日本財団 図書館


海外におけるマンガの収集と研究
 
モーリーン・ドノバン(米国オハイオ州立大学助教授)
オハイオ州立大学カトゥーン・リサーチ・ライブラリーで、日本のマンガ収集に携わる。
 
日本について学ぶための重要な情報源としてのマンガ
 
 ドノバン――皆さんは日本にいますが、海外でマンガのことを学ぼうとしている人の立場になって考えてみてください。皆さんは、多くの資料にアクセスできますし、マンガに囲まれています。それに、もうすでにマンガのことについてたくさん知っています。皆さんの多くは、マンガ文化と共に育ちましたが、外国には、マンガのことをしきりに学びたがっている人、目にすることはあっても、どこから始めたらいいのか、どうしたらもっとマンガのことを学べるのか、分からない人がいます。私は皆さんに、芸術や文化、そして日本について学ぶための大切な情報源としてのマンガを紹介したいと思います。また、このような分野だけでなく、おそらくどの分野にも応用できる研究方法を紹介したいと思います。知らないことについて調査や研究を行うための、情報の分析方法や収集方法です。
 それでは、話を進めましょう。『Manga Design』について少し話をします。分厚い本です。マンガの百科事典みたいなものですが、出版されたばかりで、世界中で発売開始になっているところだと思います。この本の説明によると、日本語版もあるそうです。日本語版も同じかどうか、まだ見たことがないので分かりません。読み始めたばかりですが、私の意見では、マンガに関する英語の情報源としては、大きな前進です。英語だけでなく、フランス語やドイツ語でも書かれています。著者はAmano Masanaoです。
 これまでにも、フレッド・ショットが書いた『Manga, Manga!』のように、すばらしい本がありました。皆さんの中に、マンガに関するそのような英語の本を見たことがある人が、どれだけいるでしょうか。あるいは、テリー・コンチーニが書いたフランス語の本などです。しかし、そういった本は、たいてい、ジャンル別に整理されています。そのため、私は、マンガ収集を始めた頃、ジャンルで明確に分類できると思っていました。しかし、漫画家は、様々なジャンルで描くことができるものだと、経験を通して知りました。この本は、漫画家という視点で書かれていて、一人一人の漫画家の創造力を洞察し、マンガという分野にそれぞれの漫画家がどのような貢献をしたかを記しています。この点については、後でまた話します。
 
