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私はこう考える【中国について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2004年4月号 東亜
全人代のキーワードは協調だ
慶應義塾大学教授
小島朋之
 
 中国の「協調〈バランス〉」姿勢が目立っている。国際的には北朝鮮の核開発問題をめぐる第二回六カ国協議(日本、アメリカ、中国、韓国、北朝鮮とロシア)を二月二十五日から二十八日に北京で開催し、ホスト国として各国間に意見の「深刻な相違」があるにもかかわらず、六月末までの第三回協議の開催を盛り込んだ「共同文書」の発表にまでこぎつけた1
 三月二十日に投票が行われた台湾の総統選挙でも、一九九六年や二〇〇〇年の選挙で見せた恫喝的な「文攻武嚇」の露骨な干渉はとらなかった。結果は〇・二二八%という僅差での現職の陳水扁総統の再選であり、惜敗した国民党と親民党の野党連合の連戦候補による選挙無効、票の再集計の要求によって台湾政局は混乱したが、中国側は「事態の推移に注目している」と表明して、静観の態度を崩さないのである2
 内政面でも「協調」を強調する姿勢が、三月五日から開かれた第十期全国人民代表大会(全人代)第二回会議でも貫かれている。
 温家宝総理は会議に提出した「政府工作報告」のなかで、発展を「第一要務」とすることを確認しながらも、「快速」ではなく「協調」的な発展を強調した3
 「発展という第一の重要課題をしっかり押さえ、科学的発展観を堅持し、『五つの統一的な企画』という要請にもとづいて、マクロ規制をしっかり遂行することをさらに重視し、統一的に企画し、それぞれに配慮することをさらに重視し、人間本位(以人為本)をさらに重視し、改革と革新をさらに重視し、経済と社会の発展における突出した矛盾の解決に力を入れ、人民大衆の切実な利益にかかわる突出した問題の解決に力を入れ、改革・発展・安定の関係を正しく処理し、経済と社会の全面的で協調的かつ持続可能な発展を促し、社会主義の物質文明、政治文明と精神文明がともに進歩することを実現することである」。
 「五つの統一的な企画」とは、「都市と農村の発展、各地域の発展、経済と社会の発展、人と自然の協調的な発展、国内の発展と対外開放」をそれぞれ統一的に企画することである。ここでも「協調」がキーワードである。
 本稿では以下において、第十期全人代第二回会議の議論とともに、台湾の総統選挙に対する中国側の対応を中心に中国の動向を検討しておこう。
 

1 「堅持和談進程、譜写和解合作新篇章・・・第二輪北京六方会談閉幕」『人民日報』二〇〇四年二月二十九日。
2 「国台弁発言人就台湾地区領導人選挙出現争議答問」『中国台湾網』二〇〇四年三月二十一日。
3 温家宝「政府工作報告」『人民日報』二〇〇四年三月十七日。
困難と問題の存在を率直表明
 中国人民政治協商会議第十期全国委員会第二回会議が三月三日から十二日まで、第十期全人代第二回会議が三月五日から十四日まで開かれた。この「両会」のうちで、全人代では国務院の温家宝総理による「政府工作報告」、国家発展改革委員会の馬凱主任による国民経済と社会発展の計画、財政部の金人慶部長による中央政府と地方政府二〇〇三年度予算案の実行状況と二〇〇四年度の予算草案にかんする報告、憲法改正案、全人代常務委員会の呉邦国委員長による常務委員会工作報告、肖揚院長による最高人民法院の工作報告、賈春旺検察長による最高人民検察院の工作報告を聴取・審議して、審査・承認をした。
 三月十四日の閉幕日に、いずれについてもほぼ提案通りに承認された。「政府工作報告」は十九箇所が修正追加され、投票した代表が二千八百九十六名で、そのうち二千八百七十四人が賛成を投じ、反対七、棄権十五票で、支持率は九九・二%であった。憲法改正案は有効投票数が二千八百九十で、賛成が二千八百六十三、反対十、棄権七票であり、支持率は九九・〇七%であった。財政報告は二千五百四十票の賛成、反対が二百二十五、棄権が百三十一票であった。最高人民法院報告は七一・八九%、最高人民検察院工作報告は七四・六二%でかなり低い支持率であるが、それでも前回より上昇した。そして開会式と閉幕式に胡錦濤国家主席をはじめとした現役の指導者を引き連れて登場したのが中央軍事委員会の江沢民主席であり、投票でも先頭であった1
