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1. 中国福建省博物館体験見学会実施について
 古来より日本と中国は貿易や文化の交流など長い歴史をもっている。とくに厦門市や福州市を中心とする福建省は、空海や鄭成功などの人物、媽祖など安全航海にかかわる信仰、そして海のシルクロード関連など日本とは密接な関係にあり、これらを研究している研究者がいるほか、貴重な資料を保存公開しているところも多い。
 一方、日本でもこうした歴史的事象を研究し、保存公開などにより情報発信している博物館は多々あり、これら博物館が中国の関連博物館と相互に交流し、情報交換をすることは、今後の博物館活動がより有意義になるとともに、一般市民に対して更なるきめ細かい情報の提供となる。
 こうした観点から海外の海や船にかかわる博物館の展示や資料の収集等の現状を見学し、関係者との交流を深めることを目的に、2004年6月29日〜7月2日まで、海の博物館館長石原義剛氏を団長に、日本の主に海や船にかかわる博物館及び関係者合わせて21人が中国福建省にある博物館等を訪問した。訪問先は鄭成功記念館、泉州海外交通史博物館、泉州湾古船陳列館、鄭和史迹陳列館媽祖及び琉球関連施設などで、日本とは関連の深い施設であり、ともに歴史的に貴重な資料の保存公開に力を入れているところである。
 
日程(2004年6月29日〜7月2日:3泊4日)
 6月29日(火)
07:40 成田空港集合(結団式)
09:30 成田空港発(JL607)
12:40 厦門空港着 入国手続き
13:10 専用バスで同空港発
13:30 厦門市内コロンス島渡船場着、乗船
13:50 コロンス島着、鄭成功記念館及び日光岩見学
16:40 コロンス島発、厦門市内をへて泉州市へ
19:50 泉州市着、夕食会へ(泉州海外交通史博物館主催)、泉州市泊
 
 6月30日(水)
08:30 ホテル発
08:40 開元寺、泉州湾古船陳列館見学
10:00 海外交通史博物館見学
11:30 昼食
12:30 市内発
15:30 田市媽祖誕生の地見学
16:15 媽祖誕生の地発
18:40 福州市着、晩餐会へ(福州市主催)、福州市泊
 
 7月1日(木)
08:00 ホテル発
08:30 琉球墓、琉球館見学
10:00 福州市博物館見学
12:20 長楽市着、昼食会へ(長楽市主催)
13:30 鄭和史迹記念館見学
14:20 長楽市発
18:30 厦門市着(泊)
 
 7月2日(金)
08:30 ホテル発
09:00 南普陀寺、胡里山砲台見学
11:30 昼食(解団式)
12:45 厦門空港着 出国手続き
14:30 厦門空港発(JL608)
19:00 成田空港着 入国後解散
 
・中国国内は専用バスで移動。
 
(敬称略)
 
所属
氏名
みちのく北方漁船博物館
西村美香
石巻文化センター
成田 暢
宮城県慶長使節船ミュージアム
渡邊直樹
千葉県文化財センター南部調査事務所
高田 博
国立歴史民俗博物館
松金ゆうこ
船の科学館
飯沼一雄
東京みなと館
福住久雄
横浜開港資料館
松本洋幸
海の博物館
石原義剛
みくに龍翔館
上出純宏
呉海事博物館推進室
齋藤義朗
香川県歴史博物館
小野順子
愛媛県歴史文化博物館
安永純子
松浦史料博物館
久家孝史
加世田市文化財センター
上東克彦
坊津歴史資料センター「輝津館」
橋口 亘
与那城町海の文化資料館
前田一舟
武蔵野美術大学造形学部
廖 赤陽
(社)東京都港湾振興協会
三河 清
法政大学大学院
宇都宮美生
(財)日本海事広報協会
石川慶二
 
