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2004年度 早稲田大学国際教養学部 寄付講座 報告書 「マンガとアニメ:日本文化・社会の表現」

 事業名 基盤整備
 団体名 東京財団 注目度注目度5


ポケモンが世界にもたらしたもの
 
久保雅一(小学館キャラクター事業センター長)
早稲田大学卒。ポケモンブームの仕掛け人。知的財産戦略本部コンテンツ専門調査会委員、プロデューサー人材育成支援事業委員会委員、東京国際アニメフェア実行委員等も務める。
 
 久保――僕は、一番最初は出版社の営業をやっていました。それから編集者になりプロデューサーになって、『ポケットモンスター』その他いろいろな番組のプロデュースに関わっています。きょうは4つのテーマを持ってきました。まず日本のテレビアニメーションについての話、2番目にキャラクタービジネスの話、3番目に日本と世界のコンテンツインダストリーの最新の情報、最後にこれからの課題をご紹介します。
 
日本のアニメが評価される秘密はマンガにあり
 
 日本製アニメは世界で65%のシェアを持っているといわれています。業界全体の規模もワールドワイドでは2兆円を超えているということで、産業として非常にがんばっていると思います。
 日本のアニメは、1963年に『鉄腕アトム』『鉄人28号』『エイトマン』『狼少年ケン』がスタートしたことで、実質的に始まりました。それ以後、作品数は大変増えてきて、現在では衛星波を含めると毎週87本の新作アニメが放送されています。
 シェアは、第1位がテレビ東京、以下NHK、フジテレビ、テレビ朝日、アニマックス(ケーブルテレビ)で、87本中58本が地上波で放送されています。大変厳しい業界で、2004年4月の番組改編では50本が新しい番組に変わりました。常にリニューアルが激しく行われていて、次々に新作が出ていると理解してください。
 日本のアニメーションは、なぜ、そんなにイケているのでしょうか。いくつもの理由があると思いますが、特に、(1)子どもたち(ファン)の心をつかむキャラクターがある、(2)意外性の高いストーリーがある、(3)魅力的な世界観が豊富にある、(4)キャラクター・マーチャンダイジングがしやすい、(5)海外展開がしやすい、(6)幅広いファン層を持っている、(7)次々に新しいものが生まれてくる、といった7つの魅力があります。
 日本のアニメが、日本国内だけでなく海外からも高く評価されている理由は何でしょうか。答えはマンガ(コミック)です。87本のアニメのうち約60%はマンガをベースにしています。トップ50の視聴率を見ると、『ポケモン』以外はマンガを原作にしたアニメです。そういう意味ではマンガは、quality(質)の面でもquantity(量)の面でも日本のアニメを支えているといえるのではないかと思います。
 日本では1959年に、『少年サンデー』と『少年マガジン』という2つのマンガ雑誌が創刊されました。アニメがスタートした4年前のことです。現在では約7万タイトルのマンガ作品があり、毎月1億2000万部の雑誌や単行本が売られています。ですから日本の国民は毎月1人1冊ずつマンガを買っているということで、こんな国は本当に日本しかないのではないかと思います。
 僕は、『コロコロコミック』という雑誌の編集者を長くやって、いろいろな作品にかかわってきています。最初は『ビックリマンチョコ』で、次に『おぼっちゃまくん』という作品を担当して「おはヨーグルト」とか「こんばんワイン」という言葉を流行らせたりしました。その後、ミニ四駆とかミスター・マリックの「超魔術」ブームをお手伝いして、1996年に『ポケモン』に出会いました。最初はマンガの編集者とプロデューサーと2つの仕事を同時にやっていたのですが、あまりにも『ポケモン』の仕事が大きくなったので編集者の仕事を辞めて、いまはプロデューサーです。
 『コロコロコミック』は毎月130万部ぐらいcirculation(発行部数)があります。日本の小学生(6〜12歳)は800万人いて、そのうち半分の400万人の男の子に対して130万部のシェアを持っているのですから、回し読みをしている人たちも含めると2人に1人は間違いなく読んでいるという、小学生のバイブルみたいな雑誌です。
 マンガはこうした週刊誌には毎週20ページずつ連載されます。約2ヶ月で8回連載されると、それをまとめてコミックス(単行本)として売ります。週刊誌でかなり原価償却が終わっていますから、コミックスは原価率が低く、そういう意味では作家や出版社にとって非常に利益率の大きい商品になっています。例えば『金色のガッシュ!!』は、初版で100万部出ます。約400円の本が100万部ですから、これ1冊で約4億円ぐらいのビジネスをするということです。そうしてコミックスが8巻ぐらいたまってくる、つまり連載1年半から2年ぐらいするとアニメの企画が立ち上がります。
 ちなみに、ガッシュという商標がとれなかったので、アニメは『金色のガッシュベル!!』で放送しています。また、海外でも売りに出ていますが、ガッシュという言葉は英語ではイメージ的にあまりよい言葉でないということで、アメリカではカトゥーンネットワークが「Zatchbell ザッチベル」という名でオンエアしています。
 そして、テレビで人気が出てくると映画になります。小学館でつくっている有名な映画を並べてみると、アニメは非常に重要なポジションを占めています。映画では『ポケモン』が6年連続、『名探偵コナン』が7年、『ドラえもん』が25年続いていますが、毎年のようにアニメ映画の新作を公開するのは日本だけの特色かもしれません。
 マンガをアニメの原作にするメリットは、まず、キャラクターとストーリーと世界観が一遍に手に入ります。アニメをつくる上でストーリーボードが必要ですが、マンガを原作にするとすぐれたストーリーボードも同時に手に入れることになります。また、マンガがあれば、スタッフの意思統一もはかりやすいでしょう。マンガは何百万部も出版されるので、映像化される前に数百万人の固定ファンを持っていることになりますから、そういう人たちが番組を見れば視聴率も上がると期待できます。
 ライセンシーは、おもちゃ会社やゲームメーカー等が、テレビ放映前にマンガをマーケティングデータとして使えるし、そこから商品企画その他さまざまな企画を立てやすいというメリットもあります。そして最後に、マンガは30巻ぐらいのボリュームを持っている作品がたくさんあるので、長期間にわたってビジネスを構築できます。
 もちろん良いことばかりではありません。最近、アニメの視聴率はそんなに良くありません。かつて『サザエさん』は20%以上の視聴率があったのですが、いまではそんな高い数字はとれなくなっています。理由の一つは、子どもたちがインターネット、携帯、塾で忙しく、なかなかテレビの前に座ってくれなくなりました。テレビの前から子どもがいなくなり、座っているのは50歳以上の女性ということです。
 それから、インターネットによるテレビ番組の視聴がなかなか実現しません。韓国では、放送後10分でその番組をインターネットで有料視聴することができます。多少画質の良いのが見たければ100円、そんなに鮮明でなくてもよければ50円で見ることができるのです。これは日本ではできません。テレビ局は視聴率が下がるのを心配するし、俳優さんや女優さんたちの実演家の権利の調整もできないからです。反対に韓国では簡単にインターネットで見られるため、DVDはレンタルばかりで、セルの市場はほとんど成立していません。マンガもレンタルばかりなので、発行部数は小さく限定的なため、マンガ家は本を売って暮らすことができません。
 
