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私はこう考える【中国について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2005年4月号 東亜
胡錦濤は三権全てを完全掌握
慶應義塾大学教授
小島朋之
 
 三月四日から十二日まで中国人民政治協商会議(政協)第十期全国委員会第三回会議が、五日から十四日まで第十期全国人民代表大会(全人代)第三回会議が開催された。
 今回の全人代で、国家中央軍事委員会主席が江沢民から胡錦濤に交替した。江沢民が最後まで留まっていたポストからの辞任を申し入れ、その申し入れが承認された上で、胡錦濤がほぼ満場一致で選出された。大会は江沢民の「党、国家、人民そして国防と軍隊建設に果たした傑出した貢献を高く評価した」。また胡錦濤の主席就任が「党による軍隊に対する領導という根本原則と制度の堅持に有利であり、軍隊の革命化、現代化と正規化の建設に有利である」との期待を表明した1
 これで、胡錦濤は党(総書記)、国家(国家主席)と軍(党と国家の中央軍事委員会主席)の三権全てを独占したことになる。一九四九年の建国以来はじめて、混乱なき三権の移譲劇が形式的には幕を閉じたことになる。
 もちろん、党中央の中枢に押し込んだ上海人脈は存続しており、江沢民の影響力が完全に消失したわけではない。しかし、全人代と政協の「両会」での議論をみるかぎり、胡錦濤政権の独自色、とくに胡錦濤を最高指導者として印象づける場面が強調されて報じられる。なお中央のメディアでは「胡錦濤同志を総書記とした中央領導集団」といわれるが、広東省党委の張徳江書記は「胡錦濤を頭(「首」)とした中共の新世代の領導集団」と繰り返し強調するのである2
 今回の全人代会議では、「反国家分裂法」も審議の上で採択された。『人民日報』社説は「反国家分裂法」の制定を「重大な成果」と高く評価し、この法律が「最大の誠意をもって最大の努力を尽くして、平和的統一を勝ち取るとの一貫したわれわれの主張を十分に体現し、同時に国家主権と領土保全を維持し、“台独(台湾独立)”の分裂勢力がいかなる口実、いかなる方式であれ、中国から分裂させることを全体に許さない中国人民の共通した意志と固い決意を表明している」と説明した3
 「両会」での議論において目立ったのが、胡錦濤政権の独自色である。「反国家分裂法」についても、同社説は胡錦濤が三月四日に示した両岸闘係にかんする「四点意見」を「新しい情勢の下で両岸関係を発展させ、台湾海峡の平和と安定を維持し、祖国の平和的統一を推進する上で、重大な指導的意義がある」といい、「われわれの平和的統一の将来を獲得する最大の誠意を十分に体現し、われわれの国家主権と領土保全を維持するとの固い決意を十分に体現し、全国各族人民の共通した願望を反映している」というのである。
 胡錦濤政権の独自色はまた、「科学発展観」の異常な強調ぶりにも見られる。「科学発展観」は「両会」の代表や委員たちの口から繰り返し引用され、「科学発展観を堅持して、社会主義の和諧社会を構築する」ことが代表・委員たちの共通の「心声」となっていると報じられる4。さらには、「科学発展観」からでてきた「和諧社会」の確立がしきりに提唱されることにも見られる。
 「科学発展観」は胡錦濤が総書記就任以来ずっと提唱してきた思想であり、「党の社会主義現代化建設に対する指導思想をさらに発展させた」ものであり、いまや「新しい法宝」とまで賞賛されるのである。「科学発展観」は「社会主義建設と改革・開放の実践を指導してきた党の科学的総括」であり、「当面の経済社会発展のなかで突出した問題と深層レベルの矛盾を解決する理論的武器」であり、「今後長期的に堅持しなければならない指導方針」とまでいわれるのである5
 「和諧社会」は二〇〇四年九月の四中全会で登場し、協調的発展の中で実現がめざされるべき社会のあり方として強調されるのである。胡錦濤自身の説明によれば、「民主法治、公正正義、誠信友愛、活力充満、安定的な秩序、人間と自然が睦み共存する社会」で、「マルクス主義の基本原理とわが国社会主義建設の実践的経験にもとづき、新世紀の新段階のわが国の経済社会発展の新要求とわが国に出現した新たな趨勢と新たな特徴にもとづく」「一つの社会理想」であるという6
