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パラサイト・シングル、フリーターの不良債権化
 現代の社会環境のつらさは、20年前の比ではない。能力や魅力がないものにとっては、「努力しても空しい」と思える状況が生まれている。そのギャップに耐えられない人は、とりあえず社会に出ることを先延ばしにする。その日本的形態が、私のいう「パラサイト・シングル」や「フリーター」なのである。
 この両者に共通する特徴は、リスクフルな現実からの逃避という点である。パラサイト・シングルは独身主義者ではない。結婚希望割合は90%である。しかし、結婚して家庭を持ったりすれば、経済的に自立しなければならず、家事も自分たちでやらなくてはならない。フリーターは、どんな定職でもいいから就きたいと思うわけではない。学校歴に見合った理想的な職に就くまでアルバイトをしていたほうがましという意識が、フリーターをフリーターとして定着させている。好きでもない仕事で苦労するなら「責任が少ない」「いつでも辞められる」という理由でアルバイトを選ぶのだ。
 しかし、「理想の結婚相手が見つかるまで」「自分に合った仕事が見つかるまで」という夢を描いても、それに向かって努力している人は多くない。また、夢を持ち続けることができるのは、親も一緒に夢をみているからである。教育投資したのは親である。子どもが妥協してしまえば、子育てに費やしてきたエネルギーが無駄になると考え、子どもの夢の応援のため生活費を出したり専門学校や海外留学に行く費用を出さざるを得ないのだ。
 だが、理想の結婚相手もこの先見つかりそうもない、理想的な仕事にももう一生就けそうもないと気が付いたとき、彼らはどうなるだろうか。彼らを支えていた親も亡くなったり、中高年になったフリーターはアルバイトでさえ雇ってもらえなくなる。リスクを先送りしているうちに、深刻なリスクに陥る若者が増える。
 この状況を、パラサイト・シングルやフリーターの不良債権化と呼ぶことができよう。国民年金の未納率は40%だが、その多くは不安定就労の若者である。彼らを放置すれば貧困化し、社会の不安定要因となる。かといって、社会福祉の対象にすればその費用は莫大なものになるだろう。
 
企業が若年者の習熟実感に不満を持つ能力
(厚生労働省「若年者の就職能力に関する実態調査」(2003年))
 
企業の正社員比率の変化
 
個人的対処の公共的支援
 では、何をすればよいか。私は、リスク化や二極化に耐えうる個人を、公共的支援によって作り出せるかどうかが、今後の日本社会の活性化の鍵となると信じている。能力をつけたくても資力のないものには、様々な形での能力開発の機会を、そして、努力したらそれだけ報われることが実感できる仕組みを作ることである。「機会だけ与えて結果は知りませんよ」というシステムが多くの若者を落胆させている。学校システム、職業訓練システムでは、これくらいの努力をしたら卒業、もしくは、資格をとれば、これくらいの仕事につける、収入が得られるという保障をつけたメカニズムをつくるべきである。
 そして、自分の能力に比べて過大な夢をもっているために、職業に就けない人々への対策をとらなければならない。そのため、過大な期待をクールダウンさせる「職業カウンセリング」をシステム化する必要がある。フリーターは過大な期待を抱かざるを得ない状況に追い込まれているからといって、「諦めろ」と直接言ったのでは、いままで行ってきた努力を無にしろ、というのに等しい。それゆえカウンセリングなどを導入して、自分の能力といままでしてきた努力と期待との調整を行い、納得して諦めさせて転進させることが必要である。これは、フリーターに対してだけでなく、学校教育での導入が望まれる。
 アメリカでは、学校教育から職業レベルまで、カウンセリングやコンサルティング制度が充実しているのでニューエコノミーによる職の二極化が生じても、夢見るフリーターの大量発生といった問題が起きないのだ。
 次に、「コミュニケーション能力」を考えたい。これは、家族関係だけでなく、職業や公的生活においても必要な能力である。IQに対応して、EQ(emotion quality)と名付けた人もいる。日本では、学校教育をはじめとして、コミュニケーション能力を公的に学習する場がない。現在のように、就職にも、家族関係の形成・維持にもコミュニケーション能力が必要になっている時代には、コミュニケーション能力の格差(つまり魅力の格差)が生活していく上で大きな意味を持ってくる。この能力があれば、不幸な家族解体が防げる。そのため、公的にコミュニケーション能力をつけることを支援する必要がある。
 これらの公的支援は、政府、自治体、企業などによってすでに行われているものもある。バラバラに行われている対策を統合して考える必要がある。総合的なビジョンの下に、さまざまな対策を位置付けてこそ、効果的なものになるのだ。そして、若者にも「逆年金」制度ができないだろうか。世代間の助け合いを最も必要としているのは若者である。これは、自活できるようになるまでお金を貸し出し、後で返済させる制度である。これくらいインパクトがある対策を、打ち出す位の社会的決意がなければ、日本社会の不安定さは深刻度を増すにちがいない。
 
 
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