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2002/11/16 読売新聞朝刊
[社説]中国共産党 「江院政」の色濃い胡錦濤新体制
 
 中国共産党の最高ポストである総書記に、胡錦濤・国家副主席が選ばれ、党指導部の世代交代が実現した。
 指導部は代わったが、少なくとも当面、内外政策に大きな変化はないといえよう。新指導部は江沢民時代同様、一党独裁体制下で経済の発展をめざす、いわゆる開発独裁型政治を続けるものとみられる。
 一九八九年六月の天安門事件直後から十三年間以上も総書記だった江沢民氏は、形のうえでは平の党員になった。だが、軍を握る党中央軍事委主席のポストは手放さなかった。
 しかも、江氏が唱えてきた「三つの代表」論は、今回の党大会で、党の指導思想として位置づけられた。党の最高指導部を構成する政治局常務委員九人の多くも、江氏に近い人物である。
 実態的には、江氏は引退したとはいえず、なお相当の実権と影響力を保持し続ける、とみてよい。胡氏が、名実ともに最高指導者となるには、一定の時間が必要だろう。
 共産党支配国家では、過去例外なく、指導ポストは終身制で、指導者は死亡もしくは失脚によって交代するのが常だった。今回は、平和的な交代が実現した。だが、依然として、国民にはわかりにくい密室での協議によるものだったことには変わりがない。
 江沢民時代は、改革・開放へと舵(かじ)を切ったトウ小平時代の延長として位置づけることができる。ソ連が解体し、東欧衛星諸国の体制が崩壊するという逆風の中、一党独裁の堅持で政治的安定を確保しながら、年平均9%を超える経済成長を実現してきた。
 六十歳前後の「第四世代」からなる胡錦濤指導部も、この江沢民路線を継承することになろう。
 当面の目標は、7%台の成長を続けて二〇一〇年の国内総生産(GDP)を二〇〇〇年の二倍に増やすことである。
 国民の選挙で信任されているわけではない中国共産党にとって、経済を発展させ、国民の生活を豊かにすることが、支配の正当性を確保する一つの重要な手段である。胡錦濤指導部には他に選択すべき路線がないともいえよう。
 新指導部は、格差と腐敗という、負の遺産も受け継いだ。それらはトウ小平時代から江沢民時代への遺産でもあったが、事態はますます深刻化している。
 しかも、市場経済化の進展とともに、中国社会は多元化、多層化している。
 現在の体制はいずれ壁にぶつかるとの見方が少なくない。胡錦濤指導部にとって、その時が最大の試練となろう。
 
 
 
 
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