 本稿では以下において、「政府工作報告」を中心に「両院」の議論を検討しておこう。なお「反分裂国家法」や日中関係を含めた外交については、次回に詳しく論じることにしたい。
 

1 「社論:団結奮闘共同創造幸福生活和美好未来」『人民日報』二〇〇五年三月十五日。
2 「科学発展観:胡総執政新理念」『文匯報』二〇〇五年三月十日。
3 『人民日報』二〇〇五年三月十五日前掲社論。胡錦濤の「四点意見」とは、第一に「一つの中国原則を堅持して動揺しない」、第二に「平和統一を勝ち取る努力を決して放棄しない」、第三に「台湾人民に希望を寄せる方針を決して改変せずに貫徹する」、そして第四に「“台独(台湾独立)”の分裂活動に反対して、決して妥協しない」である(「胡錦濤在看望参加政協会議的民革台盟台聯委員」『人民日報』二〇〇五年三月五日)。
4 「本報記者眼中的“両会”―民主、求実、団結、奮進」『人民日報』二〇〇五年三月十四日および「樹立和落実科学発展観」『人民日報』二〇〇五年三月十四日。
5 温家宝「政府工作報告」『人民日報』二〇〇五年三月十五日および「科学発展観是新的法宝」『人民日報』二〇〇五年三月五日。
6 「深刻認識構建社会主義和諧社会的重大意義」『人民日報』二〇〇五年二月二十日。
温家宝報告は成果を強調する
 「両会」は温家宝総理が提出した「政府工作報告」をはじめとして、各部門の報告を聴取して過去一年を総括するとともに、今年の方針を審議し、承認した1
 全人代会議は昨年の工作について、「科学発展観を貫徹・具体化し、マクロコントロールを強化・改善し、改革・開放を深化させ、社会発展の良好な趨勢を保持し、人々を鼓舞する重大な成果をあげ、全面的に小康社会を建設する過程において堅実な歩みを刻んだ」と評価した。今年の方針についても、「『十五(第十次五カ年計画)』任務を全面的に完成し、『十一五(第十一次五カ年計画)』のために基礎をしっかり固めるカギとなる一年である」として、「科学発展観を堅持して経済社会発展の全局を統轄し、マクロコントロールを強化・改善し、改革・開放を深化させ、きまざまな工作をしっかりとやり、社会主義の物質文明、政治文明、精神文明の建設と和諧社会の建設の全面発展を推進しなければならない」と強調したのである。
 今年の「政府工作報告」は昨年とは違い、三部構成をとらずに七章に分けられた。第一章で過去一年の総括、第二章で今年の基本方針、そして第三章以下で今年の具体的政策を説明している2
 過去一年の工作について、「著しい成果が収められた」といい、その成果は「胡錦濤同志を総書記とする党中央が全局をたまもの統轄し、正しく指導を行った賜物(たまもの)である」と強調するのである。「党中央、国務院はタイミングと情勢を見極め、マクロコントロールの強化という政策決定と措置をいち早く打ち出し」、「マクロコントロールには顕著な成果が見られ、経済運営における不安定で不健全な要因が抑えられ、脆弱な部分が補強され、経済の大きな起伏は避けられた」というのである。成果はたとえば、GDPが前年比で九・五%に増加し、対外貿易総額が一兆一千五百億ドル(三五・七%増)で、世界第四位から三位に上昇した。都市住民の一人当たり可処分所得が七・七%、農民の一人当たり純収入が六・八%伸びたことなどである。
 とくに取り組んだこととして、第一にあげられるのが「三農」問題である。第二が「固定資産投資の過度の増大を抑制し、脆弱な部分の補強に大いに力を入れた」ことである。第三が「経済体制の改革を推進し、対外開放を拡大させた」ことで、「農村の租税・費用改革が農業税を逐次撤廃するという新たな段階に入った。国有企業の改革も新たな進展をとげ、国有資産の監督管理体制の枠組みを初歩的に構築した」。第四が「政策によるサポートと財政の投入を大きくし、社会諸事業の発展を促した」ことである。
