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第3章 まとめと今後の課題
(1)地形歪み除去技術の開発
 本研究では、昨年度まで使用していたSeabat8101システムで収録したデータに代わり、ANKOU装置で収録したサイドスキャンソーナーデータに対して研究を実施した。このため、ANKOU装置に関するデータの収集及び整理を行い、さらに、処理を行う対象海域を底質分類の条件を考慮し決定した。また、ANKOU装置で収録したサイドスキャンソーナーデータに対して、決定した研究対象エリアで、昨年度までに開発した音響画像データに含まれる地形歪みを除去する方法の研究開発を実施した。処理を実施した研究対象エリアは、海底面が比較的平坦であったため、昨年度のように目視による画像の移動の検討を行うことができなかった。しかし、データから移動量を検討した結果、海底面に変化が存在する位置では、水平方向の移動量を確認できた。このことから、昨年度までに開発した地形歪み除去方法は、ANKOU装置で収録したサイドスキャンソーナーデータに対しても有効であることを確認した。
 
(2)底質分類の可能性に関する開発研究
 ANKOU装置を用いて海底底質の分類の可能性について検討した。海底底質の分類には、「後方散乱強度による海底画像より分類する方法」と「後方散乱強度分布モデルから海底面の凹凸と底質を推定する方法」の2つの分類方法を用いた。以下に実施した開発研究の内容を示す。
(1)ANKOUの収録データから後方散乱強度を求める必要があるため、ANKOUのソーナー方程式に関する資料を収集した。また、求めた後方散乱強度から海底画像を作成し、研究対象エリアにおいて、作成した海底画像に対し前処理を実施した。前処理として以下の処理を実施した。
(ア)発信出力の検討
(イ)海面反射データ除去
(ウ)不良データ除去
 
(2)後方散乱強度値による海底画像より分類する方法
 後方散乱強度値を使用して作成した前処理後の海底画像に対してテクスチャ解析を実施した。その結果、後方散乱強度を使用することにより、測線間の濃度のバラツキによる誤分類の影響を少なくすることができた。また、海面反射データの除去、不良データの除去等前処理を行うことも誤分類の影響を小さくするためには濃度補正が必要であることを確認した。さらに、放射量補正も、テクスチャ解析において、誤分類の影響を小さくするためには、有効な方法であることを確認した。今回、研究対象エリアにおいては、後方散乱強度値を使用し、かつ、放射量補正を含め、前処理を適確に行ったことにより、誤分類の影響を小さくして、設定した3つの底質でグルーピングを行うことができた。
 しかし、今回使用したANKOUデータから作成した画像は、ダイナミックレンジが狭い。さらに、作成した画像では、曳航体直下近傍と探査幅端の値の差を補正する放射量補正を行うことにより、曳航体直下近傍の値の高い部分を是正するように補正でき、画像の放射輝度が全体的に均一に補正された。この結果テクスチャ解析の誤分類の小さくすることができた。しかし、画像の放射輝度を全体的に均一に補正したため、ダイナミックレンジが狭くなった。放射量補正後の研究対象エリアの画像では、ダイナミックレンジは、15前後であった。このため、底質のグルーピングは3つと少なく、分類項目を増やすことができなかった。また、ダイナミックレンジの狭さの影響から、昨年度までに使用していた濃度共起行列により求めた特徴量では、有効に分類することができなかった。従って、テクスチャ解析により、詳細に、かつ精度良く底質を分類するためには、ダイナミックレンジを現在の2倍から3倍程度広げることを検討する必要がある。
 
(3)後方散乱強度分布モデルから海底面の凹凸と底質を推定する方法
 ANKOUソーナー方程式をもとに求めた後方散乱強度と、composite roughness + volume散乱モデルを使用して作成した後方散乱強度分布モデルとを比較することにより底質を分類した。ANKOU収録ファイルより求めた後方散乱強度のデータについては、グランドトルスデータが存在する場所や、「後方散乱強度値による海底画像より分類する方法」で行ったグルーピング結果を考慮し、5つのラインを設定した。さらに、設定した各ラインの後方散乱強度のデータに対しては、実海底面を考慮した入射補角による修正を行った。
 一方、後方散乱強度分布モデルは、Jackson(1986)、Mourad and Jackson(1989)に示された理論に従って、海底面のラフネス散乱と底質の体積散乱を入射補角と観測波長に依存して評価し作成した。
 設定した各ラインの後方散乱強度と作成した後方散乱強度分布モデルを使用し底質を分類した結果、研究対象エリアにおいて、入射補角30度から60度範囲で、底質を分類することができた。
 モデルによって底質の粒径区分の推定を行った結果、熊野第3海丘、第5海丘およびリファレンスコアサンプルの情報と矛盾しない結果が得られた。
 モデルの計算結果から、入射補角1度ごとに粒径によって観測後方散乱強度を分類し、平面モザイク図による底質分布図を作成することができた。
 しかし、個々のモデルのパラメータの決定には、既往の知見から得た情報のみを使用しており、底質の堆積物に固有な密度、音速度比、散乱に影響する消散係数および海底面のラフネスに関する観測値があれば、より正確な底質分類や、今回行うことができなかった海底面のラフネスパラメータの推定などが可能になるものと期待される。
 
参考文献
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