世界的なキャラクタービジネスへの道
 
 アニメにおいてキャラクターは最も重要な要素です。皆さんは、さまざまな映画やテレビ番組をご覧になっていると思いますが、どんな話だったかあまり記憶に残っていないことも多いのではないかと思います。記憶に残っているのはキャラクターだったり、登場人物がどんな人だったかということだと思います。キャラクターは人の心に残りやすい。ヒットする作品をつくりたければ、まずヒットするキャラクターをつくるべきなのです。
 キャラクターをつくるために必要なのは2人の人間です。2人というのはプロデューサーとクリエイターです。ものをつくっている人はよく、「僕1人だけいれば大丈夫」という言い方をするのですが、ほんの一握りの天才を除き、殆どの方は決して大きなヒットに恵まれないと思います。つくっているうちに、だんだん狭い所に気持ちが入っていってしまうので、その他多勢がどう捉えるかという考え方ができなくなります。
 クリエイターにはフレキシブルな面が求められます。マンガ家さんが描いてきた原稿のラフを見せてもらって、僕が一生懸命、理路整然と、こうしたほうがおもしろいと説明しても、「久保さんの言うことはよくわかるんですけれど、僕はそういう話は好きじゃないんです」と言われてしまうことがありました。こうなってしまうと、もう話が続きません。クリエイターには人の話をちゃんと聞くという、フレキンブルな要素が欲しいと思います。
 プロデューサーには、よいものを見分ける能力が必要です。普通のものにどうアドバイスしたら良くなるのか、という能力も必要です。この2つを持っていれば誰でもプロデューサーになれます。よいものの情報はいろいろな所に落ちているので、それをすばやくキャッチして、さまざまなハードルを飛び越えていって、最後の権利者にアタックすることができれば必ずビジネスになる。その意味では、すばやく動くという要素もプロデューサーには必要かもしれません。
 いまから2、3年前の話ですが、息子の幼稚園の遠足で、バスに乗っている間に子どもたちが好きな歌を1曲ずつ歌ったところ、25人中約9人ぐらいはピグミンというゲームのコマーシャルソングを歌ったそうです。翌日、女房からその話を聞いてすぐ僕は任天堂に電話して、その歌の権利はどうなっているのか尋ねました。すると、東芝EMIからCDを出すことだけ決めたというのです。僕は東芝EMIの人を誰も知らなかったので、たまたま東芝EMIの向かい側に会社がある吉本興業の友人に誰か紹介してくれと言ったら、EMIの社長を紹介してくれました。そこで東芝EMIの社長に、ピグミンのCDのキャンペーンを僕がまとめてやるから任せてほしいと言ったところ、信頼して預けてくれたのです。たった2日間で、小学館ミュージックは大きな利益を上げました。
 こういう仕事をしていると、いろいろな人が僕に自分の描いた絵を持ってきてくれます。「すごいキャラクターをつくったから、ぜひ見てほしい」「すぐ売りたい」「絶対ヒットする、間違いない」というような感じで来るわけですね。僕は経験則からなる20項目ぐらいのチェックリストを持っているので、それに照らしあわせて何点取るかで、そのキャラクターを自分の仕事とするのか、誰かを紹介するのか、もう止めて故郷(くに)に帰りなさいと言うか、返事を3パターンか4パターンぐらい決めています。
 チェックリストの20項目のうちいくつかをご紹介しましょう。特に僕が重視している項目は、シルエットでそのキャラクターがわかるか、ということです。ミッキーマウスもドラえもんもピカチュウも、シルエットの状態でキャラクターがわかりますね。それから、子どもが簡単に描けるか、ということ。これはいわゆる一筆書きで描けるのかという意味もあります。
 誰もがわかりやすい、シンプルでユニークな名前、というのも重要です。しかし、シンプルでユニークな名前はなかなか商標がとれません。おそらくカタカナの4文字は全滅です。5文字以上でも、「ぬ」とか「ね」などから始まる言葉はとれるのですが、「あいうえおかきくけこ」あたりから始まる言葉は全滅でしょう。
