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海保だより
海上保安庁 交通部
台風海難への対策
 平成16年に日本に上陸した台風は10月25日現在、10個を数えており、1951年に気象庁が統計を開始して以来、年間上陸数最多記録を更新中で、今後もさらなる警戒が必要です。なかでも9月に上陸した台風18号の記録的な暴風雨や波浪により、瀬戸内海において避泊中の船舶の走錨が多発、また避難勧告に従わず岸壁に係留し続けた船舶が転覆し、多数の死亡・行方不明者を出す海難が発生しています。
 そこで、あらためてお願いしたいことは、船舶は台風接近時には最新の台風情報(気象・海象情報)を継続的に把握するとともに、
・港内停泊中に避難勧告が出た場合は、早期の避泊措置。
・事前に避難海域の選定、その海域の底質と錨かきを十分に考慮。
・避泊後は、無線の常時聴取、海上保安庁との連絡手段を確保。
・錨泊中は、主機関をスタンバイとし、船橋当直を強化し走錨監視。
に努めてほしいと思います。今年上陸した台風のように、自分たちの経験を上回る暴風雨や波浪を引き起こす可能性があることを十分念頭におき、悲惨な結果を未然に防ぐためにも、台風接近時における安全対策をしっかりと行ってください。
 
台風により海岸線に乗揚げた船舶
 
 外国船舶にあっては、本邦周辺海域の気象・海象に不案内な事例が見受けられます。海上保安官による訪船指導の際は、台風避泊時の安全対策を含めた海難防止指導を行っているところですが、各船社・代理店などにおかれても、外国船舶の船長、乗組員に対する情報提供や的確なアドバイスをお願いします。
 また、各岸壁に置かれている木材などが今般の台風による高潮、暴風雨、波浪により流出し、通航船舶に重大な影響を与えるおそれのあった事例が相次ぎました。港内や周辺海域に影響を与えないよう、積荷などの流出防止策をしっかりと行ない、漂流物などによる二次海難を防ぐためにもご協力ください。
環日本海での木材流出に対する海難防止強化月間の実施
 木材流出事案は、平成9年1月から平成16年9月までに28件発生しており、その発生海域は冬季の日本海沿岸で多発(全体の67%)しており、そのうち船長国籍をみると95%がロシア国籍でロシア人船員が乗り組んでいる木材運搬船です。また、流出原因のほとんどが、風速15m/s以上の気象・海象状況下での甲板上に積み上げた木材の荷崩れによるものとなっています。
 海上への木材流出は、通航船舶の安全な航行の阻害だけでなく、わが国沿岸における漁業活動など地域の社会活動に多大な損害を及ぼします。
 防止策としては、わが国沿岸海域の厳しい気象・海象に関する認識および早期の気象・海象情報の入手による荷主、運航者が一体となった早期避難、または自主的な運航制限が重要です。
※たとえば、本邦向け航行する木材運搬船に対し、荷受け側または代理店側から航行ルート上の悪化しつつある気象・海象状況をFAXなどで情報提供することが有効であると思われます。
 
月別木材流出事案発生状況
(1997〜2004.9)
 
海域別木材流出事案発生状況
(1997〜2004.9)
 
日本海で発生した木材流出事案に係わる船長国籍状況
(1997〜2004.9)
 
 このため、海上保安庁においては、秋から冬季にかけて日本海沿岸で発生する木材流出海難防止への取り組みを強化することとしており、当該海域を管轄する第一、第二、第八、第九管区が連携し、主に、ロシア船籍およびロシア船員で構成されている木材運搬船を重点対象とし、本年11月の1カ月間を「環日本海木材流出海難防止強化月間」と定め、集中的な海難防止啓発活動を実施することとしました。
 当該期間中においては、本邦へ入港する木材運搬船に対する訪船指導、代理店、荷主など関係先への協力依頼や外交ルートによるロシア政府への申し入れを行うこととし、気象・海象情報の早期入手、荷崩れ防止対策の徹底、早期避難の励行および木材流出時の当庁への早期通報などを指導することとしています。
 
荒天のため甲板上に積み上げた木材を流出させた船舶
 
海守便り
会員が思う台風海難対策
(海守事務局)
はじめに
 今年は、日本に上陸する台風の多い年でしたが、なかでも台風18号や23号は、大きな爪痕を残しました。
 海守の会員から、台風による海難事故についての思いが寄せられました。「海と安全」を購読されている関係者に、ぜひ一読願いたく、次に紹介します。
Nさんの思い
 台風18号による海難事故は、瀬戸内海や外海で多数発生しましたが、これら事故について気がついたことを述べ、何かのお役に立てばと思います。
 私は、世界の多くの港において、錨泊中に他船の走錨による危険を経験しました。日本では京浜港、名古屋港、大阪港、博多港などですが、外国では大連港、上海港、ナホトカ港、リエカ港、ラスパルマス港、スエズなどです。
 走錨での危険発生時には、時にはその船を訪れたり、VHFでどうして走錨したのかを尋ねたりもしました。
 その結果では、原因は(1)錨鎖が法定より短いために発生した。(2)守錨方法が適切でなかった。の2つが多いようでした。
 (1)は、船主が中古船を購入後、自社所有の他船に錨鎖の半分を切って、分け移すことで短くなるようです。従って、検査記録簿上は、正規の錨鎖の長さなのに、実際には短い錨鎖になっているのです。
 (2)は、守錨方法について教育されていないのではと思われることです。具体的には a. 機関の効果的使用を怠る。b. 走錨の初期発見が遅れる。ということです。
 例えば、“振れ止め錨”などは、知らない船員が多く、車両船のような嵩上げ船は、強風を受けるとほとんど真横から風を受けるようになり、走錨の原因となるようです。
 私は20年来、韓国やフィリピンの船員と混乗しましたが、彼らの知識のなかには、強風が予想される時の投錨方法を、「よく理解していないのでは」と受け取れました。
彼らにパンフレットの配布を
 彼らは、2級航海士の免許証を所持していますが、走錨の初期に関して、レーダー観測はしますが、目視観測は怠りがちです。従って、目視観測の必要性を教えなければなりません。また、台風遭遇時の避難方法や対処方法、日本近海の風の変化などについては、ほとんど知らないようです。
 考えていきますと、これらに関して、外国籍船乗組員への積極的指導の必要性を強く感じます。約2年前に、茨城県日立港で走錨後に防波堤に座礁した北朝鮮のチルソン号などは、まさに乗組員の操船ミスによる海難事故だったと思います。
 
海守事務局
TEL 03-3500-5707
FAX 03-3500-5708
e-mail:info@umimori.jp


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