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こども読書推進賞
選考委員会委員長挨拶
 
 現在までのところ、人間の精神を表現するには、数学を含めた文字言語が最も完成度の高い手段と言えましょう。人間は数千年かけて文字を磨き上げ文字を書き残してきました。その結果文字によって私たちは異国の人の心もまた遠い昔の人の心も知ることが出来ます。文字で書かれた文書の集積は、人類の文化と文明の核心と言っても良いでしょう。こういう文書を読むことは、人間の文化の総体を学ぶことであり、現代ではこれらの文書は書物という形になっていることを思えば、読書こそが人類の過去を学び未来への展望を拓く道であることは万人の認めることでありましょう。
 ヨーロッパ諸国では、教養という単語は耕されるという意味を持っていますが、書物は人の心を耕す鋤に例えられるでしょう。映像もまた鋤の一種ではありますが、書物と違って映像は、それを見ている人の心が関与していなくとも時の経過とともに展開して行きます。鋤の例えを使うなら、書物を読むと言うことは、読み手がしっかりと鋤の柄を掴んで堅い土を掘り起こすようなものですが、映像は、馬が勝手に鋤をひきずって行き、人はそれを眺めているのと似ています。勿論それでも耕される土地もあるのですが、堅い土地、耕されていない人の心では、馬に引かれた鋤は地表を浅く削っていくだけということになりましょう。本当に自分の心を深く掘り起こして、豊かな耕地にしようとするなら、人は書物と力を合わせて、自分の荒れて堅い土を掘り起こして行かねばなりません。近年世界がますます複雑になり、新しい学問の分野が開拓されてゆこうとする時代に、未来を担う子供がより多くの時間を読書に割き、その心をより深く耕してそこに作物を植え、豊かな実りを期待出来るようになって欲しいものです。社会貢献支援財団の読書推進運動も、日本の未来を担う子供に読書の機会を広げようとする意図に基づくものでありましょう。
 子供が書物に親しむ刺激となるものとしては三つの力があると言えます。一つは親、或いは家庭の影響力、次に学校の教育、第三には社会の働きかけ。これらの力によって子供は読書の楽しさと尊さを知り、やがては人に勧められることなく、自発的また積極的に読書を始めるようになります。今年は、この三つの運動を代表するものとして、次の二団体と一人の個人に賞を贈ることにいたしました。子供を書物に親しませる親の運動としては、東京の桃園第三小学校のPTAサークルの親子読書会、学校単位の読書指導運動としては岡山の野馳小学校、社会からの子供読書運動の代表としては、沖縄の川平文庫を開設された川平栄子さんです。これらの団体と個人は、いずれも個性的な発想と手段、そして強い意欲と熱意をもって子供の読書欲を刺激して、自立した読書人にしようとするもので、審査に関係した者達に深い感動を与えました。受賞者各位には、これからも一層深い愛情と使命感によって子供たちの指導にあたって頂きたいと念願いたすとともに、日本各地にこのような意欲に溢れた運動が湧き起こることを期待したいと思います。
 
2004年11月15日
選考委員会代表 
 
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