 第五が「人民の生活の改善に努め、大衆の切実な利益に関わる突出した問題の解決を重視した」ことである。たとえば「貧困扶助事業にいっそう力をいれ」、中央財政は貧困扶助資金百二十二億元を計上し、農村の貧困人口は前年度に比べて二百九十万人減少した。農民の土地収用や都市の立ち退きや権利侵害の案件にも取り組み、「農民の土地収用補償金に対する支払い遅滞のほとんどは返済された。建設分野における工事費や農民就労者の賃金の遅滞問題を全面的に整頓し、数年来の遅滞金の三百三十二億元を返済した。人民大衆の合法的権益を保護することは政府の仕事においてより一層重要な位置づけがなされた」。第六が「民主法制建設を強化して、社会安定の維持に全力をあげた」ことである。ただし、ここで言及されるのは主として農村や都市など基層における民主建設が中心である。
 

1 『人民日報』二〇〇五年三月十五日前掲社説。
2 温家宝前掲報告『人民日報』二〇〇五年三月十五日。
「問題と困難」の存在も認識
 しかしながら、「政府工作報告」は「経済の運営において一部の新しい問題が目につくようになった」ことも認める。「食糧の需給関係が逼迫し、固定資産投資がふくれあがり、マネーサプライや貸出が急速に拡大し過ぎ、石炭、電力、石油、輸送能力が逼迫することになった」ことなどであり、「こうした深刻な問題を放置すると、局部的問題が全局的問題に転じてしまう」との認識を示した1
 過去一年を総括して、「われわれは経済と社会の発展の中でまだ少なからぬ問題と困難を抱えていること」を率直に認めるのである。
 第一に経済運営において「突出した矛盾」が「いまだ抜本的に解決されたとはいえず」、「農業基盤の脆弱な状態に著しい改善が見られず、食糧の増産と農民の収入増を維持しつづけるにはかなりの困難がある。固定資産投資は再度過熱する可能性があり、石炭、電力、石油、輸送の供給もなお逼迫しており、物価高騰のプレッシャーがかかっていること」などである。
 第二に「社会の発展においていぜんとして突出した問題がみられ」、「広大な農村には、教育、医療・衛生、文化などの社会諸事業の面でさらなる解決を必要とするかなり多くの問題が存在し」、「都市と農村の間や地域間の発展の格差、一部の社会構成員の間の所得格差が大きすぎ、一部の低所得層の生活が比較的困窮しており、社会の安定に影響しかねない少なからぬ要因が存在している」。第三に「経済と社会の発展の中にいくつかの長期的問題と根深い矛盾が依然として存在し」、たとえば就業圧力、経済構造の不合理性、産業技術の低すぎる水準、第三次産業の立ち遅れなどが指摘される。
 こうした問題を踏まえて、過去一年の政府工作から得た教訓として温総理が指摘するのはまず第一に「科学発展観の確立と徹底の堅持」である。
 「発展こそ絶対的な道理だということをさらに明確化し、経済建設を中心として経済成長の質と効率の向上を重視しなければならず、人間本位を堅持し、『五つの統一的な企画』(都市と農村の発展、各地域の発展、経済と社会の発展、人と自然のバランスのとれた発展、国内の発展と対外開放をそれぞれ統一的に企画する)に重点をおき、経済と社会の全面的でバランスのとれた、持続可能な発展を実現させなければならないということである」。
 第二にマクロコントロールの強化と改善の堅持であり、第三に改革・開放の堅持である。第四に「全局と局部の関係を適切に処理すること」の堅持である。地方に対して「それぞれの積極性を十分に発揮させるとともに」、「全国をひとつの碁盤とみなす」という戦略的配置から「国の全局と長期的発展の需要にも従うべきである」ことを指示するのである。
 第五には客観的法則の堅持である。「実際的条件から離脱し、建設規模を盲目的に拡大し、経済成長率を一方的に追求してはならない。さもなければ、あせっても、かえって目的を達成できなくなり、重大な損失の招来につながりかねない。経済工作やその他の工作は実効性を重んじながら進めるべきである。主観的能動性の発揚と客観的法則の順守を統一させる」と警告する。そして第六に「人民大衆の利益を第一義とすること」の堅持が強調されるのである。
 第二章では、二〇〇五年の工作の基本方針が説明される。ここでも「科学発展観」が強調され、基本方針として「科学発展観を拠り所として経済と社会の発展の全局を統轄することを堅持し、マクロコントロールを強化・改善し、改革・開放を原動力として工作を推進し、社会主義の和諧社会を確立し、社会主義の物質文明、政治文明及び精神文明がともに進歩するよう推進すること」を指示する。