 温家宝総理の「政府工作報告」は、第一に二〇〇三年度の「一年来の回顧」、第二に「二〇〇四年の主要任務」そして第三に「政府自身の建設の強化」から構成されている2
 第一では、「非典」などの発生によって「わが国の発展過程において重要で尋常ならぬ一年であった」が、同時に「改革・開放と社会主義現代化建設が著しい成果を収めた一年であった」と総括された。
 「成果」として、六点が強調された。第一が「果断な措置をとり、非典の対策・措置に力を集中した」こと、第二が「適時かつ適度なコントロールで、穏当かつ快速な発展を促した」こと、第三が「統一的に企画し、各方面に配慮することを重視し、社会事業の発展を加速させた」こと、第四が「大衆の生活に関心を示し、就業と社会保障の仕事をしっかり行った」こと、第五が「体制の創造・革新を推進し、改革・開放が重要な一歩を踏み出した」こと、そして第六が「法制建設を強化し、社会の安定を維持した」ことである。
 ただし、報告は「成果」とともに、「困難と問題」の存在を認め、さらにその解決がそう簡単ではないことも率直に表明している。
 「われわれは前進途上にはなお多くの困難と問題があり、政府の工作にはなお少なからぬ欠点があり、大衆にはなお不満な点があり、長く蓄積された深層レベルの矛盾の根本的な解決にはなおかなり長い時間が必要であることを冷静にみてとっている」。
 「困難と問題」とは、「農民の収入が伸び悩んでいること、就業と社会保障の課題が重いこと、地域間の発展のバランスが取れていないこと、一部の社会構成員の間の収入格差が大きすぎること、資源と環境に対するプレッシャーが増大していること。経済の加速発展過程において、またいくつかの新たな矛盾と問題が生じ、とくに投資の規模が大きすぎ、一部の業種と地区では盲目的な投資、低い水準の重複建設がかなり深刻で、エネルギー資源、交通および一部の原材料の需給関係が逼迫している。食糧の減産が比較的多く、法律と規定に違反した耕地占用の現象がかなり突出している。社会事業の発展が相対的に立ち遅れ、人びとの就学難、医療難に対する苦情がかなり強い。都市・農村において、少なからぬ低収入層の生活がまだかなり困難である。一部の地方では、重大な刑事犯罪事件がしばしば発生している。安全にかかわる重大な事故が連続して起こり、人民大衆の生命、財産に深刻な損害をもたらしており、その教訓はきわめて深刻である。われわれは政府機関の一部の工作人員の中に主観主義や形式主義、官僚主義といった作風が見られ、贅沢三昧や浪費、虚偽や欺瞞、さらには汚職腐敗さえもが存在することを冷静に見て取っている。このため、政府自身の建設と反腐敗の工作はきわめて巨大である」。
 そして温総理は、「困難と問題」の解決に正面から取り組むことを誓うのである。
 「これらの矛盾と問題について高度に重視し、回避してはならず、真剣に解決し、その発展を放置してはならない。政府の工作は任重くして道遠しである。われわれは冷静な思考力を保ち、憂国の意識と歴史的責任感を強め、決断を下し、困難を知って前進し、開拓と創新に力を入れ、地道な工作を進め、新しい精神状態と新しい工作の姿勢で新たな試練に立ち向かい、人民の期待に決して背いてはならない」。
 

1 「人大閉幕工作報告得最高票」『明報』四年三月十五日および「温総理首報告 最高票通過」『聯合報』二〇〇四年三月十五日。
2 温家宝『人民日報』二〇〇四年三月十七日前掲報告。
二〇〇四年の主要任務を設定
 こうした「矛盾と問題」は、これまでの「快速」成長がもたらした歪みといってよい。これまでも政府が「困難と問題」を認めてこなかったわけではないが、「快速」成長を変えることはなかった。しかし、今回は「快速」よりも「協調(バランスのとれた)」発展への転換を強調するのである。二〇〇三年の成長率は九・一%であったが、二〇〇四年は七%前後に抑えられる。そして「以人為本」を重視する「親民」路線から、「人民大衆の切実な利益にかかわる突出した問題の解決に力を入れる」ことを強調するのである1
