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アニメのターゲット
 
 『ブラック・ジャック』も『コナン』も、ティーン(13〜19歳)と、チャイルド(4〜12歳)が、大きなターゲットです。我々としては、ストーリーのおもしろさを判断できて、ストーリーに乗れる人ということで、小学校4年生ぐらいから中学生までをメインターゲットにして、作品づくりをしています。
 番組ごとのターゲット別視聴率を見ると、一番高いのは、男女4〜12歳の『コナン』で、27.2%。『ブラック・ジャック』は18.0%。男女13〜19歳になると、『ブラック・ジャック』は10.9%、『コナン』は14.7%です。女35〜49歳は『ブラック・ジャック』が10.4%、『コナン』が12.5%ですが、この年齢層で2桁を取るアニメはこの枠だけです。ただし、『サザエさん』は別格です。
 ちなみにアニメの視聴率は、『サザエさん』が一番で、だいぶ差をあけられて2番が『コナン』、少し下につけている第3グループは、『ドラえもん』『あたしンち』『ちびまる子』『ワンピース』『こち亀(こちら葛飾区亀有公園前派出所)』などです。いずれにしても、4〜12歳、13〜19歳の層が視聴率の中心になっているのです。
 ところで、視聴率を調べる機械が設置されている今日現在の598世帯には、4歳以上の人が1,696人います。男女4〜12歳は164人、男女13〜19歳は137人、男20〜34歳(M1)は192人、男35〜49歳(M2)は177人、男50歳以上(M3)は327人、女20〜34歳(F1)は176人、女35〜49歳(F2)は177人、女50歳以上(F3)は346人です。視聴率の調査会社は、国勢調査に基づいて人口比に合うように調査機を置く家庭を選びます。昔より子どもが減っているので、子どもがいない世帯を調査して機械を置いてもらうのです。こうして見ると、いまはM3、F3をつかむ番組のほうが視聴率を取りやすいことがわかります。女50歳以上は男女13〜19歳の3倍近くも多いからです。
 視聴率と視聴質と言いますが、実際にはまだ視聴率が重要な世界です。だから月曜日の夜7時という少しあさい時間帯に『フレンドパーク』があったり、『忠臣蔵』が始まるのも、そこにそれを望むお客さんがたくさんいるからです。新番組が始まる場合、とくにゴールデンタイム、プライムタイムでは、こういう理由もなく始まることはありえません。マーケティングや情報リサーチをした結果、決まります。
 あと20年経ったら日本は、60歳以上が3分の1という、むちゃくちゃな老人大国になると言われています。それなら我々はM3、F3の視聴率を取るようにすればいいのかというと、それはちょっと違う。こういうときだからこそ、ティーンエイジャーやチャイルドに、「テレビっておもしろいね」と思ってもらいたい。
 『タッチ』というアニメが放送されたのは1980年ぐらいですが、あのころはアニメがピークを迎えていて、アニメのきちんとした企画なら20%という数字が取れました。大人も子どももひっくるめて5人に1人が見ている勘定です。いまは『サザエさん』でさえ、20%は取れにくくなりました。
 皆さんは、番組で曜日を感じたことはありませんか。きょうは何をやるから何曜日だと、曜日の前にまず番組が先に出てくる。テレビに関わる人間としては、それは一つの正しい姿ではないかと思います。『サザエさん』のすごさは、あの音楽なり声を聞くと、いまはもう日曜日の夕方6時半、明日は月曜日だ、という空気になることですね。
 月曜日の夜7時は、週の初めに『ブラック・ジャック』や『コナン』を見て、今週もあと4日間頑張ろうというエネルギーを皆さんに持ってもらいたいと、まじめに思っています。毎回、内容は違いますけれど、番組のフォーマット――CMをどこに置くか、どんな形で番組を終えるか、どんな形で次週につなげるか――を十分に考えて放送していますので、ぜひ月曜日は画面からエネルギーを感じていただければいいと思います。
 