 そして、今回はその具体的数字を明示する。GDPの伸び率を八%前後にすること、都市就業者の新規増加を九百万人として、登録失業率を四・六%に抑えること、消費者物価上昇率の伸び率を四%以内に抑制すること、そして国際収支の基本的バランスを維持することが表明された。
 経済工作にかんして強調されるのが、第一にいぜんとしてマクロコントロールである。八%成長という「安定的で、比較的快速の発展」の維持に関連して重点的に取り組む問題として指示されるのが、第一に「マクロコントロールの強化と改善」であり、第二が「工作における重点の中の重点」として「三農」問題への取り組みの強化である。農業税の大幅減免、貧困扶助の重点県では農業税を免除する。五年以内に農業税の全廃という目標を、三年以内で前倒しして実現するというのである。第三が「経済構造の調整と成長パターンの転換」の早期実現である。第四が「地域間の均衡の取れた発展」の「積極的促進」である。「西部大開発」や「東北老工業基地振興」とともに、「中部崛起」の促進が提唱される。
 第二に「改革・開放の推進」である。ここでも農村改革の推進が最初に強調される。つぎに株式制改革など国有企業改革の深化が指示され、非公有制経済の発展の奨励、金融体制改革の加速化、財政・税制と投資体制の改革の推進、市場体系整備の強化、WTO体制に即応した開放の促進が指示される。
 そして第三に「和諧社会」の確立である。ここではまず科学技術、教育、文化、医療・衛生及びスポーツの発展に力を入れ、精神文明の建設を強化すること、ついで就業と社会保障に対する工作に力を入れて人民生活のレベル向上を指示する。さらに社会安定の維持のために民主法制の整備の強化を指示する。社会安定に向けては、「信訪(投書・陳情)条例」の確実な履行を指示するとともに、安定を揺るがせかねない深刻な事態に対応できる「早期警報システムと緊急対処メカニズム」の充実を指示するのである。
 第二章はさらに行政機能の強化に加えて、香港や台湾の問題、国防と軍隊の建設強化や外交にも言及している。
 

1 温家宝前掲報告『人民日報』二〇〇五年三月十五日。
温総理は間接的な江沢民批判
 三月十四日に全人代が閉幕した直後に、温総理は記者会見において、情勢認識と政策の基本方針についてかなり率直に総理自身の見解を明らかにした1
 温総理は「われわれの前にある道は平坦ではなく、冷静な頭脳を保持して、情勢がややよくても決しておごらず、平穏な状況下でもたえず危機に対処する心構えをもたなければならない」という。「われわれのような国家は大きすぎ、問題が多すぎ、複雑すぎ、これはわれわれのような民族が艱難を恐れず、不撓不屈で挫けることなく、信念を固め、永遠に奮闘することを要求している」。
 経済情勢について、「マクロコントロールは明らかに成果をあげた」といい、「経済の大起大落の回避に成功し、物価の過度の上昇を避け、経済の安定的でかなり快速な歩みを保持し、物価の基本的安定を保持した」というが、同時に「われわれはいささかも気を緩めてはならず、逆流に舟を進め、進んで退いてはならない」と警戒感を強調するのである。
 警戒すべき問題として、温総理は三点を指摘する。第一は「マクロコントロールの成果の基礎は固まっていない」ことだ。「食糧増産、農民増収の困難はさらに大きく、とくに生産財価格の上昇度はかなり大きく」、「固定資産投資が反発する可能性がある」。
 第二は「一連の両難問題に直面している」。つまり一方で「経済発展が緩慢ではだめで、そうなれば就業圧力はさらに大きくなり、財政収入は減少し、多くのやるべき事業の資金が乏しくなる」が、他方で「経済発展が快速すぎてもだめで、そうなれば経済運営が緊張する」のである。
 第三は「経済発展の中の問題」であり、つまり「経済構造の問題、経済成長方式の問題と経済体制の問題」であり、「これらの深層レベルの問題の解決には時間が必要である」。
 「三農」問題については、温総理自身の強い思い入れを見せた。
 「私は経済学者ではないが、しかし私は農業、農民と農村問題が中国における極端に重要性をもっていることを深く知っている」といい、「農村の小康がなければ、全国の小康もなく、農村の現代化がなければ、全国の現代化もない」と言い切るのである。大都市の上海で指導実績を積み、都市中心の勤務で農村を知らない江沢民とは異なり、温総理は農村工作に従事し、農村をかかえる内陸地方勤務も長かったのである。
