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ビルダーばかりが集まる事業は赤字になる
 つまり、利用を見ないで、つくることを見る。ビルダーばかりで、ユーザーは集まらない。そのような公共事業がたくさん増えたわけです。
 そこで看破法の三、関係者で見る。
 その一例は関西国際空港です。いきさつは省略しますが、関西空港をつくるという話が進んでいる会議に集まっているのは、いつも政治家とゼネコンと暴力団関係者と御用学者と御用マスコミばかりで、日本航空と全日空の人は出席しない。
 つまりユーザーは出席していないのです。だからこの空港は、途方もないムダ遣いになる。その結果、たとえば着陸料が世界で一番高い。ジャンボが一回着陸すると一〇〇万円、そのまま一晩とめておくと駐機料もまた五〇万円ぐらい。そんな空港はつくってくれないほうがよい。というのは、そのぶんを料金に乗せたら外国の人が気持ちよく払ってくれるはずがない。「それならもうソウルへ行く」となる。便数が減ればまたまた値上げされる。悪循環を起こすわけですから、その関わりあいになりたくないというわけで、ユーザーは一人も出席していない。政治家とビルダーばかりで盛り上がっている。
 一度、関西財界に呼ばれて講演したことがあるのです。ホテルにたくさんの人が集まって決起大会。なんで私を呼んだのか、調査不十分だったらしい(笑)。そのときの私の肩書きは、航空審議会空港部会関西新空港委員というものでした。この人はさぞや詳しいだろうと思ったのでしょう。たしかに詳しいのですが、詳しいから反対なのです(笑)。それで正直にこう話しました。「周りを見なさい、みんなビルダーばっかりである。ユーザー代表は一人もいない。空港は便利だからあったほうがいいとみんな言うが、だからといってこんな値段がばか高いものをつくるものではない。大蔵省から調査費がついたら一歩前進、次は本格予算だとか言っているが、関西の人がそんなことでいいのですか? 大阪魂はどこへ行ったのか。大阪魂は“けちけち魂”で、もっと安く上げようというのが大阪財界の気骨だったはずです」。
 さらに思い出を言えば、空港をつくるのに一番いいのは兵庫県の山奥だと思っています。松下幸之助さんが「それが一番いい」と言ったときは、三五〇億円と言ったのです。それは三倍に増えたって一〇〇〇億円です。ところが、一般世論は海へ出てくれ。陸上は騒音でみんな苦しむ、と全員反対で固まっていた。
 そのころ全日空社長の若狭得治さんと碁を打ちながら話をすると、「飛行機というのは進歩する。どんどん静かになる。だから陸でもいいんだよ」と言っていました。飛行機を進歩させるのは意外と簡単なんです。成田空港はDC8という飛行機に合わせて設計してあるが、DC8ぐらいやかましい飛行機はないのです。しかしその後、ジェット機はファンジェットという方式に変わってずいぶん静かになった。それからもう一つ、着陸するとき落下速度を速くする方式に変更した。それをやるとガソリンを食うのですが、音は周囲に広がらない。
 そのほか、いろいろな手段で騒音問題は解決できるので、なにも海上の埋立てに限ることはないという議論はそのときからあった。ところが、奈良県と和歌山県の山をたくさん買い占めていた人がいる。この土を捨てる場所が欲しい。こんなに儲かる話はないですね。まず土は空港公団に売りつけて、跡地が平らになるから住宅団地でもゴルフ場でもつくればいい。
 航空母艦方式というのも不採用でした。半値以下でつくれますが、それがよくないのでした。それから利益が造船業界だけにとられるので応援が少なかった。とか何とか海上空港をめぐってはにぎやかだったのですが、しかし完成してみれば経済原理が働きます。駐機料が一晩五〇万円もとられるのなら、その間にグアム島へ往復したほうがいい。というわけで、そのころからグアム島へ、夜中にトンボ返り旅行というのが増えた。行った人いますか? 二泊三日何万円というツアーに行くと、空港を出発するのは夜中でグアム島へ着いたら眠くてしようがない。帰りもまたグアム島の空港へ集まるのが真夜中の一二時ごろで、日本へは朝早く着く。あれは休憩所がない飛行機のための都合で、お客のためではないのです。
 そんな裏話がありますが、ビルダーばかりでつくるとムダが多いというのが教訓です。
 
