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3 最近における地方財産税の動向
 地方財産税については、昨年アメリカヘ調査に行った結果を中心にまとめたものである。
 7ぺージは地方財産税の概念図である。基本的には、課税標準を計算し、税率を掛けて税額を出す。それから減免措置を引いて実際の税額になるという仕組みである。評価率の右側に税率があるが、税率は基本的に表面税率が先に決まり、表面税率に評価率を掛けて実効税率が出る。表面税率は大幅に変動するが、実効税率はあまり大きく変動しない。そのバッファーは評価率のところで調整している。評価率は、アセスメント・レーシオといわれる対象資産別の評価割合(例えば事業用資産75%、居住用資産50%)のことである。ボストン市は、これ以外に賃貸用アパートがあり、商業資産、居住用資産及び賃貸用のアパートと大きく分けて三つのアセスメント・レーシオを設けている。
 ところが、このアセスメント・レーシオは、法定され比較的固定されているにもかかわらず、評価率は大幅に変更されている(表1112参照)。評価率は13.4とか32.0など極めて不自然な数字であり、居住用資産の評価率がここまで違うのはおかしい。おそらく、商務省の統計では十分に説明がされていないが、この評価率はアセンスメント・レーシオではなく、何か結果的に出てきた評価率であり、実際の税負担を余り変えないために、アセスメント・レーシオ以外の概念として評価率が使われているのではないか。
 資産価格の算定は、居住用建物では比較事例法、収益用資産では収益還元法、一部の償却資産については原価法で行っている。情報公開も積極的に行われており、年間の財産税額、広さ、部屋数等の情報が全てインターネットで閲覧できる。そこで見取り図も閲覧できるため、適正に資産が評価されているかも確認できる。もし、平均の評価率と自分の資産の評価率が大きく異なっていた場合には、まず資産評価を担当したカウンティに不服審査を申し出て、認められなければ、州にもEqualization committee(平衡化委員会や均衡化委員会などと訳される;英語の名称は州により若干異なる)があり、そこで請求が認められれば即調整される制度になっている。このように情報がオープンにされていることなどにより評価は適正になされている。評価する側についても、研修を受けることにより徐々に上級になっていく資格制度を採用しており、インセンティブのある者を適正に評価している。また、毎年、IAAO(International Association of Assessing Officers; 国際評価委員協会)の大会が開かれ、評価方法についての議論も行われている。
 次のぺージはCAP(Capitalized Assessment of Properties)をめぐる問題と財産税の免税団体をめぐる問題についてである。CAPは収益還元を商業資産等の収益性資産について、収益還元法で価格、要するに評価額を決めるものである。その際の還元率については、地方財産税に関する統一評価基準がある。なお、IAAOの大会で話を聞いてみると、現状は統一評価基準に依存し過ぎており、もう少し地域独自の状況を考えて、収益管理価格を出さなくてはならないのではないかということが頻繁に言われていた。
 財産税の免税団体をめぐる問題では、公益団体について減免措置を講じているところが相当あるが、公益団体の定義についても適正に運用した方がいいのではないかということが言われている。
 3ぺージ目は、テネシー州のナッシュビル市とペンシルバニア州のハリスバーグ市の二つの自治体に、地方財産税の調査に行った際の調査結果である。ナッシュビル市は余り大きな特徴はないが、ハリスバーグ市は非常に興味深い。ペンシルバニア州は財産税の税率について、建物と土地を分けて異なる税率(土地に対する税率を建物より高く設定)を適用する制度(SRT; Split rate tax)を導入している唯一の州である。その理由は、建物を安くすることにより、企業を誘致し、経済開発を促進するためであるが、実際、ハリスバーグ市に調査に行くと、このSRTにより、企業進出が大幅に増加し、非常に有効な制度であるとのことであった。
 実際の税率の決め方については、10ぺージの【税額の決まり方】にあるとおり、最初に2002年のMillage Rateが6:1と決められる。これは土地に対する税率は建物のそれの6倍ということである。Millage Rateは、政策的に決められており、当初は3:1であったものが、徐々に引き上げられて6:1になったとのことである。
 xは基本税率であり、これは後から決まってくるものである。その下に土地評価額が3億7,192万4,800ドルとあり、それに6xを掛け、建物分については、建物の評価額13億3,024万9,300ドルにxを掛ける。そして、1,449万2,674ドルという必要な税収に対して、Millage Rateを掛けた後の土地及び建物の評価額で割り戻せば、税率xが決まってくる。そして土地の評価額に算出された税率0.024余りを掛けると土地の税額は907万ドル程度、同様に建物については税率0.004余りを掛けると建物の税額は541万ドル程度に決まっていく。これらを合算したものが、この年のハリスバーグ市の財産税収総額になる。
 ただし、公共のオフィスビル、ガレージについては減免措置があり、それらを差し引いた上で、それに徴収率0.885を掛けたものが、徴収額(1,200万ドル余り)となる。
 実効税率は、徴収額をMillage Rateを掛ける前の評価額で割ったものである。よって実効税率は8.522パーミルになる。また、実効税率を表面税率で除して算出した実質的な評価率(形式的な負担率と実質的な負担率の乖離度を示す)は、いわゆるアセスメント・レシオ(分類課税の評価率・評価割合)とは別のものになってくる。
 表10は少し古いデータではあるが1993年度における州別にみた農地の財産税負担額である。農地に対する財産税負担が相当に軽減されていることがこれからわかる。
 次に、表11、表12は、主要都市の財産税の実効税率、表面税率、評価率を示す。興味深いのは、表11と表12は2000年度及び2001年度の居住用資産について、同じ大都市の実効税率、評価率及び表面税率について調査したものである。表面税率は通常の税率であるが、この表を見ると2000年度と2001年度では、いずれの都市も表面税率が非常に大きく変化している。基本的に税率は財政需要額と、その域内の資産評価額の割合で決まるため、基本的に都市によって変わってくるものである。例えば、上から三段目のニュージャージー州のニューアークを見ると、2000年度分の表面税率は24.88%、評価率が13.4%で、実効税率は3.34%となっている。同じくニューアークの2001年度分の表面税率は3.59%まで下がっている。しかし、評価率が100%まで上昇しているため、実効税率は3.59%でほとんど変化がない結果になっている。他の都市についても表面税率を大きく変えている。しかし、実効税率レベルでは大きく変化しないように評価率を操作している。わずか1年程度で、表面税率を変えるのは財政需要に合わせて表面税率を調整するからであるが、余り税率を変えると負担が過重になるため、評価率で調整する仕組みになっているものと思われる。


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