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海上保安庁の津波への対応
海上保安庁 警備救難部環境防災課 業務係長
平湯 輝久(ひらゆ てるひさ)
海上保安庁 交通部安全課航行指導室港務係長
菊本 豊(きくもと ゆたか)
これまでの津波の発生状況
 津波は、海域における震源の浅い大地震によって生じることが多く、沖合いの深い海域では小さくても、海岸に近づくにつれて大きくなり、時として悲惨な災害をもたらします。
 四囲を海に囲まれているわが国では、古くから津波による大きな被害を被ってきました。関東大震災以降、昭和の時代には、三陸地震(昭和8年)、東南海地震(昭和19年)、南海地震(昭和21年)、十勝沖地震(昭和27年)、チリ地震(昭和35年)、日本海中部地震(昭和58年)に伴う大きな津波が発生しており、平成に入ってからも、北海道南西沖地震(平成5年)で発生した津波により、一瞬にして奥尻島が大災害に見舞われたのは記憶に新しいところです。
 最近では、去年の十勝沖地震、今年の東海道沖地震において津波が発生しています。この時は、過去の津波に比べ被害は小さいものでしたが、それでも十勝沖地震においては、30の漁港で146件の施設の被害が発生し、46隻の漁船が転覆などの被害を受けました。さらに、地震発生から10時間以上の間、津波注意報が解除されない状況が続き、港湾機能に大きな影響が生じました。
 
昭和以降被害が生じた主な津波
地震発生
年月日
地震名 発生津波
最大高さ
昭和8年
 3月3日
三陸地震 23m
昭和19年
 12月7日
東南海地震 9m
昭和21年
 12月21日
南海地震 6.5m
昭和27年
 3月4日
十勝沖地震 6.5m
昭和35年
 5月22日
チリ地震 5m以上
(24日到達)
昭和58年
 5月26日
日本海中部地震 7.7m
平成5年
 7月12日
北海道南西沖地震 30.6m
平成15年
 9月26日
十勝沖地震 1.3m
※平成16年
 9月5日
東海道沖地震 0.9m
平成15年度 津波が予想される場合の船舶安全確保に関する調査研究報告書から抜粋。(※印については、気象庁HPによる)
 
国の地震・津波対策
 地震・津波を含めた自然災害への対策については、昭和27年の十勝沖地震を契機に防災行政に関する検討が進められ、昭和34年の伊勢湾台風を契機として法制度の動きが高まった結果、昭和36年に現在の防災に関する基本となる「災害対策基本法(昭和36年法律第223号)」が制定され、平成7年の阪神・淡路大震災後の大改正を経て、現在に至っています。
 
十勝沖地震(H15.9.26)の津波の状況(花咲港)
 
