日本財団 図書館


1.事前調査博物館、訪問日
 本事前調査は2005年度に実施予定の「博物館体験事業の先駆的モデル調査」事業で訪問予定の博物館等を事前調査し、より有意義な事業とするために2005年2月21日〜26日に実施した。
(1)マレーシア国立博物館(クアラルンプール、2005年2月22日)
(2)ペトロサイエンス(クアラルンプール、2005年2月22日)
(3)マレーシア国立歴史博物館(クアラルンプール、2005年2月22日)
(4)マラッカ海洋博物館(マラッカ、2005年2月23日)
(5)マラッカの史跡について(マラッカ、2005年2月24日)
(6)マラッカ歴史博物館(マラッカ、2005年2月24日)
(7)シンガポール文明博物館(シンガポール、2005年2月25日)
(8)PSAシンガポールコンテナターミナル(シンガポール、2005年2月25日)
 
(財)日本海事広報協会理事長 吉田公一
(財)日本海事広報協会事業部付課長 石川慶二
(財)松浦史料博物館学芸員 久家孝史
 
応接者 担当:Curator Public Relations & Marketing
氏名:JANET TEE SIEW MOOI
・見学概要
 1963年に開館し、おもにマレーシアの文化や民俗を中心とした展示が中心だが、別棟に水中考古をテーマとした海事専門の博物館があり、スケジュールの都合で今回はここを中心に見学した。
 展示内容はマラッカ海峡や南シナ海沿岸で沈んだ多くの船から引き揚げられた遺物が中心。とくに19世紀に沈んだ船からの陶製品、銀製品などが多い。これはヨーロッパ向けの陶製品を積み込んだ中国船が多数沈んでいるため。訪問時にはちょうど欧州からの見学者に対して、沈没船からの引き揚げに従事した考古学者(兼ダイバー)による展示解説が行われていた。また、一画では引き揚げられた遺物を販売しているコーナーもあった。
 これは同じようなものが数多く発掘されたこともあり、その一部を来館者にも販売し歴史的遺物を実際に手にすることで、より興味をもってもらうことを目的に販売しているようである。値段も小さい壺のRM50(1,500円)から大きいプレートのRM3500(105,000円)までと多種である。
 施設内には来館者が利用できる資料や図書が充実した図書館があるほか、施設前には古い蒸気機関車2両、ビンテージカー、河川の浚渫装置などの実物が展示されており、マレーシアの発展史を伺い知ることができる。
・博物館の運営について
 当博物館はマレーシアの博物館の中心的な存在のようで、マレーシアの博物館の運営や組織について説明を受けた。
 マレーシアの博物館の運営は3つのタイプに分かれる。
(1)連邦政府 (2)州政府 (3)企業・個人(銀行や大学等)
 この連邦政府の中にDEPARTMENT OF MUSEUMS AND ANTIQUITESという組織があり、ここの職員が国立関連10博物館(芸術、文化、民俗等)については統括しているとのこと。日本と同様にマレーシア政府の財政も厳しいようで、博物館関連の予算は前年比10%のカットを余儀なくされているとのこと。特別な展示等を行う場合は個人的(企業等)な支援等を求めるとのこと。当館も5年前までは入館料が無料だったが現在は大人RM2である。
 現在一番の悩みは何か? の質問に、「人材の育成」をあげた。
 連邦政府関連の博物館は定年が56歳で数年のうちに退職者がかなり出るとのこと。これを踏まえて、今後500名の人材を採用する予定だが、このうち300名を今後3年間で採用し十分なトレーニングをしたうえで、10館に派遣する予定とのこと。ちなみに当館には40名の職員がいる。
・その他
 日本との関連では国際交流基金により日本の博物館への見学や交流があり、また、JICA関連の展示会も開催したこともある。
 
