、過去10年間約3,500隻と比べて少ないことが分かる。
先に述べたように、航路標識の整備の一般的な考え方からすれば、航行船舶は少なく、また、海難発生件数も少ないと思われるが、ここでは沖ノ鳥島における現状を考えた場合、少ない数ではあるが、リーフに乗揚げた船舶が大型商船を含め4回発生していることは、重大な海上災害を起こす恐れがあることから、海難発生件数の大小だけで論ずることはできないと思われる。
また、海難の原因がいずれも見張り不十分であることから、仮に航路標識を設置しても同様のことが起こりうるという意見もあるが、航路標識設置により海図上に「標識」が記載されることから、海図を見て航海計画を立てる航海者にとって同島の存在に注目を与えることとなり、先の航路記にある「沖ノ鳥島に注意しつつ・・」のことが、「注意をして航行しなければ・・・」というように意識改革を促すことが考えられ、海難の予防に寄与することも考えられる。
さらに漁業活動についてみれば、沖ノ鳥島周辺はマグロ、シマアジなどの好漁場と考えられ、東京都はこの4月に試験操業を実施し、かなりの水揚げを得ており、また、稚魚の放流を行う計画を立てるなど漁業活動に積極的に取り組んでいることから、同島の周辺を航行する漁船は今後多くなることも予想される。
このように船舶航行の安全と操業漁船の安全を考えた場合、沖ノ鳥島における航路標識の設置を検討することは有益であると考える。
5 航路標識設置の基本的な検討
5.1 航路標識の種類と規模
先の海上保安庁が行った船舶通航状況の調査結果を詳細に見てみると、大半の商船等は同島から20海里以上離れて航行している一方で、10海里以内を航行している大型商船がいること、さらに、漁船では3海里以内に近づいて航行していること等を窺い知ることができる。また、これまでの海難の発生状況を踏まえると、沖ノ鳥島に設置する航路標識は、沖ノ鳥島という障害物を明示し船舶の乗揚げ海難を防止する機能を満足する灯台とすることが妥当と考えられる。
沖ノ鳥島への乗揚げを防止する観点から考えると、一般的に、灯台の光達距離は5海里程度が必要とされているが、大型商船が沖ノ鳥島に近づいて航行している実態を加味すると、灯台の光達距離は、5〜10海里程度とすることが妥当と考えられる。
国土交通省では、本年度中に海象観測用のレーダー等を既存SEP上に整備する予定であるため、結果として、今後これら装置から沖ノ鳥島周辺を通航する船舶の状況がさらに詳しく判ることから、これに合わせ、より適切な灯台の規模を検討する必要があると考えられる。
また、視界不良時に標識機能を維持するためには電波標識の設置を検討することも必要と思われる。先述のレーダー視認状況のとおり、航行船舶がSEPの映像をかなり先からレーダーで視認できることから、電波標識の設置は必要ないとの考えもあるが、先述の海難発生状況に示すように、既存構造物SEPを同島と間違え リーフに乗揚げた事例もあることから、このようなことを防止するためにも単にエコーを表示するだけでなく、符号を伴い表示の可能な電波標識の設置は有益と考える。
この電波標識としては、マイクロ波レーダービーコン(使用周波数:9,320MHz〜9,500MHz)が考えられるが、前述のとおり同じような周波数帯を使用するレーダー(使用周波数は9,310MHzと思われる)が整備されることから、レーダーと至近の距離にレーダービーコンを設置した場合、電波の相互干渉が生じ電波標識機能に支障が生じる恐れがあることから、当面の計画ではなく前述のとおり今後の利活用の検討が進み新たなSEP等構造物設計が具体化すれば、これに合わせレーダーとレーダービーコンの位置関係を上下にするなど設計することにより、相互干渉を避ける措置を講じるなど可能と思われること、また、世界的にレーダーのマグネトロンの発する不要輻射電波の規制が強化され、その対策として新しいレーダーが検討されており、これに対応した新方式のレーダービーコンの開発が世界的に検討されていることから、レーダービーコンの設置は今後の検討課題とするのが適当である。
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