 また、個別の地震に関し、いつ発生してもおかしくないとされる東海地震、今世紀前半にも発生するといわれる東南海・南海地震については、中央防災会議の諮問を受けた各専門委員会において、その地震発生時の被害想定が発表されており、この中で津波による人的被害については、東海地震においては約1,400人、東南海・南海地震においては約8,600人(いずれも最大値:地震発生の時間帯により人的被害者数に変動がある。)としています。
 それぞれの地震への対応として、法的には、東海地震については「大規模地震対策特別措置法(昭和53年法律第73号)」、東南海・南海地震については「東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法(平成14年法律第92号)」が整備されています。
 予知可能な地震とされている東海地震への対応については「大規模地震対策特別措置法」において、地震想定に基づく地震防災対策強化地域の指定、地震防災計画の作成、警戒宣言の発令、警戒本部の設置などが規定されています。
 これらにより、東海地震の発生が予知された時から東海地震が発生するまでの対応が策定されており、津波対策について、特段の対策は規定されていないものの、東海地震の特殊性から津波の発生までの事前措置を取ることにより、被害の局限化を図るものとなっています。
 「東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」においては、地震想定に基づく東南海・南海地震防災対策推進地域の指定、基本計画の作成などが規定されており、特に本地震は甚大な津波被害が発生するおそれがあるとされていることから、基本計画などにおいては、津波からの防護や円滑な避難の確保に関する事項を規定することとなっています。
 なお、房総半島の東方沖から三陸海岸の東方沖を経て、択捉島の東方沖までの日本海溝および千島海溝ならびにその周辺地域における地震については、今年4月に「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法(平成16年法律第27号)」が公布されており、今後、東南海・南海地震と同様の対策がなされることとなっています。
海上保安庁の災害対応
 地震・津波などの災害への海上保安庁の対応については、災害対策基本法に基づき作成している「海上保安庁防災業務計画」において、防災予防、災害応急対策、災害復旧・復興支援対策を規定しており、これにより活動することとなっています。
 その中で、津波などの災害の発生が予想されるときの災害応急対策については、次のとおり規定されています(船舶に対するものに限る)。
(1)情報の伝達・周知
○災害が予想される地域の周辺海域の在泊船舶に対しては、船艇、航空機などを巡回させ、訪船指導のほか、拡声器、たれ幕などにより周知する。
○航行船舶に対しては、航行警報または安全通報などにより周知する。
(2)海上交通安全の確保
○津波による危険が予想される海域に係る港および沿岸付近にある船舶に対し、港外や沖合いなど安全な海域への避難を勧告するとともに、必要に応じて入港を制限し、または港内に停泊中の船舶に対して移動を命ずるなど、所要の規制を行う。
(3)危険物の保安措置
○危険物積載船舶については、必要に応じて移動を命じ、または航行の制限若しくは禁止を行う。
○危険物荷役中の船舶については、荷役の中止など事故防止のために必要な指導を行う。
 
十勝沖地震(H15.9.26)の津波の状況(十勝港)
 
 地震、津波などの災害が発生した場合については、巡視船艇、航空機による調査をもとに、その状況を迅速的確に把握し、その状況に応じた上記のような対応を適切に実施することとなります。
港内における船舶の津波対策
 港内は多数の船舶で輻輳しており、津波により船舶の漂流、乗揚げなどが引き起こされれば、船舶に甚大な被害が生じるだけなく、港湾機能に支障をきたし、地域経済にも大きな影響を及ぼします。また、災害時において港湾は防災拠点としての機能が期待されていますが、この機能にも支障を生じることが予想されます。
 しかしながら、これまで津波に対する港内の船舶の安全対策について検討した事例が少なく、また、陸地に近い沿岸海域で津波を伴う地震が発生した場合、地震発生後にその対応を検討する時間的余裕がないため、事前に十分な対応策を検討しておく必要があります。
 そこで、海上保安庁では、港内における船舶の津波対策の検討促進をめざして、日本海難防止協会に「津波が予想される場合の船舶安全確保に関する調査研究」を委託し、「港内津波対策の検討手引き」を作成しました。
 本手引きは、各方面で検討された既存の研究成果をもとに、港内における津波の特性や津波による船舶への影響を整理するとともに、港内における船舶の津波対策を検討するにあたっての留意事項をまとめたもので、港内版の津波ハザードマップの作成や、船舶の状態別および大きさ別に、想定津波から得られる津波の大きさや到達予想時間を考慮した津波に対する船舶の望ましい対応策の策定が提案されています。
 津波の現れ方や船舶への影響などは港(地域)の形態、利用状況などによって異なることから、本手引きを活用することにより、津波の発生に対して在港船舶が状況に応じた適切な対応【係留索の強化、港外への退避、船体放棄(乗組員の陸上への避難など)】がとれるように、港ごとの津波対策を策定することが必要となりますが、そのような対策をとる場合には、関係者間で事前に協議、検討、調整を行い、津波発生時の対応を申し合わせておくことが必要不可欠となります。
 本手引きの中では、港内津波対策協議会(仮称)を設置して港内の津波対策を策定することを提案しており、また、併せて津波対策を策定する際の標準的な手順をフローチャートで示しています。
 台風対策などについては、すでに台風対策などのための委員会などを設置し、適切な台風災害対策がとられている港も数多くあります。津波対策についても、行政機関だけでなく、港湾事業関係者や漁業関係者といった当該港湾に関わる方々には、事前の津波対策の必要性を認識のうえ、津波対策の策定に協力いただくようにお願いします。


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