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船絵馬入門

 事業名 海事科学知識の普及啓蒙活動
 団体名 日本海事科学振興財団 注目度注目度5


一 第一期(延享期〜安永期)の船絵馬
 幕藩体制の確立によって一七世紀後半から国内海運は急速に発展し、瀬戸内海の代表的な廻船である弁才船が全国的に用いられるようになった。航海安全を祈願した船絵馬に描かれる船が弁才船一色なのはそのためである。
 初期の作品としては、万治四年(一六六一)に吉野金峯山(きんぷせん)寺蔵王堂に奉納された弁才船の大絵馬(図7)がある。これはまだ近世初期の風俗画的表現から抜け切っていないうらみはあるにしても、船の表現には写実性が加わり、来るべき一八世紀の船絵馬の出現を予感させるところがある。けれども、風俗画としての技術の確かさと芸術性からすると、残念ながら落款は剥落して読みとれないが、絵馬師ではない名のある絵師の手になったと考えるべきだろう。ともあれ、これは豪商仲間の特注品であって、庶民的船絵馬の中には入らないものである。
 金峯山寺の大絵馬に次ぐのが正徳三年(一七一三)に宮浦(福岡市西区)の三所神社に奉納された絵馬で、三艘の弁才船が描かれている。風俗画的表現が残るものの、船の描写はさらに写実性を増し、これから論じる狭義の船絵馬、つまり船舶画としての写実性が認められる普遍的な船絵馬の出現がほど遠くないことを思わせる。
 狭義の船絵馬の初見は、延享二年(一七四五)に土佐神社に奉納された弁才船の絵馬二面(図8)で、岩屋(神戸市灘区)の敏馬神社(みぬめじんじゃ)に奉納された同三年の三光丸の絵馬(図9)と寛延(かんえん)元年(一七四八)の絵馬(図10)がこれに続く。画面一杯に描かれた帆走する横向きの弁才船を見ると、水押(みよし)、五尺(ごしゃく)、垣立(かきたつ)をはじめとする船体各部は、まぎれもなく一八世紀中期の弁才船の特徴を示しており、弁才船についての技術的な知識がなければとうてい描けるものではない。さすがは船絵馬と感心させられるが、ただ絵師の表現力の不足なのか、時代性なのか、船のプロポーションは必ずしもよくないうえ、気になる省略やくずれも散見される。絵画表現のうえでは一九世紀前期のような写実性はないが、それでも同時代の一般の絵師の描く船の絵と比べると格段の差なのだから、後代のように船絵師とはいわないまでも、船絵馬を得意とした絵馬屋がいたことは確実である。
 側面から見た一船を一面に描く絵馬を標準形式の船絵馬と呼ぶことにして、ここで注目すべきは、船体や背景や構図に関して延享・寛延期(一七四四〜一七五〇)の標準形式の絵馬には宝暦・明和期(一七五一〜一七七一)以降の船絵馬と共通する表現が一種の類型として認められることである。たとえば、先にあげた絵馬を宝暦六年(一七五六)に白子(鈴鹿市)の江島神社に奉納された菱垣廻船の絵馬(図11)と比べてみると、それがよくわかるだろう。江島神社の絵馬は、船体のプロポーションや船体各部の構造の写実性には不満が残るものの、それでも横風・逆風帆走時の操帆法は的確に描かれている。
 明和・安永期(一七六四〜一七八〇)ともなると、現存する絵馬がかなり多くなるとともに、様々な画風の絵馬が現れるが、絶対量の不足はいなめないので、絵画様式による流派立ては無理である。ただ、例外は安永六年(一七七七)に寺泊町(新潟県三島郡)の白山媛神社(はくさんひめじんじゃ)に奉納された永福丸の絵馬(図12)である。この手の絵馬は明和元年(一七六四)から寛政一二年(一八〇〇)までの間に一一面あり、年記のないものまで含めると一五面におよぶ。ところが、奉納された寺社の所在はすべて新潟県で、しかも南は糸魚川市から北は寺泊町までの狭い範囲にしか分布していない。となると、この手の絵馬は特異な背景や特徴的な船体・帆装・人物の表現などから、どうやら新潟あたりで作られた地方的な船絵馬とみるのが妥当なところであり、この手の絵馬のように画風を極端に省略した小絵馬が新潟県下に多いこととも符合している。
 
図7 万治4年(1661)の弁才船の大絵馬
金峯山寺蔵
 
図8 延享2年(1745)の弁才船の絵馬
土佐神社蔵
 
図9 延享3年(1746)の弁才船の絵馬 
岩屋の敏馬神社蔵







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