(1)鄭成功記念館(厦門市)
・訪問日 2004年6月29日
・博物館対応者
副館長 何丙仲
文博館員 黄守田
随行者 厦門大学南洋研究院博士 聶徳
 
 日本からの直行便が入っている厦門市は福建省の南東部にあり、1980年に経済特区に指定され人口は約120万人。中心であるアモイ島だけでも約40万人が生活している。活気があり高層オフィスビルやマンションが目立った。
 鄭成功記念館のある鼓浪島(コロンス島)は、幅約700mの鷺江を隔ててアモイ島とはフェリーが5分で結ばれている。かつては共同租界として開放された島で、各国の領事館や別荘も多く、島の面積は約1.8km2と小さいが、現在も観光施設のほか別荘が点在している。島内は車が走っておらず電動カートで移動するといった環境対策にも力を入れている。
 鄭成功記念館は同島最高地点(92m)でもあり観光の目玉となっている日光岩に行く手前にある。そもそもコロンス島と鄭成功のかかわりは明代末期にこの島に兵を駐屯させ訓練したことにある。
 長崎で日本人の母と中国人の父との間に生まれ、抗清復明とオランダの支配から台湾の奪取に力を注ぎ、国姓爺合戦のモデルとなった鄭成功の生涯については日本でも知れ渡っている。
 鄭成功記念館は何丙仲副館長によると鄭成功にかかわる研究機関であり、また、こうした研究内容を展示するとともに同時代の日本、東南アジア、台湾、厦門の研究や資料の収集を行っている収蔵機関であり、博物館と遺跡が一体化した施設であると。また、5年ごとに鄭成功にかかわる国際シンポジウムを開いており、日本からの研究者も参加しているとのことである。開館してから42年を経過しており、現在、2005年を目処に展示内容を更新するための準備中である。
 本館は鄭成功にかかわる資料が中心だが、もう一つ大きなテーマとしては成功の父芝龍(しりゅう)の行った海上貿易の研究である。
 館内は3階建で鄭成功の生い立ちから生涯、父芝龍の海上貿易を中心とした活動、清朝に屈服した父との決別、清朝への抵抗と南京北伐、成功を祖国の英雄として高めたオランダ軍との戦い、台湾統治などの状況をコーナー別に主に文書を中心に紹介している。コーナーの最初には「抗清形勢図」「海外通商図」「北伐南京図」などのパネルが掲げられている。また、鄭成功が父親に対して清朝に屈しないよう説得する手紙など、秘められた資料のほか、清代末期に作られたジャンク模型が2艇展示されている。
 展示は文書や資料が中心でいたって地味なつくり、派手さはないが他の見学者もあり、鄭成功の偉業が偲ばれた。
 何副館長はわれわれを迎えるにあたり「厦門の船は明代から琉球などを通じて日本に渡航し、交流を図っている。今回の来館を機にお互いの研究の交流を通じて、中国明代、日本の江戸時代の海上貿易の研究の新たなる発展が期待できる」と述べた。
 記念館の運営は厦門市だが、日光岩への観光料として90元が必要でありこの一部も運営費として投入されているとのことである。ちなみにコロンス島へ渡るフェリーの年間利用者数は約1500万人とのこと。(ただしこのうち島民居住者の利用は約500万人)。
 記念館訪問後は島内最高峰(92m)の日光岩に登り、頂上からは緑豊かな島と鷺江を挟んで対岸の厦門の高層ビル群を見ることができた。
 なお、同館見学の際には厦門大学南洋研究院聶徳博士に随行及び説明していただいた。
 
・訪問日 2004年6月30日
・博物館対応者 陳延抗(泉州海外交通史博物館研究員、高級工程師)
 泉州市は福建省東南沿岸部に位置する港湾都市で、海のシルクロードの起点として知られている。泉州湾古船陳列館は686年に創建された開元寺境内にある。海外交通史博物館とは相互関連施設として運営されており、解説なども同博物館の方が行っている。
 陳列館が開設されたのは1959年。館内は2階に分かれ、目玉は1974年に泉州湾から発掘された南宋代(13世紀頃)の巨大貿易船の下部の残存復元展示である。
 展示船体は全長約24m、幅約9mで、当時の船体の下位部分であり、1階2階フロアーを吹き抜けにした屋内展示は、館内の静けさと相まって迫力がある。残存船体から当時の船は全長34.5m、幅11m、排水量約400t、積載貨物量約200tと推察された。船層は3層で船倉は13の隔壁に分かれており、外板が3重張りになっている部分もよく分かる。
 2階展示室には同時に発掘された香料、薬、銅銭、陶磁器、船具なども展示されており、当時、インド、アフリカ、東南アジアなどとの交易の様子が分かる。また、発掘された貿易船の全体を復元した模型も展示されている。この模型の船首上半分は鋭角ではなく、平板になっているのは水鳥の胸をイメージしたものではないかともいわれている。







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