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私はこう考える【中国について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1988/08/12 読売新聞朝刊
[社説]日中条約調印10周年に思う
 
 「共同声明でつり橋ができた。これ(条約調印)で鉄の橋になった。重い荷物も運べるよ」
 十年前のきょう十二日、衛星中継で送られてきた北京での日中平和友好条約調印の模様を見ながら、当時の福田首相は言った。
 たしかに、この鉄のかけ橋を通じて、この十年間に、日中間の貿易額は三倍に増え、昨年の人的往来も十年前の十倍に達した。
 言うまでもなく、両国間の不正常な状態に終止符を打った七二年の日中共同声明は条約ではない。中国側の要望もあって、両国間の基本関係を律する条約として、締結されたのが日中平和友好条約である。
 だが、条約締結交渉は難航した。厳しい中ソ対立のなかで、ソ連を覇権主義とする中国がいわゆる「反覇権条項」の明記を求め、全方位外交の日本がこれに抵抗したからだ。
 結局、交渉は、「この条約は、第三国との関係に関する各締約国の立場に影響を及ぼすものではない」とのいわゆる第三国条項を挿入することで決着した。
 日本側からすれば、普遍原則としての反覇権となったが、中国側は当時、この条約を反ソ戦略の一環としたかっただろう。事実、ソ連は反発したのだった。
 それから十年、中国も変わったし、国際環境も変化した。
 中国では、この十年に重ねあわせる形で、改革・開放が進行し、日中関係はその近代化路線に組み込んでとらえられることになる。対外的にも、八〇年代になると、独立・自主の全方位外交に転じる。
 中ソ関係は実務面で進展を見せ、ゴルバチョフ・ソ連外交の登場がこれを加速しつつある。カンボジア問題の行方によっては、中ソ首脳会談の開催、中ソ関係の完全正常化が展望される時代となった。
 反覇権条項は、日本側が考えたように、普遍原則化の道をたどってきた。最近、在京ソ連筋が反覇権条項はソ連に向けられたものでないとし、日中平和友好条約是認の態度を明らかにしたとも伝えられる。思惑はどこにあれ、感慨を覚えるのは当時の条約交渉当事者だけではあるまい。
 われわれは当時、ソ連がこの条約を反ソ同盟とするのは誤解だと書いた。今日、われわれはこの条約の存在意義を改めて、高く評価するし、この条約の順守が日中関係の増進、世界の安定に寄与すると考える。
 昨年発行された中国初の“外交白書”「中国外交概覧」は、日中関係について、「全般的に見て、主流は良いものであり、正常なものである」とした。しかし、その過程で光華寮問題、いわゆる日本の軍国主義傾向への懸念表明、歴史認識問題など、さまざまな摩擦が生じてきたのも事実である。
 われわれは日本の世界における存在感の高まりを意識して、過去の不幸な歴史を背景とする中国の地政学的対日感覚、台湾問題の重要性を忘れてはなるまい。同時に、情緒的な日中友好だけでなく、国際構造上の日中関係の位置を冷静に見る視座が必要だ。
 互いに自らの意思を明確に伝えあい、論議をつくして、個々の摩擦を解消し、大局良好の日中関係をさらに深めることが大事だ。それこそ、両国が日中平和友好条約の存在意義を高める道である。
 
 
 
 
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