 たとえば農民の年収五%増をめざして、農業税の段階的廃止、農村への財政支出の二〇%増などを提案する。「三農(農業、農村と農民)問題」の解決について、温総理が報告原稿にないアドリブで「この場で強調したい」と語って、「最も重要な課題」と力説するのである。なんとかしなければ、農民の不満が昂進し、社会不安を醸成し、共産党政権の存立さえ揺るがしかねないからだ。格差拡大の中でも、農村と都市のそれはとくに顕著であり、一九八四年には農民と都市住民の収入格差は一対二・四に縮小していたが、二〇〇三年には一対三・二四にまで広がっているのである。
 それゆえに、「快速」ではなく「協調」をキーワードに、「二〇〇四年の主要任務」を設定する。「五つの統一的な企画」に沿って、「人間本位をさらに重視し」、「経済と社会の発展における突出した矛盾の解決に力を入れ、人民大衆の切実な利益に関わる突出した問題の解決に力を入れ、改革・発展・安定の関係を正しく処理し、経済と社会の全面的で協調的かつ持続可能な発展を促す」ことが強調されるのである。
 「主要任務」としては、八点が指摘される。第一点が、「マクロ規制を強化・改善し、経済の安定的で比較的速い発展を維持する」である。経済成長については、九%といった快速は求めず、七%前後に設定した。
 「内需拡大の方針は堅持し、ひきつづき積極的な財政政策と穏健な通貨政策を実施する」。しかし建設国債の発行については「段取りを追って発行規模の調整、縮小をはかるべき」として、二〇〇四年には前年より三百億元減らして百億元の発行にとどめる。建設国債の使用方向も調整し、二〇〇四年の国債投資は農村、社会事業、西部開発、東北地区などの旧工業基地、生態系の整備と環境保全へと傾斜する方針である。
 マクロ規制の重要課題として、固定投資の規模も「適切に抑え、一部の業種と地区での盲目的な投資、低いレベルでの重複した建設を断固抑制する」。
 第二点が「農業の基礎としての地位を打ち固め、強化し、農民の収入増と食糧の増産を実現する」ことであり、これこそが「われわれのすべての工作のなかで最も重要なもの」と強調されるのである。
 農民に対する農業特産物税を撤廃して、毎年四十八億元の農民負担を軽減する。農業税の税率を毎年、平均一ポイント以上も引き下げて、五年以内に農業税を撤廃する。農村における租税・費用の改革を支援するために、三百九十六億元を移転支払いに振り当てる。「三農」問題の解決に向けて、中央財政の投入資金を前年度より二〇%以上増やし、三〇〇億元以上増加する。
 第三点が「協調発展」に向けて、「西部大開発と東北地区などの旧工業基地振興を推進する」ことである。第四点が「科学・教育による国家振興の戦略を実施し、持続可能な発展の道を歩むことを堅持する」ことである。第五点が、「医療衛生、文化、スポーツなどの事業の発展を速め、精神文明の建設を強化する」ことである。
 第六点が、「有利な時期をとらえて、経済体制の改革を深化させる」ことである。国有企業改革の深化とともに、「非公有制経済の発展に大きな力を入れ、積極的にそれを導く」ことが強調される。そのために非公有制経済の発展を制限する法規と政策について、整理と改正を急ぎ、市場参入措置の緩和を実施することが指示される。投融資、税収、土地の使用や対外貿易などの面での待遇についても、非公有制企業が公有制企業と同じ待遇が受けられるように措置を講じることも指示される。
 第七点が、「新しい情勢に適応し、対外開放のレベルを高める」ことである。
 そして第八点が、「就業と社会保障の工作にさらに大きな力を入れ、人民の生活をさらに改善する」ことである。
 「就業」については、二〇〇四年には都市部で九百万人の新規増加を実現し、「下崗失業人員」五百万人を再就業させることが目標として設定される。そのために財政や貸付による支援、租税減免などの政策の実施が強調される。中央財政予算では前年度比三十六億元増で、再就業補助資金八十三億元を計上している。
