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I 平成16年度調査報告書
[アメリカの州・地方税制]
名古屋市立大学 前田高志
1 はじめに
 かつて、アメリカの州・地方税制、特に州税制は、非常に多様であったため収れん化の動きが見られていた。一つは経済界からの要請により全米知事会や州議会の連合協議会等の組織が政治的に動いて統一化もしくは統一化に近い形にしていこうという動きがあると同時に州間の競争そして協調という流れが存在していた。
 それから数年が経過し、今回は、依然として州税制を中心に非常に多様であることと、アメリカの地方税制のメインである地方財産税の最近の動きを2つの柱にして報告していきたい。
 
2 州税制の現状
 まず、州税制の多様性を示す資料を表としてまとめたので、順次みていきたい。
 表1は主要な税を各州で課税をしているかどうかの一覧表である。主な州税として、事業免許税(フランチャイズタックス)、法人所得・個人所得等に対する所得税、財産税、天然資源採取税、売上税、利用税及び相続税等を挙げている。
 事業免許税は所得ベースで課税されることが多い。他に法人登録料、登記料等の類似する制度も存在しているが、それは料金として100ドルに満たない微々たる額を納める制度である。
 次に、所得税について、所得税のうち法人所得については、大半の州が課税しているが、サウスダコダ州やネバダ州等、課税していない州も少数ではあるが一部存在している。個人所得になると、法人所得税よりは若干減るものの、多くの州が個人所得にも課税している。銀行税は、金融機関税(Financial institution tax)や銀行税(Bank tax)等の名称で銀行の所得等のみを対象として18州で課税されている。
 財産税は現在6州が州レベルで課税しており、例えばフロリダ州、ケンタッキー州及びルイジアナ州等である。なお、ルイジアナ州の財産税は銀行株のみを課税対象にしており、それ以外の5州については、金融資産等の無形資産に対して課税される税である。基本的に州税レベルで有形資産に課税している州はない。
 また、アメリカは鉱物資源、木材資源及び石油等が豊富に産出されるため、多くの州が天然資源採取税を課税している。売上税、利用税もアラスカ州やモンタナ州等の一部を除いて、大半の州が課税している。
 相続関係の税は、遺産相続人の相続財産に課税する相続税(日本の相続税も基本的にこの形式をとる)と、被相続人の遺産を課税客体にして課税する遺産税の双方のタイプが存在している。連邦レベルでは遺産税が存在しているが、2001年度の税制改革で2010年に廃止されることとなっているが(贈与税は存続)、現在(2002〜2009年の間)、遺産税の最高税率を50%(2002年)から段階的に引き下げて贈与税のそれの35%に合わせること、また、遺産、贈与両税の免税額の拡大が行われている。2009年をもって遺産税が廃止されると、州レベルの遺産税の取扱いについても問題になる可能性がある。相続税と遺産税を両方課税しているコネチカットやインディアナ、ニュージャージー、ペンシルバニアなど10州であるが、これらの州では基本的に相続税を中心に課税し、遺産税形式で課税した場合との負担の差額を付加的に課税している。贈与税を課税している州はコネチカットなど4州のみである。世代移転税については、ジェネレーション・スキッピング・タックス(Generation skipping tax)と言われ、例えば祖父母から孫に対して一世代飛ばして相続をしたときに課される税である。主要な州税の課税状況は、全米でこのような状況である。
 表2に「その他の州税の課税状況」として、主要な州税以外に、どのような税を州が課しているか、ほぼ全て列挙した。アメリカの場合、地方税レベルでは余りバリエーションはないが、州税レベルで見ると、非常に多様な税目が存在しており、例えばアラスカ州では様々な天然資源関係の税を課している。
 表3は、州税収等の内訳についての表である。州税について、州別の一般歳入総額、1人当たりの一般歳入総額、次の欄にマクロの税収総額、1人当たりの税収総額、一般歳入中に占める税収の割合を列挙した。さらに財産税、売上税、個別消費税等の個別の税目が税収総額に占める割合を示している。その次は、一般歳入中に占める使用料・手数料及び連邦補助の割合である。1人当たりの税収で見ると、表中の順位のとおり、コネチカット州やデラウエア州などの北東部方面の州や、アラスカ州のように天然資源が豊富に産出される州の税収が多くなっている。
 一般歳入に占める税収の割合を見ると、全米平均で54.8%であり、そこから大きく外れている州はほとんどないが、上から3番目のアラスカ州は鉱物資源が豊富なため、税外収入が多く、例外的に税収の割合が19.4%と非常に低くなっている。それ以外の州は、40%台や60%台の州はあるが、それほど大きな差は認められない。
 なお、財産税について、2004年度に財産税を課している州は6つしか存在しない(表1参照)が、2000年度決算では、多くの州で税収が計上されている。税収はほとんどの州で少額ではあるものの、この様に多くの州で税収が計上されているのはどういうことかフォローしきれていないので、また別の機会に調査しておきたいと思う。