応接者 担当:Visitor Services Department
氏名:PUTERAZLINDA BT MEGAT AHMAD TAJUDDIN
担当:Group Visit Supervisor
氏名:AZRILATIFF
・見学概要
 マレーシア国営石油会社(ペトロリアム・ナショナル)が運営するサイエンスミュージアム。同会社が所有し、マレーシアの観光のスポットともなっているKLCCツインタワーの4階にある。
 国民に国の重要産業である石油について「石油とは何か、どこから来たのか、何に使われているのか」などを主テーマに、理解していただき身近に感じてもらうとともに、将来優秀な人材の確保につながるであろうことも含めて開館している。
 恐竜がいた先史時代から現在の石油産業の役割、そして石油がどう人々の暮らしに役立っているのかを、ただ文字や資料の展示解説だけではなく、来館者自身がさまざまな体験をしながら体得できるシステム。
 入口でカート(定員5人)に乗せられ、真っ暗な中を軌道にそって急上昇していく。約5分で見学コースの入口駅につき、そこからは歩いて見学していく。恐竜がいた先史時代の再現や見学コースの要所要所では石油や関連化学(科学)に関する実験コーナー、そしてミニステージでのサイエンスショーなど、来館者を飽きさせずにコースを巡らせるようにしている。また、海底油田の掘削リグの一部を実物再現しており、スタッフが実際の現場と同じ状況を再現し作業を解説するほか、ヘリコプターでの掘削リグへのフライトシュミレーション体験(右)もある。体験、実験が中心のため豊富な器具類があり、すべてにチャレンジしていると半日以上はかかると思われる。
 また、ファンゾーン(別料金RM6)というのが併設されており、おもに子供を対象とした遊具が多数おいてある。この遊具も単に遊びというだけではなく、風を利用して遊ぶもの、石油からできたもの、ものの力を利用して遊ぶものなど実さまざまである。ここにも要所要所にスタッフを配置し、遊び方や石油との関連について解説している。器具は飽きられないように半年〜1年ごとにリニューアルする。
 最後は再びカートに乗り急降下して出口へと向かう。
・学校教育との連携
 入場者数は平日は約200人、週末は1600人だが、学校が休みになると大幅に増えるためあらかじめ入場制限などの調整をする。
 学校教育との関連では、最近教育省の通達によりサイエンスでの体験見学を通常の授業の範囲とすることになった。学校との連携が強くなったことで、協調体制がとれるようになり、施設の一部をリニューアルする場合などは、学校の先生からの意見を聞いたり、試験的に生徒に体験してもらうなどの方法もとっている。また、機器の一部をもって直接学校へ出向き、授業の中で解説する場合もある。各学校へのPRとしてポスターなどのほか、施設内の様子をビデオに収め、配布している。
・スタッフ体制
 スタッフは専門スタッフ100名、パートスタッフのほかボランティアスタッフが100名以上待機しており、1日あたり20名が従事している。
 専門スタッフは実験コーナーやサイエンスショーなど専門知識が必要なため週4〜5回の専門講座を開講して教育を受ける。また、パートスタッフへは朝のミーティングの際などに必要な知識については解説し、共有化を図っている。
 訪問時にはガラス張りの講座室で専門スタッフが科学の講座を受講中であった。
 
