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1996/11/14 産経新聞朝刊
【主張】揉み手で行う対中円借款
 
 待ってました、という外務官僚のつぶやきが聞こえてくるようだ。中国に対する第四次円借款再開へ向けた実務交渉にやっと入れるからである。九六年度から三年間で五千八百億円に上るこの援助により、対中円借款は累計で二兆円を超す。インドネシアを追い越してダントツの巨額援助受取国だ。
 普通なら夏頃には行われていたはずのプロジェクトごとの実務協議(調査団派遣)を遅らせていたのは七月末の中国の核実験に対する一応の不快感の表明である。中国がこれを最後に核実験を凍結することを表明したため、やっと障害がなくなったわけだ。
 だが、少し待ってほしい。現在の日中関係は果たして良好に推移しているのか。無論そんなことはない。尖閣諸島に対する領海侵犯をしてまでの資源調査、日本の政治結社が民有地に建てたにすぎない灯台への理不尽な抗議、中国側の主張を代弁した香港住民による強行上陸問題はいったい何だろう。首相の靖国神社参拝問題に対する強圧は内政干渉以外の何物でもない。
 国際社会にも目を転じてみよう。日本はODA(政府開発援助)四原則でも「基本的人権及び自由の保障状況」を重視することにしている。王丹、魏京生両氏ら中国の人権擁護活動家はどんな目にあっているだろうか。主要国には自国の国益上、対中援助は日本にまかせておけばよいという打算があるが、内心では弱腰で何の原則も持たぬ日本に対する軽侮もあるだろう。
 そもそも池田外相は本紙とのインタビューで、「日中関係は日米関係と並んでもっとも重要だ」と答えている。本当に米国と中国は並列的な存在なのか。そう思っているとしたら、全く的外れである。いったい日本の安全はどの国によって保障されているのか。
 中国関係の外務官僚は円借款交渉に入ることで、「現在の問題が解決するわけではないが、関係をさらに悪化させないための環境づくりにはなる」と空しいことをいっている。この程度の認識と心構えなのである。
 外務省の対中外交というのは、いつも何かに怯え、譲歩を常とする。中国の開放政策を支援するのがアジアの安定につながるという言い分に、ひとつの理があることは否定しないが、少しは対中ODAを戦略的に使う工夫をしないと、国民の税金がムダになる。
 
 
 
 
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