 全体的には売上税及び個人所得税の税収総額に占める割合が高い。一般歳入総額に占める連邦補助の割合は、全米平均で4分の1程度である。一時期は連邦補助の割合は減少していたが、再び増加傾向にある。
 表4は地方レベルの税収等の内訳を示したものある。2000年度決算で、一般歳入総額、1人当たり一般歳入総額があり、次の欄が税収総額である。地方レベルでは、全米平均で概ね一般歳入の4割程度を税収で賄っている。税収の中で占める割合が最も高いのは、全米平均で71.6%を占める財産税であり、次に売上税が17.2%、所得税が8.0%となっている。ただし、地方レベルで所得税を課している州は少数である。一番右の州補助金の対歳入比が示しているとおり、地方レベルでは州からの補助の割合が高い。これも一時期減少していたが、最近再び増加傾向にある。
 表5は各州の租税負担率(税収対GDP比)であリ、州ごとに州税、地方税及びその両者を合算したものの対州内生産比を示している。州・地方税を合算した租税負担率が高い州は、一般的に州の租税負担率の方が高い傾向にある。例えば、ハワイ州の州・地方税の租税負担率9.7%のうち、州税は7.8%、地方税が1.8%であリ、地方税は全米平均の3.4%を大きく下回っている一方で、州税は全米平均の5.5%を相当上回っている。メイン州及びニューヨーク州などの例外を除き、概ね10%近い租税負担率の州は、州税の負担が重いことが原因である。
 表6は、州法人税の課税状況である。法人税は相当多くの州で複数税率を導入している。複数税率で課税している州には最低税率、最高税率が適用される所得金額を示しているが、相当の格差が存在している。損失の繰戻と繰越は、繰戻の場合は2年程度が多く、繰越は5年から20年まで相当ばらつきがある。
 (4)は連邦所得税を課税ベースから控除しているか、(5)は連邦所得税の課税ベースがそのまま適用されているかということで、多くの州は連邦所得税の課税ベースを適用している。(6)、(7)、(8)、(9)は連邦(法人)所得税の減価償却制度の適用状況であるが、大半の州がこれら連邦の償却制度を利用している。現在は、(6)のACRS(Accelerated coast recovery system; 1981年税法による加速度償却制度)及びMACRS(Modified Accelerated cost recovery system; 1986年改正税による修正加速度償却法)と、(8)の2002年雇用創出及び労働者援護法による特別償却がメインで、(7)の旧加速度償却制度と(9)の旧償却制度は、比較的古い償却資産に対して適用されるものである。一番の多く利用されているのは(6)の中のMACRSである。
 (10)は、州際企業の所得をどの州に帰属させるかという州間の所得分割基準であるが、これも非常にばらつきが大きい。UDITPA(Uniform Division of Income for Tax Purpose Act)は統一された分割基準で、また、MTC(Multistate Tax Compact)はUDITPAの準則的な、細かい規則集の様なものである。UDITPAを採用していない州はかなり多く、州間で法人の所得の帰属については、かなりばらつきがあり、全米州知事会等がUDITPAを採用するように州に働きかけているものの、なかなか統一は図られていない。
 (11)のIRCへの統一性とは、連邦の所得税制へ州が合わせているかということである。やはり納税者に対して税負担以外の負担をかけることに関しては、各州とも問題意識がある様で、IRC(連邦税法)に統一していこうという意思が現れている。
 それは(10)のUDITPAについても、このまま批准せず、現状のままでよいということにはならないのではないかと思われる。しかし、各州の税制が今のようになったのは、歴史的な経緯からきたものが多く、余り合理的、政策的な理由がないことも多く、容易に解決できるものでもないであろう。
 表7はインセンティブとしてエンタープライズゾーン、投資税額控除、研究開発投資控除の採用状況について示したものである。エンタープライズゾーンとは、具体的には所得税、営業権税、売上税等の減免のことである。そのうち、財産税については州レベルで統一して減免を命令しているのではなく、地方が独自に減免を実施している州については、「地方のみ」としている。全米の多くの州で、何らかのインセンティブを採用している。
 表8は、州個人所得税の概要である。税率の欄を見るとミズーリ州やモンタナ州などは税率の数が10程度に分かれており、非常に細かい税率構造となっている。また、最高税率、最低税率が適用される課税所得の額にも州毎に随分違いがあり、最高税率が適用される課税所得が25万ドルや50万ドルという州もあれば、3,000ドルの州もあり、非常にばらつきがある。これについては、全く統一化、収れん化の動きは起こっていない。
 表9「州売上税の概要」のうち、○や×とあるのは、○は非課税措置(exemption)を適用しているものである。売上税の税率も非常にバリエーションがあり、過去には収れん化の動きがあると報告していたが、それでも依然としてこれだけの違いがある。
 我が国においても、税源が移譲され、将来的に課税に関して様々な自主権を認めることになった時に、これだけのことが覚悟できるか、ここまで行くのかという話が出てくる可能性があるのではないか。


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