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平成16年度日本財団助成金事業
“イガイ類に関する海洋環境研究”
社団法人 国際海洋科学技術協会
山下 恵美子
 本年度は昨年度にひき続き日本財団の助成をいただき、より深く研究を行うことができました。梶原武先生を筆頭に東京海洋大学、東京農工大学および各方面の研究者の方々のお力をお借りしながら研究委員会を発足し、委員会で討論しつつ研究を進めてきました。特に本年度はイガイの有効利用という観点から、食料資源の確保に研究の主軸を持ってきました。東京海洋大学の白井隆明先生には食品分析を、石井晴人先生の研究室では東京湾で採集したムラサキイガイで人工ゼオライト等を用いた浄化実験を行うことができました。
 東京湾で採集したムラサキイガイのデータを北海道で採集したイガイ類の水準にもっていくことがねらいです。
 北海道雄冬港では昨年度のデータを期にエゾイガイの出荷をすることが決まり、大変好評なようで、六本木の飲食店でも食されています。イガイ類は繁殖能力が高くどんどん増えてくれるため、人工的なことをする必要はあまりないようで、雄冬のみならず各漁港でも注目してもらいたい食品の一つだと思います。
 平成16年度の研究委員会のまとめとして、成果発表会“イガイ類はもっと食品として、利用できないか?”を平成17年2月7日に日本財団のご理解とご協力の下に日本財団の会議室で開催するはこびとなりました。
 食料資源の確保と海の環境保全という観点から研究することは山ほどあり、本来、海の栄養をしっかり蓄えてくれる、すばらしい優等生的貝が人間の為に不用になることのないよう、しっかりとした早急な研究と成果を示したいと思います。
 
日本でイガイ類は食べられているのか?
三輪竜一・石村忠昭
(芙蓉海洋開発株式会社)
1. 目的
 日本財団助成金事業「日本海域に生息するイガイに関する海洋環境研究」は、イガイ類の水質浄化能力と食用利用に関して調査、検証を行い、環境保全と食料資源の確保に役立てることを目的としている。
 本稿は、「イガイ類の有効利用・活用データの収集」を行うため、イガイ類の食利用に関する情報収集の一環として「イガイ類の流通状況」について情報を収集し、整理を行った。
 
2. 日本におけるイガイ類の取扱いの現状
2.1. 食品として販売されているイガイ類
 東京都内で実際に販売されているイガイ類の一例を示した(図2.1、図2.2)。
 これらは「ムール貝」の商品名で販売されていた。しかし、同一の商品名「ムール貝」であっても、種を確認するとムラサキイガイ(図2.1)やミドリイガイ(図2.2)であった。つまり、商品名「ムール貝」は複数種のイガイの通称であり、様々なイガイ類が混在して流通していると考えられる。
 
図2.1 「ムール貝」として販売されているイガイ類(1)
商品名:ムール貝、標準和名:ムラサキイガイ、産地:青森、
販売形態:生鮮・殻付き、販売価格、64円/100g
 
図2.2 「ムール貝」として販売されているイガイ類(2)
商品名:ムール貝、標準和名:ミドリイガイ、産地:不明、
販売形態:冷凍・半殻付き、販売価格:102円/100g
 
2.2. 「い貝」の取扱金額と取扱量の変遷
 東京都中央卸売市場のなかで水産物を取り扱っている3市場(築地市場、足立市場および大田市場)を対象に、「い貝」の取扱金額と取扱量を整理した。平成14年度において、この3市場は、全国の中央卸売市場の総取扱金額の約24%(3市場6,048億円/全国25,206億円)を占めている。ここでいう「い貝」とは統計上の品目である。平成14年度の「い貝」の取扱金額は約1.2億円(2)(図2.3)、取扱量は約360トン(2)(図2.4)であった。図2.3および図2.4に示すように取扱金額および取扱量ともに経年的に増加傾向が認められた(1)、(2)
 一方、同市場で貝類最大の取扱量を誇る「あさり(生鮮)」をみると、平成14年度の取扱金額は約32億円(2)、取扱量は約6,600トン(2)であった。
 「い貝」の取扱金額や取扱量は増加傾向にあるが、「あさり」と比較すると、取扱金額で約1/27、取扱量で約1/18と低い水準にあった。
 
図2.3 東京都中央卸売市切における「い貝」取扱金額の経年変化(1)、(2)
平成14年度:「い貝」約1.2億円、「あさり」約32億円
 
図2.4 東京都中央卸売市場における「い貝」取扱数量の経年変化(1)、(2)
平成14年度:「い貝」約360トン、「あさり」約6,600トン
 
2.3. 都道府県別「い貝」取扱状況
(1)取扱量の多い都道府県(地域的比較)
 東京都中央卸売市場の3市場において、「い貝」取扱量の多い出荷地(都道府県)を整理した。なお、出荷地は出荷者の所属する都道府県である(属人主義)(2)
 平成14年度における取扱量上位2県は宮城県(約170トン)と愛知県(約140トン)であった(2)。岩手県(約22トン)と三重県(約21トン)がそれに次いだ(2)。上位5位以下は、年間の取扱量が5トン未満に過ぎなかった(2)
 統計では取扱実態があれば、取扱量として計上される。そのため、生産地でなくとも高い値を示すことがある。聞き取りによれば、愛知県における大規模な生産・養殖の実態は確認できなかった。今後、精査が必要とは思われるが、愛知県のデータは物流に伴う取扱量であると推測される。
 
図2.5
東京都中央卸売市場における「い貝」類の都道府県別取扱量の比較(平成14年度)
 
(2)取扱量の多い時期(月別取扱量の変化)
 前項で取扱量の多かった宮城県と愛知県について、月別取扱量を比較した(図2.6)。
 宮城県では、7月以降に増加して12〜2月に最盛期を迎え、春季に減少傾向となり、7月に取扱量は最低となった。一方、愛知県は4月以降に増加して8月に最盛期を迎え、その後、減少傾向を示し、1〜3月はほとんど取扱がなくなった。
 
図2.6
東京都中央卸売市場における「い貝」類月別取扱量の比較(平成14年度)


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