 農村改革について、請負制による農民への生産経営の自主権の付与で「農村生産力を解放した」第一段階に対して、現在を第二段階と位置づけて四つの課題の実行を強調する。第一が「税費改革を主要内容とする農村のさまざまな改革」、第二が「農田水利建設と農業科学技術の普及を主要内容とした農業総合生産力の建設」、第三が「農村の教育、科学技術、文化、衛生などの社会事業の推進」で、第四が「村民自治、村レベルの直接選挙と村務公開、県郷の政務公開を主要内容とした農村基層民主建設」である。
 「三農」問題を強調した結果、間接的な江沢民批判さえ示唆するのである。
 「農村の小康がなければ、全国の小康はない」という発言は、江沢民が十六全大会で「総合的にみて、小康水準に達した」との宣言を否定することになる2
 小康社会の基準として、一人当たりGDP、エンゲル係数、都市住民の可処分収入、農民の純収入など十六項目が提起されている。国家統計局によれば、二〇〇〇年までには農民一人当たりの純収入、一人当たりのたんぱく質摂取量、農村の初級衛生保健の基本的な合格県という三つの項目以外では、農村も小康水準を超過達成したことになっている。
 一九九〇年代末以降の農民収入は「低迷(低谷)期」で、一九九七年から二〇〇三年の七年間で都市住民の収入増の五分の一足らずで、年平均の増加率は都市の半分である。八〇年代半ばの一対一・八が九〇年代中期に二・五、二〇〇三年には三・二に格差が拡大している。これに都市住民が享受する住宅、社会保障、公衆衛生や教育などの「国家補貼」を加算すれば、格差は一対五から六に広がる。
 それゆえに温総理は問題を認め、「問題解決に措置をとろうとしている」のである。温総理の「三農」問題への対処の根底には、彼の農業、農村そして農民に対する熱い感情が流れていそうだ。『第一財経日報』(一月三十一日)によれば、二〇〇二年の農村工作会議において当時副総理であった温家宝は激情を露にして、「われわれが領導工作をするとき、農民に対してある種の感情をもつべきかどうか。もし感情がなければどのような領導をすべきかなど、考えることもできない」と書き込んだというのである。
 

1 「在十届全国人大三次会議記者招待会上温家宝総理答中外記者問」『人民日報』二〇〇五年三月十五日および「百折不撓勇向前」『人民日報』二〇〇五年三月十五日。
2 邱「温家宝一句話謬破“総体達到小康”言」『多維郵報』第六百九十五期二〇〇五年三月十五日。
会議費用は農民収入の総額も
 今回の「両会」では「会議方式が改変され」、「報告手続きが簡素化され」、「決議内容が改変され」、「会期が短縮され」、「代表を歓迎する鼓笛隊も見られなくなった」と報じられる1
 計画と予算にかんする関係省庁による報告の聴取を取り消し、審議時間を増やした。計画と予算の草案書の配布は代表グループそれぞれに五部しか配布されていなかったのが代表それぞれに配布され、書類には「名詞解釈」、「図表分析」などの付録が付けられるようになった。国家発展改革委員会や財政部などは、会期中に指導的幹部を派遣して意見を聴取した。また国務院のすべての部と委員会や局は、国務院の要請にそって百名以上の責任者を派遣して代表団の意見を聴取するとともに、諮問を受けた。
 さらに審議結果を受けて、最高人民法院、最高検察院など六つの報告、「反国家分裂法」の草案は多くの箇所が修正され、「政府工作報告」はかなり重要な八カ所の部分を含めて二十一カ所が修正された。各報告の採決の際に、従来は修正後の採決は政府工作報告だけであったが、今回はすべてまず修正してその後で再度採決するようになった。最近四年間の代表たちの連名による議案は一千件を超え、議案処理は半分にも満たなかった。ところが、今回は九百九十一件のすべてが処理された。「国家の民主生活の進歩を十分に示し、政治文明の生き生きとした体現である」といわれるのである。
 しかし、そのためにはかなりの費用をかけなければならない。毎年「両会」にかかる費用は五十億元あまりである2