 「社会保障」については、都市・農村の特別困窮者に向けた社会救済制度の健全化が強調される。また「都市部の家屋立退きと農村の土地収用にみられる問題の解決を急ぐ」ことも強調される。温家宝総理が関心を寄せ、解決に努力した農民の「民工」への給与遅配や未払い問題の解決も指示される。国務院は、とくに建設分野における工事建設費遅配や「民工」への給与遅配問題を三年以内に基本的に解決することを宣言するのである。
 第九点が、「民主法制建設を強化し、国家安全と社会安定を維持する」ことである。しかし政治体制の改革については、「積極的かつ着実に推進する」といい、「基層民主をさらに拡大する」とはいうが、具体的には「村民自治と都市居民自治を充実する」ことに言及するだけである。
 

1 温家宝『人民日報』二〇〇四年三月十七日前掲報告。
協調発展の堅持はできるのか
 「主要任務」はこれら九点であるが、さらに「国防と軍隊の現代化建設」の強化が指摘される。ここでも「国防建設と経済建設の協調発展」が強調され、その条件の下での「ハイテク条件下の全体的な防衛戦闘能力を強化する」ことが指摘される。二〇〇五年までに二十万人の軍隊の削減も確認されている。
 「政府自身の建設の強化」については、温総理の報告は「政府が重くて困難な課題を抱えている」ことを認め、「政府機能の転換」、「科学的かつ民主的な政策決定の堅持」、「法による行政の全面的推進」、「人民監督の自覚的受け入れ」と「政風(政府部門の作風)建設と公務員隊列建設の強化」を強調するのである。
 さらに香港・マカオと台湾問題、そして中国外交について全般的な方針を概括して「政府工作報告」は終わっている。
 「政府工作報告」で温総理は「経済の穏やかな高成長を実現し、急激な変動は防がなければならない」とクギをさしたように、「速度偏重から、構造調整や成長の質と効益を一層重視した経済成長へ」の移行が主流となったようだ1
 経済成長の目標が七%前後に抑えられたのは、「マクロ経済に対して適度な調整を行うという信号が出されたのに等しい」。河南省常務副省長の王明義代表は「いくつかの地域・業界に対し、投資過熱と低水準の参入過多に『赤信号』が灯ったと警告するものだ」との見方を示している。全人代の代表たちは、また「経済成長モデルは局部的急成長から全体的成長へ」移行したと感じている。貴州省の慕徳貴代表は、「協調発展」こそが「現代化建設における、ひとつの重大な戦略課題」だと提唱し、「拡大し続ける発展地域と未発展地域との格差を縮小し、経済と社会、人間と環境の調和の取れた発展を促進することが、強く求められている」と話すのである。
 国務院発展研究センターの王夢奎主任も、「全面的で協調的かつ持続可能な発展(全面協調可持続発展)」が今後の戦略課題であると指摘し、その実現に向けた「五大任務」を指摘する2
 第一に農村発展と農民問題の解決を重視し、都市・農村の「協調発展」を促進する。第二に後進地域の支援を重視し、地域の「協調発展」を促進する、第三に社会問題の解決を重視し、経済と社会の「協調発展」を促進する。第四に資源節約と生態環境の保護を重視し、人間と自然の「協調」を促進する。第五に国内外市場の「協調」を重視し、開放拡大のなかで国内発展を促進する。
 王主任によれば、二〇二〇年には中国の都市化率は現在の四〇%から五五%以上に上昇し、農村労働力は社会就業全体のなかで五〇%から三分の一に低下する。「こうした根本的な社会転換の順調な実現のために、数億人規模の大規模な社会変動がもたらす深刻な混乱や動揺を避けるために、大中小都市と小城鎮の協調発展を重視し、過度な都市化にともなう『都市病』や大量の農民が土地を失って流民になることを防止しなければならない」。
 「協調発展」は、いままでも言われてこなかったわけではない。しかし、「快速」をよしとする幹部たちの実績主義ゆえに、「協調発展」は遅すぎると批判されがちであった。「協調発展」の堅持は、それほど簡単ではない。
 

1 「政府活動報告に見る中国経済の三大動向」『人民網・・・日本語版』二〇〇四年三月二十三日。
2 「王夢奎提出中国全面協調可持続発展面臨大任務」『中国新聞網』二〇〇四年三月二十一日。
憲法の改正は十三カ所に及ぶ
 今回の全人代では、憲法改正案も審議されて採択された。
 中国では一九四九年の建国の際に「共同綱領」が基本法として制定され、五四年に憲法が作成され、七五年と七八年に全面的に改定され、そして八二年にも全面改正された。これが現行憲法であり、これまで三度の部分修正が加えられてきた。「社会主義市場経済」、「社会主義初級段階」、「社会主義初級段階の基本経済制度」としての「公有制を主体にした多種所有制の経済の共同発展」と「分配制度」における「労働に応じた分配を主体とした多種分配方式の並存」、農村集団経済組織での家庭請負経営を基礎とした「双層経営体制」、「非公有制経済」の地位の明示や小平理論の「指導的地位」の確定などが追加明記されてきた。
 今回の憲法改正は、「改革・開放と社会主義現代化建設の新たな実践のなかでえられた貴重な経験、とくに“三個代表”重要思想について国家と社会の生活のなかでの指導的地位を確立し、安定を保持しながら時とともに進み、全国各民族人民が中国的特色をもった社会主義の道にそって不断に歩むために、さらに有力な法的保障を提供した」といわれる1
 改正点は十三カ所に及んだ。第一に「“三個代表”重要思想」を追加明記して、毛沢東思想と小平理論と並んで「国家の政治と社会生活における指導的地位」を確定した。第二に「物質文明、政治文明、および精神文明の協調発展を推進する」との内容を追加した。第三に「統一戦線」を説明する際に、「社会主義事業の建設者」を追加明記した。
 第四に「土地収用制度の改善」、第五に「非公有制経済発展」に対する国家の肯定的方針をさらに明確にした。現行、憲法の「国家は個体経済、私営経済の合法的権利や利益を保護する。国家は個体経済、私営経済の指導、監督、管理を行う」は、「国家は個体経済、私営経済など非公有制経済の合法的な権利や利益を保護する。国家は非公有制経済の発展を奨励、支持、指導し、非公有制経済に対し法に基づく監督、管理を行う」に改正された。
 第六に「私有財産保護」を明確に確認した。現行憲法の「国家は公民の合法的な収入、貯蓄、住宅その他の合法的財産の所有権を保護し」、「国は法律に基づき公民の私有財産継承権を保護する」は、「公民の合法的私有財産は侵害されず」、「国は法律の規定にもとづいて公民の私有財産権およびその継承権を保護し」、「国は公共の利益の必要に応じ、法律の規定によって公民の私有財産を徴収・徴用することができる。合わせて補償を行うものとする」に変更された。
 第七に「健全な社会保障制度を打ち出す」ことを追加明記した。第八に「人権を尊重・保障する」ことを追加明記した。第九に「全国人民代表大会の構成」にかんする規定を変更した。第十に戒厳令を削除して、戒厳を含む「緊急事態」を新たに明記した。第十一に国家主席の職権に「国事活動を進める」ことを追加明記した。第十二に郷鎮政権の任期を三年から五年に変更した。そして第十三に国旗、国徽や首都に加えて、国歌を明記した2
 

1 「依法治国基本方略的重大挙措――憲法修正案誕生記」『新華網』二〇〇四年三月二十一日。
2 王兆国「関於『中華人民共和国憲法修正案(草案)』的説明」『人民日報』二〇〇四年三月九日。
憲法改正は胡錦濤政治局主導
 憲法改正の工作は、十六全大会閉幕直後に胡錦濤総書記が主宰する政治局によってはじめられた1。二〇〇二年十二月四日、胡錦濤総書記は憲法公布二十周年記念大会で「重要講話」を行い、「いくつかの規定について必要な修正と補充」を提起した。十二月二十六日には政治局は第一回目の集団学習で、憲法について学習した。そして政治局常務委員会は「二〇〇三年工作要点」のなかで、憲法改正工作の開始を明記していたのである。
 二〇〇三年三月の第十期全人代第一回会議と第十期政協第一回会議の期間中に、人代の代表たちは十六件の憲法修正提案をだし、政協委員も十二件の憲法修正提案を提出した。国民からも憲法修正をもとめる書簡が一千通以上も全人代常務委員会弁公庁に送られてきた。胡錦濤総書記はこの「両会」期間に「重要批示」をだして、早急な憲法修正工作を要求した。総書記が指示した「党の領導を確実に強化し、民主を十分に発揚し、各方面の意見を広範に聴取し、厳格に法に沿って事を処理する(切実加強党的領導、充分発揚民主、広範聴取各方面的意見、厳格依法弁事)」の三十文字は、今回の憲法改正の工作方針となった。
 「両会」が閉幕して、三月二十七日に政治局常務委員会は会議を招集し、憲法修正工作を研究して配置を行い、改正の原則を確定した。それは「マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、小平理論と“三個代表”重要思想を導き手として堅持し、党の十六全大会精神を貫徹し、党の十三期四中全会以来の基本的経験を体現し、党の十六全大会が確定した重大な理論的観点と重大な方針を憲法に明記する」ということである。この会議で政治局常務委員会、全人代常務委員会の呉邦国委員長を組長とする中央憲法修改小組の設立が決定され、小組は政治局常務委員会の領導の下で改正作業を正式にはじめた。
 二〇〇三年四月には、党中央は一級行政区の党委に憲法改正にかんする意見聴取の指示をだした。このレベルの人代常務委員会党組に対して憲法改正にかんする提案をもとめた。この期間は「非典」という緊急事態への対応が迫られていたが、各地、各部門から中央に向けて百近い意見が提出された。五月、六月には中央憲法修改小組は上海、四川、北京などで前後六回の座談会を開いて、直接に一級行政区や国家機関、企業などの責任者や専門家から意見を聴取した。そして七月はじめには「党中央の憲法修正部分の内容にかんする建議(草稿)」が作成された。「建議(草稿)」は、政治局常務委員会会議と政治局会議で討議された後で、「建議(意見稿)」として、一級行政区の党委、中央と国家機関の各部委の党組(党委)、解放軍総政治部、人民団体の党組などに送られ、再度意見が求められた。
 八月二十八日、胡錦濤総書記が主宰して民主党派、全国工商聯合会の責任者や無党派人士による座談会が開かれ、意見がもとめられた。九月十二日には、呉邦国委員長が理論工作者、憲法学者や経済専門家を招いて、意見を聴取した。「憲法修改小組」は再度「意見稿」を修正し、土地収用制度の整備、「緊急状態制度」などを修正内容に追加した。
 胡錦濤総書記は政治局常務委員会会議と政治局会議を主宰し、繰り返し討議・研究し、最終的に「建議(草案)」を作成し、三中全会での審議に付すことを決定したのである。これまでの憲法改正の「建議」はいずれも政治局での審議で決定されてきたが、今回は中央委員会全体会議で審議された。これははじめての事例である。
 十月十一日に第十六期三中全会が開かれ、呉邦国組長が政治局の委託を受けて、憲法改正「建議(草案)」を説明し、審議をへて十月十四日に「建議」は採択されて全人代常務委員会に提出された。
 常務委員会は十二月二十二日に第六回会議を開き、王兆国副委員長の「建議」説明を受けて、「建議」を討論した。十二月二十七日に常務委員会は全員賛成で、第十期全人代第二回会議に憲法改正草案を議題として提出することを決定し、各選挙単位に委託して全人代の代表たちが修正草案を閲覧し、現行憲法と関連文書を学習するなど第二回会議での審議に向けた必要な準備を要請した。そして二〇〇四年三月に開かれた第十期全人代第二回会議に提案され、三月八日には常務委員会の王兆国副委員長が憲法改正草案を説明した。そして三月十四日に採択されたのである。
 

1 『新華網』二〇〇四年三月二十一日前掲記事。
総統選後の台湾混乱にも静観
 三月二十日に、台湾では三回目になる直接投票による総統選挙が行われた。投票前日には現職総統の陳水扁候補が銃撃され、選挙結果は〇・二二八%の僅差で陳候補が辛勝した。
 国民党と親民党の野党連合の連戦候補は選挙無効、票の再集計を高等法院に提訴し、野党支持者が連日総統府前で抗議デモや座り込みを繰り返した。高等法院は提訴ができるのは中央選挙管理委員会による当選者の公告の後であるとの規定を理由にして、提訴を却下した。陳総統は「総統副総統選挙罷免法」を改正して、僅差の選挙の際には票の再集計を可能にし、今回の選挙にも遡及することを指示するとともに、連戦候補とのトップ会談にも応じる意向を明らかにした。
 総統は五月二十日に正式就任することになっている。しかし公告後の再提訴、それなしの法改正あるいは総統の緊急命令による再集計いずれによっても、台湾政局の混乱はそれほど短期には収まらない。十二月の立法院(国会)選挙まで、野党内部の分裂を含めて混乱は持ち越されそうである。
 中国側は、総統選に対しても「協調」姿勢で静観してきた。温家宝総理は「政府工作報告」において、「台湾独立」を意図する「いかなるかたちの分裂活動にも断固反対し、台湾の中国からの切り離しを図るいかなる者、いかなる形も絶対に許さない」との強い姿勢を表明する1。しかし同時に「平和的統一、一国両制」の基本方針、一九九五年の江沢民による「八項目提案」を再確認し、柔軟な方針も強調するのである。
 「両岸の人的交流や経済・文化的交流を積極的に推進し、両岸の直接の『三通(通信、通航、通商)』の実現を促進し、台湾の人々の大陸部における正当な権益を法によって保護し、『一つの中国』原則を踏まえての両岸の対話・交渉の回復を図っていく。われわれは最大の誠意と努力により、祖国の平和的統一を実現していく。台湾の人々を含むすべての中華民族がたゆまず努力することで、祖国の完全な統一という共通の願いが、必ず早期に実現できると、われわれは確信している」。
 台湾の民意もある意味で、中国側への配慮をした結果をもたらした。中国側は台湾独立につながりかねないとの理由で、対中防衛方の強化と中国との交渉の是非を問う「公民投票」に激しく反対していたが、投票率は四五%程度で、成立に必要な五〇%を上回らず、無効に終わった。自立指向が強い陳総統を再選出しながら、中国側に独立を懸念させる「公民投票」は成立させないというのは、台湾人の成熟した選択である。
 中国側は、選挙後の混乱にも介入回避の慎重姿勢をつづけている2。党中央台湾弁公室と国務院台湾事務弁公室は、「公民投票」の不成立を「中国から台湾を分割しようとするいかなるたくらみも、失敗する運命にある」と高く評価した。そして野党連合の選挙無効の提訴に対しても、いまのところは「事態の推移を注視している」との姿勢を表明するだけである。
 

1 温家宝『人民日報』二〇〇四年三月十七日前掲報告。
2 『中国台湾网』二〇〇四年三月二十一日前掲記事および「国台弁発言人就台湾地区領導人選挙争議答記者問」『新華網』二〇〇四年三月二十一日。
●2月の動向日誌
1月31日
*衛生部、広州で四人目のSARS感染を発表。地元衛生当局の診断から発表まで六日。
2月上旬
*中国各地で鶏インフルエンザ感染疑い例報告。
2日
*チチハルの毒ガス被害者が日本政府に対し、民事訴訟を起こすことを決定。弁護士との契約に調印。
3日
*外交部章啓月報道官、朝鮮半島の核問題に関する第二回六カ国協議を2月25日から開催すると発表。
3日
*麻薬密輸の日本人に死刑判決。遼寧省瀋陽市中級人民法院。
5日
*北京市密雲県で祭り見物の観光客らが将棋倒し。三十七人死亡。
9日
*李肇星外交部長、訪中した北朝鮮・金桂冠外務次官と会見。六カ国協議についての意見交換。
10日
*全国銀行・証券・保険工作会議開催。温家宝総理が演説。金融改革推進を強調。
11日
*張銘清・国務院台湾事務弁公室報道官が記者会見、「台湾総統選挙に介入しない意向」を表明、「だれが選挙に勝っても構わない」と言明。
15日
*吉林省吉林市の商業ビルで火災発生。五十人以上死亡。
17日
*李肇星外交部長、訪中のボルトン米国務次官と会談。国際的な平和と安全の問題で米中が協力することで一致。
18日
*二〇〇三年の日中貿易額は、輸出入総額で前年同期比三〇・四%増。五年連続で過去最高額更新。
21日
*北京市人民代表大会第十二期第二回会議、王岐山市長代理を市長に選出。
23日
*トヨタ自動車と中国・第一汽車集団による合弁自動車販売会社「一汽トヨタ自動車販売」、カローラ(中国名・花冠)の国内販売を開始。
25日
*北京で米中金融協議開催(〜26日)。人民元の為替制度、金融分野の協力について協議。
29日
*全国人民代表大会常務委員会、薄煕来・前遼寧省長を商務部長に任命。
小島朋之(こじま ともゆき)
1943年生まれ。
慶応義塾大学法学部卒業。慶應義塾大学大学院修了。
京都産業大学教授を経て現在、慶應義塾大学教授。同大学総合政策学部長。
 
 
 
 
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