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物語作りを再認識した「地域文化シンポジウム」
 
金城大学短期大学部講師
新井 浩
 
 短大でマンガを描いている学生を見ている。個々の画力に差があるとはいえ、毎年必ず絵の上手い学生がいる。自分が彼女らと同じ時期の事を考えると少し悔しくなるぐらいだ。しかし、マンガを描かせると画力に比例した面白さがあるかといえば、もちろんそう上手くはいかない。
 「おもしろいなぁー。」と思える作品は、意外とイラストの授業で出来の悪い学生だったりする事もしばしばである。皮肉な事に、「いいマンガは絵が奇麗なマンガ」と、ひたすら絵を練習した学生が、肝心の物語でつまる、という事が多い。私がマンガ好きになったのも絵を描く事が好きだったからで、上手くなりたくて一所懸命マネをした。中学生の時に描いたマンガは、やはり話が進まず描きかけでほったらかした。
 実は私も物語を考えるのは得意な方ではない。この夏、本という形にしたくて絵本の持ち込みをしたが、指摘されるのは物語の構成についてだった。
 
 絵を描く事についてアドバイスをする事は、それほど困難ではないと思う。教科書になる本がたくさんあり、セオリーが確立している。セオリーを踏襲するにしても逸脱するにしても、一度通過すべき事が明確なので、こちらとしても迷いなくアドバイスし易い。だが物語を作る上でのセオリーは、絵を描く事のそれに比べるとまだ確立していないのではないだろうか。学校の授業で、物語の構成についての講義やアドバイスをする事は試行錯誤の連続であり、また、効果的なのかも自信がない。自分なりの作り方はあるのだが、基本的なセオリーが固まっていないのだ。
 
 そのようなときにアニメーションのワークショップに参加しないか、とお誘い頂いた。サブタイトルは「マンガ・アニメが育てる物語力」。自分にできる事は自信がないけれども、なにか参考になる事に出会えるかもしれない。期待と同時に「大人の私がこれだけ困っているのだから、子供にお話なんてつくれるのか?」という気持ちにもなった。小学生が対象だという。その年代の子供たちと何かを一緒に作るという事もほとんどやった事がない。上手く出来るのか不安も大きかった。
 
 今回のワークショップを中心となって進めて下さった、東京工芸大学の峰岸先生が作られたプログラムの妙もあったが、予想に反して子供達はポンポンとアイディアを出す。アイディアを出す能力は、誰にでも備わっているのか。ただし言葉が少し足りない。断片的である。
 一見、精神世界を探求したスーパーシュールな怪作でも、本人に話を聞いてみるときちんと話になっている。繋がりを飛ばしているだけなのだ。
 
 この時のワークショップには、私が勤めている短大の学生数名に声を掛け、アシスタントとして参加して貰った。皆てんてこ舞いになりながらも、よく頑張ってくれた。中でも子供達が飽きることなく制作に取り組んでいるテーブルがあった。そのテーブルを担当した学生は、子供達が話しやすいようにしゃがみ込み、「ここはどうする?」「それじゃ、こうしようか」と対話をしながら、少し足りない言葉と言葉の間を埋めていた。私も早速真似をした。
 時間も半分程過ぎたあたりから、お父さん、お母さんも口出しするようになり、制作は上手く動き出した。お母さん自身が楽しそうに作っている親子は子供も夢中でやるし、「早くやんなさいっ!」というような親子は、制作もやらされてる感のただよう散漫なものだったように思う。
 
 今回は会場になった部屋の広さや、参加者が予想を超えて多かった関係で、一緒に来て頂いた親御さんは後ろの席で見る事になっていたが、小学生を対象とした、物語を作るワークショップでは、親子で対話を進めながら進めていくほうがベターなのだろう。
 物語は、絵の様に感覚で感じ取るというのでなく、理解をさせないと成立しない。そういった意味でも、対話をする事でより一般性が高まる。一人だけが理解できる事と、二人が理解できる事の間には大きな差があるのではないだろうか。
 
 更にうちの学生の様に「多くの人を面白がらせる話を考えたい。」となると、もっと高度な対話が必要となってくる。
 
 私も現在、物語を作る基礎・セオリーを改めて勉強中である。少しずつではあるが、学生達との対話もいいものになってきたのでは、と思っている。
 ご一緒させて頂いた峰岸先生、森川先生の御活動を伺え、様々なジャンルの方とお会いできたことも大変意義深かった。
 