 幸いにして「ピカチュウ」はワールドワイドでとれましたが、「ポケットモンスター」という言葉はアメリカですでに類似商標が登録されていました。それから、ポケットモンスターという言葉自体が、スリというような語感もあるので、そんなにいい感じではないんですね。そこでタイトルを「Pokémon」としました。eにフランス語のように点を打ったのは、打たないと「ポークモン」になってしまうからです。ちなみに、アメリカ人にこれを何と読むのか聞かれたとき、たまたま任天堂の人が京都弁で「ポケモン」と語尾を上げて答えてしまったので、アメリカでは歌ですべて語尾が上がっています。
 さて、「The character business is about catching people's・・・」という文章の最後のブランクには何が入るでしょうか。正解は「hearts」です。映画・ゲーム・キャラクターなどのエンタテインメントビジネスは、人の心が動いて初めて成立します。そういう意味では生きていくためには必要のないビジネスですが、でもいったん心が動いてしまうといろいろな人にそれを伝えることができるし、国境・文化・宗教・経済圏は障害になりません。ピカチュウはどこの国でも愛されるのです。
 皆さんがキャラクタービジネスを始めるとしたら、どこから始めればよいでしょうか。映画監督になって、2時間で人の心を動かすアニメを作ってください。当たり前のことかもしれませんが、世界の人の心を動かすにはまずテーマを考えなければいけません。世界共通のテーマをつくって初めてワールドワイドのビジネスが成功していくのです。
 では、世界共通のテーマとは何でしょうか。アドベンチャーは、冒険に出発する理由を説明しなければならないので、出発するまでにかなり時間を使ってしまいます。ロマンは、いろいろな恋愛があって、国によっても恋愛は違うわけですから、世界共通のテーマにはならないかもしれません。フレンドシップも、どういう友だちなのか説明しなければならないので、むずかしいです。
 デス(death)は、もしかすると世界共通のテーマになると思います。死は誰にでもくるものですから。でも、いつも誰かが死ぬ映画ばかりつくるのは悲しいですね。誰かほかに思いつきませんか。平和もいいかもしれませんが、ドラマはつくりづらいかもしれません。バトルは、闘いに至るまでの説明をしなければいけない。家族というのは、いいところをついているかもしれないです。
 答えは、「親子愛」です。親子をテーマにして冒険の話をつくるのがハリウッド・パターンです。ちなみにもう一つのハリウッド・パターンは、冒頭30分で関係者が全員登場することです。『スターウォーズ』『インディ・ジョーンズ』『A. I. 』『アルマゲドン』『ファインディング・ニモ』もそうです。親子と言うだけで2人の関係がわかってしまうし、説明がいらないのですぐストーリーに入ることができます。
 実はそれ以外にもう1つ、動物と飼い主の関係というのもあります。動物は、クリーチャーと言ってもいいかもしれません。アラブでも日本でもヨーロッパでも自分の飼っている動物はかわいいんです。飼っている動物と飼い主の関係を映画にした作品はたくさんあります。これを利用した世界的な作品が、『ポケモン』です。
 『ポケモン』について簡単に説明します。『ポケモン』は、1996年2月28日発売のゲームからスタートしました。TVアニメは、67ヶ国+2テリトリーで放送しています。これはなかなか多い数字ですが、アラブの国では放送していません。アメリカでヒットしたというイメージがすごく強いのと、星がクロスしたようなアイコンが1個あって、これがキリスト教的であるといわれたからです。世界中でビジネスをすると、こういうことにも注意しなければなりません。
 それから、『ポケモン』のカードゲームは140億枚出ていますから、世界中の人々が1人2枚ずつカードを持っている勘定になります。







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