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海の気象
舶用自動気象観測通報装置の開発
気象庁 気候・海洋気象部海洋気象課 主任技術専門官
菅野 能明(かんの よしあき)
(財)日本気象協会 技術開発部 専任主任技師
有沢 雄三(ありさわ ゆうぞう)
はじめに
 気象観測時刻に合わせ、目視による観測(視程、雲、波浪)と測器による観測(風、気温、露点、海面水温、気圧)を行い、データをコード化して船舶気象報の電文を作成し、気象庁あて送信・・・。日頃、各船舶において実施していただいている気象観測通報は概ねこのような作業になります。
 こうして得られる船舶の気象観測データは、台風の解析や海上警報作成などに用いられています。気象衛星による観測技術が発達している今日ですが、船舶による観測データと衛星による観測データは相互に補完しあうもので、どちらも気象情報の作成に欠かせません。
 一方、船舶では船上作業の効率化に伴って人員の合理化が進められ、観測通報作業が乗組員の負担になっているというお話をよく伺います。
 そこで、船舶において気象通報が簡便にできるよう、平成14〜16年度、(財)日本気象協会では、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構の「運輸分野における基礎的研究推進制度」による支援を得て、東京海洋大学、JFE ソルデック(株)、日本郵船(株)と共同で自動気象観測通報装置の開発を進めています。気象庁はこの開発に海洋気象観測船による実海域での実験などにより全面的に協力しています。本稿ではこの装置の概要を紹介します。
 
 
自動気象観測通報装置の概要
 本装置の開発にあたっては以下の仕様を前提としました。
1)低価格
2)高耐久性、メンテナンスフリー
3)設置が容易な形状
4)高い拡張性(単体で観測・通報を行えるが、船舶備え付けの機器との接続も容易)
5)双方向通信(船から観測データを送信するだけではなく陸側からの情報も受信可能)
 これらの仕様を満たすため、観測項目は気圧、気温、湿度、風向、風速に絞りました。その他の観測項目については、船側の観測機器を本装置に接続したり、本装置でデータを手入力したりできるよう設定されています。
 船の位置および船速・方位の情報取得には本装置のGPS 受信機と磁気コンパスを利用します。気温や湿度の観測は走行風を利用し、通風装置などの駆動部分を用いないことにより、低価格と高耐久性を実現しました。気圧計も風の直接当たる屋外に置くことになるため、風圧を避ける工夫をしています。
 通報には低軌道通信衛星を使った双方向データ通信として実績のあるオーブコム・システムを利用します。
 装置の船上での設置場所については、観測される風向・風速への船体の影響が極力小さいことが望まれますので、代表的な船種について船体周りの気流の状況をコンピュータ・シミュレーションにより調べ、検討を行いました。
 
実船舶への搭載試験
 2003年度に作成した試作機を用いて、気象庁海洋気象観測船で比較試験(2003年5月)を行いました。その後、近海郵船(株)の「ろーろーさろま」(東京〜釧路、2003年7〜10月)と日本郵船(株)の「新地丸」(福島〜オーストラリア、2003年12月〜)に搭載して実証試験を行っています。
 これらの運用実験の結果を基に、今後は各センサーの改善、通信障害への対策、船体への取付けの簡易化、取り扱いマニュアルの充実などを進めることとしています。
 
普及に向けて
 本装置を広くご利用いただくためには、観測通報の自動化に加えて、便利な機能を付加することも必要と考えています。そのひとつとして、本装置の通信の双方向性を利用して最新の詳しい気象情報をより早く船舶へ伝送することを検討しています。
 
近海郵船の「ろーろーさろま」
 
日本郵船の「新地丸」の前方上部甲板
 
「新地丸」による実証試験での通報データ
(2003年12月〜2004年1月、12時間毎に描画)


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