応接者 担当:Director
氏名:MOHD AZMI BIN MOHD YUSOF
・見学概要
 1880年に銀行として建てられた建物を1990年に博物館として改装し、96年より開館した。第二次大戦中には日本軍が接収していた。展示室は3階まであり20室に分かれる。マレーシアにかかわる歴史的遺産を主な州別や時代ごとに実物資料を中心に展示している。とくに中世から近代においては海外からの進攻もあり、ポルトガル、オランダ、英国そして日本(軍)のコーナーも設けられている。また、イスラム、ヒンズーなどについての解説も充実している。
 特にサルタンにかかわるものも多く、その歴史についてもマラッカ、サラワク、サバといった特徴のあるものついては多くの資料をもとに解説している。
・運営等について
 当館が創設された大きな理由は自国の過去を知り、歴史を知ることは国を知り国を愛することになるといった観点から。しかし、残念ながら特に若者を中心に博物館への来館が少ないとのこと。入館者の80%が外国人で、マレーシア人の入館者が少ないとのことで、今後開館10周年に向け新しい展開を検討中とのこと。
 館長との歓談においては、日本の博物館が直面している、入館者数の伸び悩みや学校教育との連携などで話の内容が深まった。
 学校教育との連携については、積極的に学校へプロモートはするが、生徒たちは博物館はただ古いものが置いてあるだけといった印象をもっているため、学校側や生徒に対してさまざまな提案をしていくとのことである。
 日本ではリタイアした人たちの中で、博物館のボランティアとして活躍している人たちもかなりいると説明したが、マレーシアでは無償でそうした行為をする人はいないとのこと。
 日本での文化財保護について説明したところ、日本は法律、開発を含めて非常にいい状況にあり、文化財を持つ個人もそのことに対して誇りをもっているようだが、残念ながらマレーシアにはそうした制度は十分ではない、と語った。
・その他
 国立博物館を創設する際に特に手本したものはないが、研修についてはイギリスで受けているとのこと。日本の博物館は技術的にも優れており、今後博物館が市民により親しまれるためにはどうすればよいか、といったことも含めて交流できればと語った。
 
応対者 担当:MELAKA MUSEUMS CORPORATION
氏名:DR BADRIYAH BTE SALLE
・見学概要
 河口からマラッカ川を500mほど遡った岸辺に建ち、15世紀に沈んだポルトガルの復元帆船が陸上展示してあり、目立つ存在である。見学はこの帆船内と隣接する建物内部になる。
 帆船内部は3層からなり、14、5世紀のマラッカの交易の様子やマラッカの町並みが人形模型や絵画で解説されている。また、マラッカに交易のために寄港したり近海で活躍したマレー船、中国船などの模型も展示してある。
 最下層はマラッカの歴史、とくにポルトガル、オランダ、英国などによる進攻の歴史順に当時の様子を描いた絵画や船舶模型を用いて紹介している。
 隣接するマリタイム博物館の1階は18世紀〜現代まで、近海を航海していた船模型や魚村風景を再現。また、航海・通信計器、ランタンなどの展示もある。
 WWFのコーナーも広くとってあり、絶滅の危機にある動植物や、子どもたちを対象にした海洋環境保全にかかわる解説展示もある。
 なお、マレーシアには海事博物館が他に2つある。一つはトレガンヌ、もう一つはコタキナバルにあり、トレガンヌ(東海岸)の海事博物館は非常に充実しているとのこと。
・運営について
 マラッカの中でも一番人気のある博物館で、来館者は平均月に8000人、学校が休みの時は月15000人にもなるとのこと。
 マラッカ州には17の博物館があり、運営はMALAKA MUSEUMS CORPORATIONがあたっている。今回応対していただいたDR BADRIYAH SALLE もここの職員である。当日は同氏のほか、カメラマンも同行してわれわれの見学の様子をカメラに収めていた。したがって館長職をこうした職員が兼務していて、実際の現場は学芸員が取り仕切っていると思われる。マラッカ海洋博物館には学芸員1名とアシスタント学芸員が数名いる。
・その他
 見学後約1時間、近所のレストランで軽い食事とお茶に招待された。ここでは日本の博物館の設立別や文化財の管理についての情報交換や展示資料の貸し借り(たとえば伝統衣装)などができないか、などの具体的な内容の話も出た。とくに企画展を開催する場合に、内容がよければ州政府から予算がもらえるので協調してできるとのこと。
 マラッカ(マレーシア)の最近の子供たちは海への関心が薄れているとのこと。子供たちの目を海に向けるために、マラッカ州では沈没船をテーマに興味をわかせるようにしている。ダイバーや考古学者を招いての講演会なども企画中とのこと。
 沈没船を引き揚げるには多額の費用がかかるのではないかとの質問に、「サルベージには確かに費用がかかる。しかし、財宝の引き揚げということよりも、引き揚げた歴史的に貴重な遺物をとおして外国と自国との関連や歴史を知ることは大切なこと」と語った。







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