質疑応答
 
 学生――単純に言ってしまえば、『コナン』は毎回、人が死んで、犯人を推理するだけですが、どうしてこんなに長い年月高い視聴率を維持できているのですか。
 
 諏訪――私自身そうですが、ミステリーを好きな人は多いですね。でも、アニメでミステリーをきちんとやることはあまりなかったです。ミステリーやサスペンスの番組がたくさんあるから、わざわざアニメでやろうと思わなかったのかもしれません。『コナン』を始めるときに私たちは、一膳一椀一皿ていねいな仕事をしてある「定番推理定食」にしようと考えました。『コナン』が人気を維持しているとするなら、トリック一つにも手を抜いていないからでしょう。ミステリーで「そりゃないよ」というようなトリックを使ったのでは興ざめですから、子供だましではなく、大人のミステリーファンも楽しめるようにしています。原作者の青山剛昌さんは無類のミステリー好きで、マンガにもリアリティがあります。もちろん、コナンくんが17歳から7歳に小さくなるのだけは嘘ですよ。はじめにそういう大嘘をついているわけですが、それがあるからこそ『コナン』の世界観が確立されているのです。コナンくんは子どもですから、本当は事件現場に来られるはずがありませんが、偶然、警察が来るより先に現場にいるので、首に紐の跡があるといったことをちゃんと見せることができる。ただし、残酷なシーンは見せない工夫はしています。血が赤くないとか、ナイフは振り上げるところまでとか。ちなみに『コナン』は2005年1月に放送10年目に突入します。
 
 学生――エンディングテーマにはどういう狙いがあるのでしょうか。そのイメージも諏訪さんが決めるのですか。
 
 諏訪――先に歌があって、それに合わせて演出家が絵をつくります。歌を決めるに当たっては、スポンサーのレコード会社の曲を使いますが、私としてはその会社の曲から自由に選べるということで、互いに一歩ずつ歩み寄っています。レコード会社が新人を使って欲しいと言ってきても、それを受けることはしません。あくまでも複数の曲を聴いた上で決めます。こちらから、このアーティストはどうでしょうかと言うこともあります。ただし、歌詞については、例えば『コナン』なら、できるだけミステリーをイメージしたものにしてもらいます。コナン、コナンと連呼する歌をつくってほしいわけではなく、ほんのちょっとミステリーなり謎めいた要素を入れて、クリエイティブなエネルギーをぶつけてほしいと思っています。今のエンディングは三枝夕夏さんが歌っていますが、この曲は蘭ねえちゃんの気持ちですね。ですから、絵も、蘭が学校へ行って、帰ってきて、宿題をするといった様子が描かれています。ただ、演出家は一切コナンを出さないと言ったのですが、それはないだろうというので、最後にコナンが振り向くようにしました。
 
 森川――諏訪さん提供の、ブラック・ジャックとコナンの絵柄の下敷きを、質問した2人に差し上げます。
 
 諏訪――実は、こういう下敷きは、ほかでつくるのはほぼ不可能です。会社が違いますから。しかし、月曜7時からのアニメを応援するために、手塚プロと小学館がカップリングの了解をしてくれました。『金田一少年』と『コナン』のときも、講談社と小学館のカップリングでした。これも私の仕事の一つですし、この時間帯のアニメが定着していることを周りが認めてくれている証だと感じていただければ幸いです。
 
 学生――『犬夜叉』は原作に追いついたので終了したそうですが、『コナン』はどうしてこれほど長く続けていられるのですか。
 
 諏訪――オリジナルのストーリーを作りやすいか作りにくいかが、はっきりしているんですね。『犬夜叉』は大河ドラマです。四魂の玉を集めて奈落を倒すという大きな目的があり、それが4年間続いています。しかし、毎週続くとやはりボルテージが下がってきます。私たちは、オリジナルで、弥勒の話、珊瑚の話、かごめの話、現代の文化祭もやりました。ただ、オリジナルをつくると間延ばししているようにとられる。早く目的の奈落に行けよ、と見ているほうは言いたくなる。でも原作は快調に進行しているわけですが、どうしても一週間の展開の早いTVアニメのほうが追いついてしまうのです。原作の結論が出ていない分、私たちもシナリオの打ち合わせをしていて非常につらいところがありました。やはり何かしら煮詰まった感じがしてきたので、ずるずる引き延ばすよりもいったん休止しようと考えたわけです。
 『コナン』が続いているのは、オリジナルのストーリーがつくりやすいからです。黒の組織がからむ話は青山剛昌先生の世界ですが、小五郎と蘭とコナンが福引に当たってどこかに旅行へ行って、そこで事件が起きるというような話はオリジナルです。原作がある話とテレビオリジナルは、だいたい半々です。子どもたちはよくわかっていますから、オリジナルの話の前編を見た次の日は、学校で誰が犯人か話題になります。誰も答えを知らないし、次の週には必ず真犯人がわかりますからね。
 
 学生――コマーシャルの内容にも諏訪さんが関与するのですか。
 
 諏訪――しません。ただし、例えば『どっちの料理ショー』のCMで、いきなりトイレの水が流れるようなのはやめましょうとか、そういうことは制作者としてあります。『コナン』は、日本ガス協会がスポンサーなので、絶対にガス自殺したり、ガス爆発は起きません。そういうところは逆に、こちらが縛られますね。一時トヨタがスポンサーに入ったときも、車の事故は避けようとか、外車がぶつかったことにしようとか。私たちがCMを選ぶことはしませんが、スポンサーもそんなに無茶なCMをぶつけてきません。営業スタッフもいますし、放送としてチェックする機能もありますから、大丈夫です。
 
 学生――スポンサーは、平均視聴率を見るのでしょうか、CMのときの視聴率を見るのでしょうか。
 
 諏訪――スポンサーから、うちのCMは視聴率が低いんじゃないか、というクレームが営業に来ているかもしれませんが、よほど低いのでない限り制作にまで来ることはあまりありません。スポンサーは1クール(3ヶ月)で決まっていますが、CMはいつも同じ順番で流れるわけではないんです。必ず順番が変わっています。一番最初に出る「ご覧のスポンサーは」というのも、会社の順序が変わっています。そのへんはスポンサーに配慮をしています。
 
 学生――『ブラック・ジャック』でもテレビオリジナルをやる予定がありますか。
 
 諏訪――やりたいのですが、まだ無理です。原作は240話余りありますが、実際にやれるのは半分以下です。この成績のままでいくと2年目に入るでしょうが、丸2年やれば一つの使命を果たせるかなと思っていますので、80本から90本ぐらいを選んでいるところです。オリジナルにもチャレンジしたいのですが、手塚治虫さんは本来医学博士で天才でしたから、病気なり医療関係のネタをやりながらの命のドラマみたいなところにもっていくのは、脚本家に相当な技量がいるでしょう。
 
 学生――オープニングやエンディングの曲は、どういうタイミングで変わっているのですか。
 
 諏訪――私は、オープニング8ヶ月、エンディング6ヶ月と言っています。目安がないとレコード会社も次の曲を持って来にくいですから。アニメのテーマソングも、時代を追って時代にそぐうべきだという思いがあります。洋服を着替えていく感じです。そこで、8ヶ月と6ヶ月を一応めどにしながら、次の曲の出来、タイミング、映画とのリンク、といったことを考えて決めるので、7ヶ月だったり10ヶ月だったりすることもあります。映像をつくるのは正味2ヶ月ぐらいかかります。エンディングは止めがちな絵作りなので少し早めにできますが、オープニングは丁寧に作っていくので、3ヶ月はかかります。
 
 森川――アニメを1本つくるのに、いくらかかりますか。
 
 諏訪――物にもよりますが、約1,000万円。1時間のバラエティは、3,000万ぐらい。ドラマは4,000万から5,000万。深夜のものやNHKのアニメは1,300万から1,400万でつくっています。私が入ったころは600万と言っていましたから、18年間で1,000万になったというのは、物価上昇率と比べたら上がっていないほうでしょうか。
 制作費は、制作会社に一括で渡します。アニメの場合はほとんどが人件費です。基本的に30分のアニメで300人が関わります。レギュラー番組なら年間40本余りつくるので、1本1,000万なら4億になりますから、これは大きなビジネスとして成立しますね。
 
 森川――スポンサー収入はどのくらいになりますか。
 
 諏訪――これもものによって違います。半年に1回ぐらい見直しがあって、視聴率が上がると広告料も上がったりします。あるスポンサーから1ヶ月1,000万もらっても、同じ枠をやっている別のスポンサーからは800万だったり1,500万だったりする。これは代理店や営業の話し合いで変わります。
 『コナン』は全国29局に出していますが、テレビ局のシステムとして、ネットワークで放送するときには、お金を払って放送してもらう形になります。提供CMを流してもらうので、その利用料を出すのです。金額は、その地域の人口などによって決まるもので、視聴率の良し悪しは関係ありません。
 
 学生――1クールのみの放送をやったことがありますか。
 
 諏訪――NHKの『火の鳥』は最初から1クールと決まっていたのですが、普通は1クールで終わることを想定して始めることはめったにありません。1クールで終わったら、それこそ打ち切られたということですね。私自身は、2クールで終わってしまったものはあります。
 アニメは、つくるのに半年かかるんです。スタートして半年で終わることが決まっていれば、次の作品に入れますが、そうでないと次のものが用意できません。ですから、2004年の1月には、秋になったら『犬夜叉』を終了して『ブラック・ジャック』をやると決めていました。それから8ヶ月間かかって『ブラック・ジャック』をつくってきたのです。『ブラック・ジャック』を1年以上続けるかどうかは、2005年の1月ごろに決めることになります。







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