 それから、看破法その四、理論づけのインチキを見る。
 一番多い理由づけは先行投資論です。「大きめにつくっておけ、お客は後から増える」というわけです。それで多少は成功したのもあります。しかし全然ダメというのも多い。
 森喜朗前首相とゴルフをしていたら、「地方経済は疲弊のどん底で、ここは何としても公共事業をしてやらなきゃいけない」と言う。「ねえ、そうでしょう」と言うところが、人がいいですね(笑)。色よい返事をしないと、「やはりだめですか」と言うから、なんだわかっているじゃないかと思いました。賢いし人柄はいいし、常識もある人です。でも、当選するためには何かやらなければいけない。
 というわけで、何をしたかというと、金沢の駅だけ立派にした。北陸新幹線はまだ通っていませんが、駅だけは新幹線が何本入っても大丈夫というのになっている。そして駅ビルの中は六本木とか丸の内と同じで、レストラン街とデパートになっている。森さんのために一言付け足しておけば、別に列車は増えていないが、それはそれで繁盛しているのです。
 波及効果というのは不思議なもので、最近住宅公団が方針を変えて、郊外団地でなく市街地再開発を始め、住宅を金沢の駅前につくった。すると、たちまち人が入る。それなら金沢駅のデパートも繁盛する。レストランも繁盛する。両方相乗効果になっています。
 けれども面白いことに、これは当初意図したことではない。
 その駅前の公団住宅に誰が入っているのかです。駅のそばだから働くサラリーマンや若い人が入っているかといえば、全然違うのです。お年寄りです。お年寄りは足が弱って歩けない。だからここがよい、という。
 その人たちは今から二〜三十年前、住宅公団、県営住宅公社、民間ディベロッパーが競って賃貸や建売住宅をつくった時の購入者です。当時、農地は手がつけられませんから、山の斜面にはい上がって家を建てた。そのときの交通は最初はバスですが、やがてマイカー。それが年をとると、自動車は危ない。そこで息子に譲って、自分はまた駅前へ戻ってきた。
 通勤至便だから活力のある若い人が、というのはウソで、そうはなっていない。見込みはすっかりはずれた。けれどもまあまあ繁盛しているというのは面白いところです。
 全然反対の結果というのはよくあることで、長期予測はなかなか当たらないものです。
 年金や介護保険も同じことです。三〇年先には支払うと、あれこれ理屈をつけて国民からお金を集めるのは、ほんとうにインチキだと思います。
 長期予測失敗によるムダ遣いの再発を防止しなければいけない。責任追及は水に流してあげてもいいが、しかし再発防止のために必要最小限はしたほうがいい、というあたりが言いたいことです。
 
 そこで最後に一言。
 ここで考えてほしいのですが、日本のGNP三八年を合計すると、一京一〇〇〇兆円。こんなに巨額なのです。しかもこの活動水準は、まだ減っていない。横ばいなのです。これだけの巨大な経済力がまだ横ばいというのは凄いことです。
 つまりムダさえやめれば、たちまち回復します、ということです。アメリカ経済を追い越して、また世界一になってしまうでしょう。中国経済がボリュームで日本の二割五分から三割になってきたと騒いでいますが、中国経済がそこから一〇割になるには、途中に越える山がたくさんある。日本は、すでにその山を越えてきたのです。
 ですから、皆さん日本経済について、あれこれ心配するのはおやめなさい。今までどおり働いていれば、日本は使い切れないほど富がわいてくる。それをムダ遣いする政治家と、お役人が半分ぐらいに減ってくれればいい。それを小泉改革で進めようとしていますから、国民はそれは応援したほうがいい。
 ということもまた、この数字からわかる発見の一つです。







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