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文化を基調とした地域再生に関する報告
(文化を基調とした地域再生に関する研究会)
1 はじめに
 近年の我が国においては、景気の低迷や、過疎化の進行等により地域社会が崩壊の危機に直面している地域がある中、地域によっては特色ある伝統文化の保全・継承等により地域の活性化を図っている事例がある。当研究会では、具体的な事例等も踏まえ「文化」を基調とした地域再生の手法について調査・研究を行うこととした。
 ここで取り上げる文化は、地域の祭礼、伝統行事、文化財、伝統工芸等であり、地域において伝統的に伝え継がれてきたものであり、そういった伝統文化を保存・継承していく観点から地域づくりに取り組んでいく方策を導き出すことを目的とした。具体的には、平成11年度から実施されてきた地域伝統芸術等保存事業について、これまでの実績と今後に向けた考え方を整理するとともに、地方公共団体における地域伝統芸能等の保存・継承、振興の取組み事例について調査・研究を行い、これらの調査結果をもとに、文化を基調とした地域再生手法に関する提案を行うこととしている。
 昨年度は、まず、地域伝統芸能等の保存・継承及びこれらを活用した地域振興の取組について委員による意見交換を行った。また、地方公共団体において地域伝統芸術等保存事業の対象としている事例や、地域において伝統芸能を活用した取組を行っている事例の中から、委員による実地調査を実施し、中間報告を行った。
 今年度は、昨年度行った中間報告に関して、委員による意見交換を行い、課題解決に向けた調査研究を行った。また、昨年度に引き続き、委員による実地調査を実施し、さらに地方公共団体に「文化を基調とした地域再生に関するアンケート」を実施し、研究会で調査研究を行った。調査研究についての意見交換を行った事項や、課題解決に向けた方向性等を整理すると以下のとおりである。
 
2 地方公共団体における地域伝統文化を活用した地域再生のあり方の課題
(1)総務省は、様々な形で地方公共団体における地域づくり、地域振興を支援しているが、核となるテーマの一つとして「文化」があり、伝統文化の保存・継承の支援を通じて、地域を一つに結びつける施策についても積極的な支援が必要である。
 また、平成13年12月に文化芸術振興基本法(以下「基本法」という)が制定され、国・地方公共団体が一体となって文化振興に取り組んでいく体制が整備された。基本法制定以前から独自に条例を定め、先進的な取組みを行っている地方公共団体もあるが、この基本法を受けてさらに文化振興に取り組んでいこうという機運が盛り上がっている地方公共団体も各地にあり、多くの地方公共団体における同様の動きが期待される。
(2)かつて地域伝統芸術文化を豊富に保有していた多くの地域において、過疎化や高齢化等の要因から、後継者や指導者の不足、実演などを支える地域コミュニティの弱体化、価値観の変化や多様化による伝統的なものへの関心の低下などの課題を抱えている。
(3)また、地域伝統文化の保存会等の多くは財政難の状態であり、それを支援する地方公共団体についても厳しい財政事情にあり、多額の財政負担をすることは困難である。
 さらに、こういった問題を各団体がもちながら、問題の共有化等がはかられていない状況がある。
(4)こうした状況の中では、「市区町村を中心とした企画・運営力の強化」、「地域伝統芸能の保存・継承における『楽しさ』、『おもしろさ』の重視」、「小中学校における地域伝統芸能の教育の充実」、「地域伝統芸能を基礎としつつ、現代的な新しい感覚の導入」、「地域住民、民間企業等を巻き込んだ財政基盤の強化」、「地域伝統芸能の地域間ネットワークの拡充」等を中心とした取組を各々の地域伝統文化にあった手法で取り組んでいく必要がある。
 
3 地域伝統芸術等保存事業の実施状況と今後の考え方
 平成11年3月、梅原猛(国際日本文化研究センター顧問)氏を会長とした「歴史的遺産・伝統文化(伝説・神話等)の活用による地域おこし懇談会」により、「地域文化財保存・歴史的遺産活用による地域おこしのためのプログラム」が取りまとめられた。このプログラムに基づいて、平成11年度から地域伝統芸術等保存事業が行われることとなった。
 この地域伝統芸術等保存事業は地域伝統芸能等の保存、活用を通じて地域おこしの取組みを、全国レベル・都道府県レベル・市町村レベルにおいて、それぞれ取り組んでいこうというものである。全国レベルとしては「地域伝統芸能まつり」の開催、都道府県レベルとして都道府県イベントを支援する事業、市町村レベルとして伝統芸能等の映像記録保存に助成する事業で構成されている。この3つの事業が一体となって、地域伝統芸術等の保存を通じた地域おこし事業を進めている。この地域伝統芸術等保存事業を開始して、5年が経過しており、これまでの実施状況と今後に向けた考え方を整理するため意見交換を行った。
 地域伝統芸術等保存事業は、各事業とも地方公共団体における地域伝統芸能の保存・継承、地域住民の新しいふるさとづくりへの取組みや、地方公共団体の文化環境づくりの向上に大きく寄与している。これまでの実績を踏まえ、今後さらに充実したものにするためには、本事業について、地方公共団体での取組みに差異が見られるので、事業の活用による有効な手法等を各地方公共団体へ紹介する。国レベル、都道府県レベル、市町村レベルでの取組みの結びつきを強めるとともに、外部に情報を発信していき、地域伝統芸能の保存・活用、それによる地域おこしを広く全国の住民が関心を寄せるようにする。
 そのためには、例えば、近県の都道府県イベントが集合したようなイベントの開催や企画・運営力に優れた市等でのイベントの開催等も考えられる。国においては、こういったイベントの開催を広く全国へ情報発信することも考えられる。
 また、市町村レベルにおける映像記録保存事業については、地域伝統芸能等の貴重なデータベースになりつつある。
 昨年度まで問題であったデータの有効な活用については、この研究会で「保存しているデータをさらに活用していくため、例えばインターネットによる配信や、DVD方式で保存するなど、今まで以上に外部に発信することができるよう環境を整えていく。」と指摘したことを受け、総務省と財団法人地域創造が連携し、平成17年度から事業開始が予定されている「地域資産のデジタルコンテンツ発信事業」等を活用し、外部に発信するなどの有効な活用方法が考えられる。


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