マンガが図書館に与える影響
 
 私が所属する大学は、米国オハイオ州コロンバスにあるオハイオ州立大学です。キャンパスの真ん中には、オーバルと呼ばれる大きな長円形の広場があります。オーバルを見渡す小高いところに総合図書館があり、オーバルを挟んで図書館と反対側に美術館があります。美術館の地下に美術図書館があり、カトゥーン・リサーチ・ライブラリーという施設もあります。私のオフィスと日本に関する所蔵品も、総合図書館にあります。でも、マンガ本は、日本語の本のところではなく、他の漫画(cartoon)と一緒に置いてあります。
 美術館は、「ウェックスナー・センター」といいます。ポストモダンな建物だということですが、一体何のことやら。まあ要するに、うまく機能しないということです。奇妙なところが、たくさんあります。階段を降りると、カトゥーン・リサーチ・ライブラリーがあります。小さな閲覧室があり、展示物があります。その奥に書架がありますが、立ち読みはできません。それも私が気になっている点です。1万2千冊のマンガを集めましたが、利用者が思いつくまま手にとって読むことはできないのです。コンピューターを使って検索しなければなりません。蔵書にどんなマンガがあるのか、利用者が探すのを助けることが、私の大きな課題のひとつです。ですから、私は、図書目録やウェブサイトを作っています。作者やタイトル、シリーズなどで検索できます。また、いろいろなジャンルに分けています。先ほど少し話しましたが、私は、ジャンル分けすることで問題にぶつかりました。
 図書館について一般的に考えると、昔は、推薦図書だけを集めた場所でした。つまり、仕事や人生で成功するのに役立つ本です。マンガを図書館に集めることには、賛否両論あります。マンガを収集する図書館はあまり多くありません。日本には、いくつかあります。私は、広島市まんが図書館を訪れたことがありますが、約8万冊のすばらしい蔵書があります。一般公開されていますので、いつもマンガを読む人でにぎわっています。マンガしか置いてありません。広島市の丘の上にある、美しい公園内に建っています。早稲田大学の近くにも現代マンガ図書館の内記コレクションがあります。個人所有のマンガ蔵書としては、最大級のものです。一冊ごとに料金を払わなければなりませんが、すばらしいことに変わりありませんし、少し古いマンガも集めてあります。
 他にも数ヶ所あります。京都精華大学には約4万冊のマンガ蔵書がありますし、早稲田にも、漫画家のオリジナルアートの収集を始めたばかりの漫画文庫があります。
 マンガのある図書館というのも、ある意味、ポストモダンな図書館かもしれません。先ほどは、建物についてポストモダンと言ったのですが、今話しているのは、図書館にマンガを置くというコンセプトです。図書館というものは、近代的な施設です。テーマ別の書架や図書整理番号などにより、きちんと整理分類されています。そのようなシステムの中にマンガを入れることは、少し難しいことです。
 そう考えていて、思いつきました。ご存じかどうか分かりませんが、石ノ森章太郎の本に、彼がマンガを描き始めた経緯を書いたものがあります。たまたま万華鏡を見つけた、とあります。万華鏡をのぞくと、現実の世界がばらばらになり、普段は目にしないような奇妙な形に分かれます。ある意味では、マンガを図書館に置くと、そもそも図書館とは何か、図書館の目的とは何か、コレクションとは何か、改めて考えさせられるものだと思います。私は、そのような再考の最中です。日本研究図書館とは何か、なぜ私はマンガを集めているのか、その目的は何か。いくらでも話を続けられますが、それについては、今日はこのくらいにしましょう。もっと話したい人がいれば、後で続けましょう。
 
マンガの探し方
 
 それでは、マンガの探し方について話します。まず、マンガはどこにでもあります。日本では毎年、出版物の40%はマンガです。それに対し、探している特定のマンガを入手するのは、難しいものです。いつも絶版や品切れになっています。また、マンガはすぐに捨てられてしまうため、もともと数百万部刷られていても、今入手するのは、とても困難です。収集家のコレクションになっています。そうなると、そのような傑作マンガの復刻版発売は、収集家が決めることになります。現存するコピーは、それだけしかないからです。『大阪パック』の例がありますが、出版されたのは1930年代、40年代、50年代で、大阪では現在も続いています。私は、マンガ研究家・収集家の一人、清水勲の講演を聞いたことがありますが、『大阪パック』の全冊そろった蔵書はないそうです。多くの人の部分的なコレクションを合わせても、全部そろうかどうか、はっきりしません。
 それから、異版本が存在する場合もあります。鉄腕アトムの誕生日だった2003年4月7日、日本では盛大なお祝いがあり、商業的な催しがたくさんあったと思いますが、オハイオ州立大学では、3月から5月まで学会や専門家の討論会、特別講義などが行われました。古い映画などを上映するイベントも、12回くらいありました。『鉄腕アトム』の展覧会も、その一つでした。私は、アトムの誕生日のストーリーに、四つのバージョンがあることを示しました。絵はまったく違うもので、ストーリーも少しずつ違っています。その理由は、マンガは、ある意味では「使い捨て」だからです。つまり、それらのバージョンは、すべて手塚治虫が描いたものですが、描いた時には、他のバージョンを読む人がいるとは思わなかったのです。10年前の作品だが、もう一度やってみようと思い、別のバージョンを描きました。10年前に読んだ子どもは新バージョンを知らないだろうし、誰も比較したりしないだろう、と思ったのです。これが、さらなる研究のために、十分な蔵書が必要な一つの理由です。
 日本の国会図書館は、全出版物を出版社から直接受け取っていますが、すべてのマンガがそろっているわけではなく、分類もしていません。作者とタイトルは記録しますが、他の本のような完全な図書目録は作っていません。
 私が知っている限り、日本にあと三カ所マンガの蔵書があります。川崎市市民ミュージアムには、すばらしい蔵書があります。大阪府立国際児童文学館にも、すごいコレクションがあります。そして、東京都立図書館です。







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