 そういえば、物語を作るのが上手い学生は、おしゃべりだった。私もどちらかといえば、話す事は好きだから、物語を作る素質はあるハズ、なのだが。
 
〜徳山 金沢での地域文化シンポジウムを終えて
東京工芸大学非常勤講師 峰岸恵一
 
 今回、周南市と金沢市で行われた地域文化シンポジウムでアニメ教室を開催しました。
 周南市では7月22日、23日の2日間、13時から16時まで3時間行い、それぞれ40組を超える小学生親子にご参加いただきました。また、作品の一部は8月24日の地域文化シンポジウムで発表しました。
 金沢市ではシンポジウム当日の10月18日10時から12時30分まで50組の小学生親子を対象にアニメ教室を行い、午後のシンポジウムで一部の作品を観客の皆様にお見せしました。
 アニメ教室の実施担当者として、技術的に気づいた点を中心に述べていきたいと思います。
 
[時間について]
 アニメ教室は教えることよりも、まず体験させる事が先となります。実質的に「教室」というより「ワークショップ]の性格が強くなっています。
 徳山の教室では、マンガの解説にもある程度時間があり、アニメについてのサンプル作品もバリエーション豊かに見せることができました。徳山に比べ、金沢の教室では、全体の時間が30分ほど短縮されたためマンガ・アニメについての解説が短くなり、一方、物語力というレベルが高いテーマに対し予想よりも低年齢層の子供が参加したことにより、できあがってくる子供たちの作品に初めての体験へのとまどいや未熟さが残り、作品レベルは高いとは言い難いものでした。
 子供がモチベーションを持続できる時間を考えると、時間は長ければ良いというわけでもないようです。(子供によって差異があります。アニメに強い興味を抱いている子以外は、1時間ほどで飽きはじめる。)限られた時間のなかで効果的な教室を開くためにはこれまでの体験を基にして「マンガとアニメ教室のオリジナルテキスト」を用意する必要があると考えられます。
 テキストの内容としては
・基本的なアニメとマンガについての知識・情報を掲載
・マンガ、アニメの世界のひろがりをサンプル写真で見せる
・子供たちの作品の実例を示す。(原画を枚数分提示)
・これまでの子供たちの作品も掲載する。
 こうした内容は画像をふんだんに用意することで子供は瞬間に情報を把握していくことができます。結果として、子供たちに「自分ならもっとおもしろく作れるかもしれない」、と思わせることが、高いモチベーションとその維持継続につながります。
 
[親子で行うことの意味]
 そろばん、習字であれば、親は気軽に塾通いを許します。
 しかしマンガ・アニメ教室に月謝を払って子どもを送り出す親は少ないでしょう。アニメやマンガを習うことの教育的な意味を理解できても、産業におけるマンガ・アニメの価値を実感できる大人は少ないのです。教室を親子で行うことの意味は、実は対子どもより、親に対しての教育的意味合いのほうがはるかに強いのではないでしょうか。さらに具体的な数字でマンガ・アニメ産業の規模や将来的な価値をプレゼンしてもよいのではないでしょうか?
 
[手法について]
・小麦粘土アニメ
 絵を描くのが苦手な子供たちへのアプローチは、親子アニメ教室の重要な要素となっています。
 徳山では、多くの子供たちが小麦粘土を用いて数多くの楽しい作品を創ってくれました。事前に小麦粘土を用意しなかったにもかかわらず金沢でも同様に粘土アニメを造りたがる子供がいて、徳山での余りの粘土が急遽担ぎ出されました。
 小麦粘土を利用するメリットは自分が納得するまで造りなおすことができる点です。しかし、素材に出費が多くなるのと撮影に時間がかかるのが難点です。
 
・手軽にセルアニメ
 金沢ではクリアファイルと不透明水彩ペンを利用してテレビアニメのような効果を作ろうという手法を試みました。これも実際のサンプルを用意できれば、子供の意欲を高められそうです。とくに物語力をテーマにした場合、あらかじめ複数の背景を用意することで限られた時間内での制作がスムーズになります。
・切り抜きアニメ
 より手軽に子供の物語力を発揮させる手法としてあらかじめ登場するキャラクターを切り紙の人形として用意することが考えられます。
 セルアニメと逆に、必要なオリジナルの背景を子供に制作させることも可能です。背景1枚描くだけで、あとは用意されたキャラクターでアニメを作る、という手順です。
 絵をうまく描くことが必要なのではなく、自由奔放な発想力、想像力・・・つまり物語力を育てるための素材と考えるなら上記のような準備を充実させることで子供の自由な発想力をリアルタイムに具現化させることが可能となるでしょう。
 
