日本財団 図書館


当協会が調査研究するバラスト水処理技術
(社)日本海難防止協会 海洋汚染防止研究部
国際会議で研究成果を発表
 当協会においても、平成3年度から日本財団の補助/助成事業と自主的調査研究として、継続的にバラスト水交換法の代替肢となるバラスト水処理技術について調査研究してきている。日本財団の補助/助成事業による実験室/陸上/船上実験結果の概要を示したものが図1である。
 水生生物の多様性から当然のこととして、それぞれの処理法で、得意とする生物が異なっている。
 また、これらの研究成果については、国内はもちろん、海外でも積極的に発表している。主な国際会議で発表したものは次のとおりである。
・MEPC42バラスト水作業部会(1998年11月)=電気式バラスト水処理法に関する情報発表
・MEPC44(2000年3月)=ミキサーパイプによるバラスト水処理法に関する情報発表
・第1回GloBallast シンポジウム(2001年3月)(ロンドンIMO本部)=ミキサーパイプによる処理技術を中心に発表
・第1回バラスト水管理国際会議(2001年11月)(シンガポール)=特殊パイプによる処理技術およびバラスト水処理システム性能評価法を中心に発表
・第1回GloBallast 東アジア地域ワークショップ(2002年10月〜11月)(北京)=特殊パイプによる処理技術を中心に情報提供
・第2回GloBallast 研究開発シンポジウム(2003年7月)(ロンドンIMO本部)=特殊パイプによる処理技術及びバラスト水処理システム性能評価法を中心に発表
・第2回バラスト水管理国際会議・展示会(2004年5月)(シンガポール)=ポスター・セッションにおいて、特殊パイプによる実船実験結果を展示・発表
 各国のように既存の技術の応用・利用でなく、まったく斬新的な技術なので、国際的に特殊パイプへの関心度は高く、マジックパイプ、ミラクルパイプなどの名称で呼ばれることも少なくない。
 機械的処理法として、図2にミキサーパイプの断面図を、図3に特殊パイプの概念図を示している。
 特殊パイプによる水生生物の処理原理を、図4および図5に示した。
 また、その中心部外観を図6に、本船上における米国ワシントン州政府立会いの下の実験模様(米国シアトル港)を図7に示している。
 
図1 各処理法による効果
平成 処理法 水生生物に対する効果
4年度 塩素:
滅菌濾過海水使用実験室実験
 実際のバラスト水への投入を想定した実用有効処理濃度
 有毒渦鞭毛藻類遊泳細胞:5mg/l
 同シスト:100mg/l
過酸化水素:
滅菌濾過海水使用実験室実験
 実際のバラスト水への投入を想定した実用有効処理濃度
 有毒渦鞭毛藻類遊泳細胞:5mg/l
 同シスト:50mg/l
9年度 オゾン:
自然海水使用実験室実験
 植物プランクトン処理濃度:1mg/l
 有殻渦鞭毛藻 処理濃度:0.6mg/l
 動物プランクトン処理濃度:1mg/l
 細菌類 処理濃度:10mg/l
 シスト 処理濃度:20mg/l
10年度 電気化学:
自然海水使用(通電量3V/1A程度)20トン/時間陸上実験
 直径100μm孔電解槽滞留時間2〜90秒で、動・植物プランクトン・細菌シストへの50〜100%処理
 目詰まり・大型化が課題
11年度 ミキサーパイプ:
自然海水使用20トン/時間陸上実験
 植物プランクトン:3本直列1pass直後で約50%処理
 動物プランクトン:3本直列1pass直後で約60%処理
 細菌/シストへの明確な効果なし
 パイプ1本10循環で、シスト以外のほとんどの生物死滅
 オゾン1mg/l注入で、パイプとの相乗効果でシスト処理
13年度 特殊パイプ:
自然海水使用20トン/時間陸上実験
 スリット板1枚内蔵パイプで、
 動物プランクトン:5気圧1pass直後で約90%処理
14年度 特殊パイプ(スリット板2枚):
自然海水使用100トン/時間実機陸上実験
 特殊パイプ+目詰まり対策装置システム実験(5気圧1pass直後)
 植物プランクトン:70%以上処理
 動物プランクトン:90%以上処理
 バクテリア:約30%処理
15年度 特殊パイプ(スリット板2枚):
100トン/時間実機船上実証実験(北米西岸航路コンテナ船)
 10以上50μm未満水生生物:条約排出基準達成
 50μm以上水生生物:バラスト水内水生生物内在状況により 排出基準達成/不達成(条約排出基準が極めて厳しいため)
 病毒性コレラ菌、大腸菌及び腸球菌(バラスト水中に該当生物が少なかったため)
16年度 特殊パイプ(スリット板2枚):
自然海水使用20〜30トン/時間実験機陸上試験
 条約基準が極めて厳しくなったため、特殊パイプ自体の性能・効果向上実験実施中
 
 実験結果から、50μm以上の水生生物については条約の船外排出基準を満たす場合もあれば、満たさない場合もある。これは条約の基準が濃度基準であるためであり、処理前のバラスト水中の生物数(濃度)に左右されるのがその理由である。
 ワシントン州においては、2004年7月1日から、バラスト水交換の代替として、バラスト水処理システム自体の処理基準(動物プランクトン95%、植物プランクトン・バクテリア99%処理)を満足する処理システム使用承認プログラム開始を開始している。
 平成15年度に実施した本船実験の結果やシアトル港における米国ワシントン州政府立会いでの実験により、2004年までの継続実験が同州政府に認められている。
 すなわち、バラスト水交換をしていない海水をこの実験システムで処理すれば、同州の港で排出できることになっている。また、システムの性能向上により継続的に実験期間を延長できることになった。
 
図2 ミキサーパイプ
 
図3 特殊パイプ概念図
 
今後の動向
 条約が採択されたとはいえ、バラスト水処理基準やそれを満足する処理システムについては、まだ多くの解決すべき点が残っている。
 環境的には、まったく生物の存在しない無菌のバラスト水が理想的であるが、そのようなバラスト水とすることは至難の業である。また、生物の越境移動についてはほかのさまざまな要因も無視できない。
 いずれにせよ、バラスト水処理システム開発については、条約におけるバラスト水処理システム自体の性能・指標生物・試験法・環境上の制限など、すなわち、バラスト水管理システム承認ガイドライン(G8)、活性物質承認手続き(G9)および他の関連ガイドラインの早期策定が望まれるところである。
 条約採択後も、これらについての国際的審議が続行されている。
 また、2006年には、実施されるものと考えられるMEPC における、安全性・環境上の容認性・実行の可能性・経済性・生物学的有効性を考慮した、バラスト水処理基準達成への科学技術の利用可能性についての見直しの動向にも十分に注意を払う必要がある。
 
図4 前方スリット板による処理
 
図5 後方スリット板による処理
 
 さらに、米国はもちろんのこと、諸外国の規制状況にも留意しなければならない。
 目下、これらの点に留意しつつ、調査研究事業を実施中である。
 また、米国のSTEP にも参画すべく準備中である。
 さらに、実験中の特殊パイプ自体の性能向上および調査研究してきた処理法を含めた他の処理法との組み合わせによる性能・経済性向上ついても必須な状況下にある。
 今後とも、必要な調査研究を継続し、世界の海洋環境保護および円滑な船舶の運航に寄与できれば幸いである。
 
図6 処理システムの中心
 
図7 本船上での実験模様


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION