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2001/01/25 産経新聞朝刊
【主張】法輪功 過剰な弾圧が悲劇を招く
 
 中国政府が非合法化した気功集団「法輪功」のメンバー五人が北京の中心、天安門広場で集団焼身自殺を図り、うち一人が死亡するという衝撃的事件が起きた。今のところ、五人は河南省開封市の法輪功メンバーと発表されているだけで、動機などは明らかでないが、中国当局の弾圧に対する抗議であることは確かだろう。
 法輪功側は、米国在住の創始者、李洪志氏が自殺を禁じているため、メンバーによる自殺はあり得ないとし、中国当局の謀略宣伝と声明しているが、全く不可解である。李氏は中国政府への抗議活動を呼びかけている。その結果、中国当局の「法輪功狩り」はますます厳しくなり、末端のメンバーは行き場を失って、最後の抗議の手段に集団自殺を選んだのではないか。
 われわれは法輪功の活動をすべて支持しているわけではない。むしろ李洪志氏の「教義」や「奇跡」には、かつてのオウム真理教の麻原彰晃被告にも似たうさんくささを感じる。中国政府がオウム事件に教訓を得て、未然にその組織壊滅に力を入れたのだとすれば、一定の理解ができるのである。
 しかし、その方法に行き過ぎがあるのではないかと懸念する。法輪功メンバーは、自称数千万人、実際には数百万人と推定されているが、その大半は健康活動としての気功の愛好者とみられており、党、政府、軍の幹部らを含め、非常に広範な国民が法輪功の組織する活動に参加していた。その急速な普及ぶりを警戒するあまり、当局の過剰な弾圧が善意のメンバーをも「敵」に回し、追いつめている面がある。
 気になるのは、最近の中国側の摘発キャンぺーンには、法輪功が外国の反動勢力と結託し「国家転覆」をたくらんでいるとの主張が目立つことだ。一九八九年の天安門事件の後、中国は西側の「和平演変(平和的手段による体制変革)」の陰謀と非難したが、法輪功も同じだというわけだ。
 確かに法輪功は米欧など各地に支部を持ち、外国人や在外中国人のメンバーも多い。一部では民主運動グループとの接近も伝えられる。そうした点を指摘して、中国国民の警戒心を呼びさまし、共産党への求心力を回復するのが狙いだろうが、その結果、健全な言論や宗教活動、民主化要求までも抑圧していることには強く反対する。
 法輪功は広報・連絡にインターネットを利用、国内への影響力を維持しているという。中国政府はネット利用を奨励する一方で、ネットへの監視・規制を強めている。法輪功への過剰な警戒心が中国の対外開放を後退させることのないよう、併せて願いたい。
 
 
 
 
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