[キャラクターの創造]
 ドラえもん、クレヨンしんちゃん、あんぱんマン、アトム、ナーダ・・・日本のアニメが好まれる理由のひとつは、キャラクターづくりのうまさです。
 マンガ、アニメが愛されるのは、そこに強烈な個性のあるキャラクターが生き生きと存在しているからです。このキャラクターづくりにスポットをあてた教室も面白いと思います。
 例えばタツノコプロの吉田すずかさん(創設者吉田竜夫氏の長女でハクション大魔王アクビ姫の原案作成者)などをお呼びして「かわいいキャラクターの作り方」をご教授いただいたり、粘土アニメの作家、森まさあき先生のような方をお呼びして、子供のための「粘土によるキャラクターづくり教室」のようなものも考えられます。
 また、ニクロム線や針金を利用したキャラクターの骨組みづくりを盛り込むか、あらかじめ骨組みを作っておき、子供にはオリジナルキャラクターを作らせて、その場でアニメにする、というような手順も考えられるかと思います。
 
[物語力について]
 金沢の教室で利用した創作昔話の設定は、もっとシンプルにしてもよかったようです。予想よりも広い年齢層が参加したためもありますが、基本的によりシンプルな出題設定をこころがけ、子供の素直な発想力、直感的な物語力をうまく引き出せるようにすべきだと考えました。
 グループ制作ということにしたためにグループごとの話し合いに時間がとられ、まとまらないグループもあったようです。時間が短いことを考えると、グループ制作のシチュエーションは効果的ではないかもしれません。
 
[その他考えられるテーマについて]
・だじゃれでアニメ
 日本特有のだじゃれ文化をアニメにすることも考えられます。
 「ワニが輪になる(ワニ)」「ペンギン(ペンキ)塗りたて」「パンだ!(パンダ)」。これらは船橋市が経営しているアンデルセン公園のこども美術館で企画された「だじゃれどうぶつえん展」からの抜粋です。
 絵本作家の中川ひろたか氏と高畠純さんの作品からその場の即興アイデアによる一発芸的な短いアニメシーンの制作で構成された同展示は、そのまま子供たちのアニメづくりに応用できる、楽しめる要素を多く含んでいるように思われます。
 だじゃれは、限られた短い時間のアニメ教室でうまく応用可能なように思われます。日本語特有なため、海外には理解できないかもしれませんが、英語なら英語、中国語なら中国語のダジャレというのもあるはずですので、作品を楽しむと同時に、それぞれの国の言葉を理解する一助にできるかもしれません。
・変身アニメ
 「へーんしん!」は、アニメの重要な要素です。「メタモルフォーゼ」は、実は荒唐無稽な設定ではなく、生物が地球の生態系の変化に伴って環境に適した形に進化してきた過程そのものといえます。変身をアニメにする、というテーマも面白い題材だと思います。
・アクションアニメ
 キャラクターを生き生きと動かすことの面白さは、アニメ独特の快感です。ジャンプしたり、落下したり、押したり、引いたり、振り向いたり。初級編から一歩進んだ応用編としてキャラクターを思いのままに動かすことにポイントをおくことも考えられます。奥行き、遠近感、カメラの位置、引力、重力、遠心力。子供たちに知って欲しいことがたくさんあります。
 こどもの作品には、現実における子供の興味・対象が素直に反映されています。作品作りの過程で、それぞれの子どもにマッチした対応(サジェストと与えること)をすると、子どもはさらに興味を増し、作品もステップアップされます。逆に、適当な対応をしなかった子供はモチベーションを失い、飽きてしまいます。
 興味を高めるサジェストとして、自然現象への観察眼やカメラ的な視点の自覚を促していきます。子供の個性を発見し伸ばす教育の一方法としてマンガやアニメに着目していただき、上手に利用していただけるようにします。
 
[まとめ]
 〈試し(作品づくり)、発見し(サジェストを受け)、確かめ(作品完成)、伝える(人に見せる)〉、、、作品作りを通して、プレゼンテーション能力を高めていくサイクルを実感できました。またこうした試みを同じ子どもに何度も繰り返し行うことが可能であれば、更なる効果が期待できるはずです。
 付き添いいただく両親に対しては、マンガ・アニメ教室は日本のコンテンツ産業の現実や規模を認識してもらう絶好の機会と捉えることができます。
 マンガ・アニメ教室の試みは始まったばかりですが、これまで2つの地域で参加していただいた親子の反響を見ても、カリキュラムは、通常の学校教育では見つけにくい、子どもの才能・個性を発見、発掘するのに適した、現代的な教育プログラムであると考えることができると思いました。







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