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私はこう考える【中国について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2002/09/29 毎日新聞朝刊
[社説]日中国交30年 アジアに視野広げた協力を 歴史を鑑に已往を諫めず
 
 1972年9月29日、田中角栄首相と周恩来中国首相が日中共同声明に署名した。戦争状態に終止符が打たれ、国交正常化が宣言された。
 それから30年の歳月が過ぎた。若者は日中関係が不正常だった時代を知らない。出稼ぎの中国人労働者はどの町にもいる。中国の若者には、日本のキャラクター商品が人気だ。
 ヒト、モノ、カネの交流がこれほど活発なのに、世論調査では、日中双方とも相手に対する好感度が低い。なぜ「嫌中感情」「反日感情」を抱くのか。
 日中国交正常化は、国際政治地図を塗り替える大きな事件だった。鎖国の殻に閉じこもり毛沢東思想に熱中していた中国が、国際社会に扉を開いた。日本の経済協力、技術援助で上海の宝山製鉄所など本格的な近代化が始まった。
 中国にとって、日本との国交は日米安保条約の容認でもあった。在日米軍の存在を事実上認めたことで、米中関係も変化した。中国は、その後、トウ小平時代に改革・開放政策で高度経済成長が始まり、国際的な地位を飛躍的に高めた。日中正常化はそのスタート台の役割を果たした。
 正常化当時、中国国内では、共同声明で戦争賠償の請求権を放棄したことに猛烈な反発が起きた。毛沢東、周恩来という強力な指導者の威信と、「一握りの軍国主義者と、日本人民を区別する」という説得で、不満を抑え込んだ。友好ムードはなかった。
◇友好の非対称性
 反対に、日本では「一衣帯水」の言葉があふれ、空前の日中友好ブームにわいた。米ソ冷戦のなかで、中国との関係改善が日本の安全保障に有利だという外交戦略的判断が政府にあった。だが、国民の支持はそれを超えていた。
 戦争体験世代の日本の国民は、サンフランシスコ講和条約で始まった「戦後」に、主戦場の中国大陸が抜けていたことに釈然としない思いを抱いていた。侵略戦争に動員された贖罪(しょくざい)意識もあった。だから国交正常化で戦後の空白が埋まると、爆発的な中国ブームが起きたのである。
 「日中友好」は、日本と中国では非対称で始まった。日本人の対中好感度が下がり、対称的になったのは、日中が普通の国同士の関係になってきた証左だろう。一方的な思い入れを排し、偏見のない相互理解に基づく友好関係を築かなければならない。
 そのためには解決しておかなければならない障害がある。歴史認識問題である。
 国交30周年記念の目玉行事は、小泉純一郎首相の訪中による日中首脳会談であるべきだった。しかし、春の靖国神社参拝が原因で、実現しなかった。
 今月、北京で行われた記念行事には「ここで国会が開ける」ほど多数の国会議員が日本から参加した。江沢民国家主席ら中国の指導者とも会談した。橋本龍太郎元首相など首相の参拝を支持する「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」のメンバーもいたはずだ。江主席に首相参拝への理解を求めただろうか。日本の政治家だけが本音を語らず乾杯を重ねる空疎な友好をまだ続けている。
 今月初め、江主席はシンガポールのリー・クアンユー上級相、川口順子外相と相次いで会談した。リー上級相には、陶淵明の「帰去来の辞」の一節を引用し、中国の対米原則を紹介した。
 「已往(いおう)の諫む(いさむ)べからざるを悟り、来者の追うべきを知る」である。過ぎ去ったことは言い立ててもしようがない、未来に専念しようという趣旨だ。中国は朝鮮半島で米国と戦火を交え、天安門事件で人権をめぐり激しく対立した。そんな過去は語らず未来を語るという。
 川口外相には「明鏡は形を照らすゆえん、古事は今を照らすゆえん」(鏡はものを映す。過去の出来事は現代を映し出す)ということわざを引用し、靖国参拝に不満を表明した。過去志向である。未来志向も歴史を鑑(かがみ)とするのも、どちらも正しいが、バランスが必要だ。
 日中間の感情的な悪化が目立つようになったのは、1998年の江主席訪日のさい、中国側が日中戦争についての謝罪文にこだわってからだ。中国は「已往を諫め」ようとした。
 小泉首相は、靖国公式参拝を自民党総裁選の公約に掲げた。日中共同声明が、軍国主義者と人民を区別することで成立しているという歴史に暗かった。日中双方が、周首相の「小異を残して大同を求める精神で合意した」ということばを改めて想起すべきだ。
◇目指すは広い「大同」
 中国の国内総生産(GDP)は、イタリアを抜き世界第6位の規模となった。経済力が高まれば、工業製品の違法コピーなど経済摩擦が高まるのは必然の流れである。経済力にともなって軍事大国の道を目指すのではないかと周辺国が疑うのも避けられない。
 中国は、東南アジア諸国連合(ASEAN)に自由貿易圏(FTA)を作ろうと呼びかけた。周辺国との摩擦や対立を解消する「大同」の場を作ろうという構想は、日本の一歩先を行っている。しかし21世紀のアジアは、中国だけが核ではない。人口でもGDPでもインドが台頭している。
 中国とインドの成長は、安全保障上の緊張を高める危険性もはらんでいる。中印両国が核兵器開発を競わないよう、東アジアを超えたアジア全域に視野を広げた対話の場を作ることが重要になる。
 日本が朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と国交を正常化すれば、朝鮮半島の安定で、中国や米国、韓国だけでなく、ロシアを含めた多国間協力が必要だ。小は対中政府開発援助(ODA)の見直しから、全アジアFTA構想まで、これからの日中関係は、アジア全域の中に位置づけなければならない。
 
 
 
 
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