 会議期間中の代表や委員たちの食費は一日あたり百元あまりで、代表の中からも「食事がひじょうによく」、費用の点で「われわれも不安を感じている」との声があがる。さらに北京の人民大会堂には会期中には、「特別に高額で招かれた五百名以上の若い女性が大会サービスにあたる」。「両会」の代表・委員たちあわせて五千名あまりが食費百元、宿泊費平均三百元(百五十元から六百元)であり、最低でもあわせて毎日百五十万元となり、二十日間で三千万元である。代表たちの出張交通費が一人一千元とみて、五千万元となる。生活補助費が二十日間で一人一千元であわせて五百万元となる。セキュリティに動員される警察が六十五万人で、三十元から百元の賃金補助で、二十日間で四千万元となる。北京市政府も「両会」のために一億元あまりを支出し、安全、通信、交通などに三億元を支出し、あわせて五億元あまりの支出となるのである。
 五十億元は、全国農民の年間収入の総額に相当する。「失学児童(学校に行けない児童)」が全国に二千七百万人で、これに統計に入っていない「民工(農民出稼ぎ労働者)」の子弟、「超子孩(一人っ子以上の子供)」や統計の誤差を加えて五千万人に一人当たり二百元で学業を習得させることができるとして、「両会」二回分の百億元もあればよい3
 全人代常務委員会の呉邦国委員長は「人大は第二線ではなく、第一線であり、必要なときには導火線でもある」という4。そのように機能しているのであれば、五十億元も高くはないかもしれない。そうでないとすれば、高額すぎる無駄使いとみられるのかもしれない。
 

1 「従人大会風看求真務実」『人民日報』二〇〇五年三月十四日。
2 「不寝思想論壇:叫人心寒的几个社会現象」『二十一世紀中国基金会』二〇〇五年三月十八日。
3 「七百億元告訴我們什麼?」「不寝思想論論壇」『二十一世紀中国基金会』二〇〇五年三月十八日。
4 「人大立法凸顕以人為本」『文匯報』二〇〇五年三月十日。
●2月の動向日誌
2月1日
*海峡両岸関係協会の孫亜夫副会長と李亜飛秘書長が台北入り(〜2日)、故辜振甫氏(1月3日死去)の遺族を弔問し、汪道涵会長の書簡を未亡人に手交。
*曾慶紅副主席、ジャマイカ訪問(〜3日)、パタソン首相と会談し経済・技術協力など八つの取決めに調印。
7日
*胡錦濤総書記、貴州省で小数民族の村、都市の社区や建設現場を視察(〜11日)。
*温家宝総理、河南省を訪問、エイズ予防・治療工作を視察。(〜9日)。
9日
*日本政府、尖閣諸島魚釣島の灯台を国の管理下に置くと発表。
14日
*遼寧省阜新鉱業集団公司の孫家湾炭鉱でガス爆発事故が発生、死者二百人以上。
15日
*米太平洋軍のファロン次期司令官(海軍大将)、上院軍事委員会の氏名公聴会で証言し、中国の軍事動向について「前例のないペースで拡大しており、中国の意図がどこにあるのか注視する必要がある」と軍事力拡大への警戒を強める考えを表明。
19日
*王家瑞中央対外連絡部長、訪朝(〜22日)。19、20日に金永南朝鮮最高人民会議常任委員会委員長と、21日に金正日総書記と会見し、胡錦濤総書記のメッセージを伝達。
*日米政府、ワシントンで閣僚級の日米安全保障協議委員会(2プラス2)会合を開き、「対話を通じた台湾海峡問題の平和的解決を促進する」目標を共有することで合意。20日、中国外交部の孔泉報道局長、外交部ウェブサイトで、「日米政府の共同声明は、中国の主権と領土の保全、さらに国家の安全に関わりがある台湾問題に言及した」と批判。
21日
*中央政治局会議開催、第十期全人代第三回会議に上程される政府活動報告(草案)について討議。
*佐々江外務省アジア大洋州局長、程永華駐日公使に東シナ海の「春暁」「断橋」ガス田の開発中止を申し入れ。
22日
*国務院台湾弁公室の孫亜夫副主任訪日、谷内外務次官、町村外相と会談、全人代に提出される「反国家分裂法」の制定へ理解を求める。
小島朋之(こじま ともゆき)
1943年生まれ。
慶応義塾大学法学部卒業。慶應義塾大学大学院修了。
京都産業大学教授を経て現在、慶應義塾大学教授。同大学総合政策学部長。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








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