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IV アジアを通して「九州」を考える
●国際関係から見た九州経済の在り方
 今までお話してきましたように、私のような限られた範囲でお手伝いしているだけでも、いろんな動きがございます。中国と日本の関係、もしかしたら皆様のお考えと逆の状況もあったかもしれません。そういうことが少しずつ展開している中で、九州はアジアに向かってどうあればいいのかということを皆様方と考えていきたいと思います。
 今まで九州はアジアに近い。近いがゆえにいろんな産業が、(言い方が語弊がありますけれど)打撃を被ってきた。これは日本全体にもいえますが、いろんな分野でアジアの安くて良いものに非常に押されてきたという中で、じゃあ押されっぱなしでいいのか?塀を高くすることで守りっぱなしでいいのかというようなことを考えた時に、多くの大企業を中心とする昨今の動きを見ますと、やはり攻めている企業には勢いがあります。それが地域でも応用できないかと考えるわけです。アジアに近いからこそ九州はメリットなんだということを、これから本気で行動に移していく時代なのかなということです。
 FTAやWTOなどを含めて九州は否応なく、東アジアのネットワークの中にすでに組み込まれている。特に、この物流というものが激しい動きをしている、その最前線に皆様方はおられるということです。
 
●伝わらない未来ビジョン・アジア戦略への想い
 私がお手伝いをしてずっと疑問に思っていることがあります。国や自治体などが、様々なレポートや報告書の中に、アジアとの協力とか、ネットワーク構築などを盛んに書いてある訳ですが、実際、一体誰がそれを実行しているのか、どうしたいのかということが本当に我々に伝わっているんだろうかと思うことがあります。
 誰がそれをやるんだ、誰に対して訴えているんだ、何をやるんだというところに、「アジアとのゲートウェイ」「ハブ」「交流拠点」「共生」という言葉が沢山並ぶんですけれども、いまひとつ、私もお手伝いをする立場でどうお手伝いしていいのか、よくわからない。一体、それが具体的にどういう行動に結びついて、どういうふうに結果が評価されているのかということを、疑問に思うことが多いわけです。
 
●九州の港湾振興策を考える
 そういう中で、これまでも、東京、横浜、舞鶴のポートセールスを台湾、中国でお手伝いしてきました。
 80年代のポートセールスはどちらかというと、ホテルで会議をして、スライドを見せて、資料を配って、お食事して終わることが多かったんですが、いろいろ経験も積み、人脈も増えたということで、効果的な、例えば荷主さんやいろんな産業界とジョイントしたりとセールスも非常に多角化したものになってきています。
 それでも、やっぱり年間1、2日イベントをしているだけで、むしろ残りの364日の方をどういうふうにセールスしているのでしょうか?
 港湾振興のためには、施設建設とともに、荷主対策ということが、車の両輪ということであり、むしろ私は荷主対策のお手伝いをすることで結果的に九州の港や空港が、活性化していくという過渡期にあると考えています。
 
図22 九州の港湾振興策を考える
 
 今日はたまたま野菜、果物、水産品のお話をしましたが、これから花とか木材だとか、あるいはスクラップになった二次製品とか中古品、いろいろな制約はありますが、様々なモノが海を越えて国際分業がますます密になってくるということでございます。
 一方では外からみますと、どうしても九州というレベル、これが大切になってくる。各県、各市、各商工会という単位でお手伝いしていて、どうしても私も限界を感じるところもあります。たとえば水産品でも、食品でも、北海道にかなわない。香港でも台湾でも、北海道は雪があるとか、カニがあるとか温泉があるとか、いろんな好条件があるんですけれども、やっぱり道レベルの規模で、セールスが出来るというのは、ひとつの理想でもあります。
 ただ、九州の場合は各県がそれに匹敵するだけの実力を十分に持っています。またそれだけのインフラもあります。もちろん理想論を言えば九州が一体化するということなんでしょうけれども、しかし、むしろヨーロッパのように個性を打ち出しながら、各々がどんどん対応するというアプローチこそふさわしいんじゃないかと考えています。
 
●これから九州で何が起こるのか
 これまで私の直近の状況をご紹介したつもりですが、これらを踏まえてこれから九州でどういうことが起きるのかを考えてみますと、これまで国際ビジネスというのは、専門の貿易商社とか大メーカーの舞台だったのが、九州の地場の中小企業、サービス業、ラーメン屋さんからエステ、個人も含めていろんな方々がアジアにアプローチするようになりました。もちろんみんなが成功はしていない。失敗するのが6〜7割というような状態の中ですが、様々な意味でアプローチが始まっています。
 それともうひとつ日本から出て行かなくても、海外の方から九州にやってくるのです。
 そういう意味で国際ビジネスが海外に行く、海外からも来るという事になってくるわけであります。
 私、いつも企業のコンサルをしていると、「向こうで得た利益をこちらにきちんと送金できますか」というのが、たいてい一番最初のお悩みですけど、「それは法律の範囲で大丈夫ですよ」といっても、実際、成功した会社は利益を再投資に回します。あるいは成功しだすと中国に根づく、現地に根づく企業づくりというふうに方針をほぼ変えられます。
 海外で儲けたものを日本にもってくるとか、日本を中心にするという考え方がどんどん変わりつつあります。中国は中国で完結するような、いわば第2の創業をするという企業が中小企業にも出てきています。
 
講演中の田中講師
 
 そういう中で、特定の地域とか日本人だけとこだわる業界とか企業、あるいは自治体もそうなんですけれども、日本人のみというサービスでは今や立ち行かなくなります。そういうことにこだわっている所ほど、どんどん時代とズレが生じているということを感じています。行政サービスにしたって海外の人達の生活環境までフォローするということは普通に九州でも行われています。
 私が昨日までやっていた上海での仕事は電力関係の、いわゆる環境保護でした。通訳していまして、今までは日本が技術が進んでいて、中国が遅れていましたから、中国のレベルに通訳のレベルを合わせておけば上手くいったんですけれど、今回、環境保護、SOx、NOx、CDMクレジットとか原発とか、ダイオキシンが出ないような高炉の構造などを通訳しなくてはならなくなり、自分の単語能力、理解能力が追いついていかない。勉強しなきゃいけないということを痛感している訳です。それだけ中国のレベルが上がったんですね。
 中国は30代、40代の留学組とか、大学出の人達の知識のレベルは非常に高いものがあります。こういう人達とは、日本語で話ができる状況になってきてるということを通訳の現場でもコーディネートの現場でも感じるわけです。
 そういう意味で中国が追いついてくるとか、日本が追いつかれないようにするためにもっと引き離すということではなくて、大企業ほど中国の人達と一緒に新しいものを作っていこうという考え方になっています。物流の分野でも事業の分野でも多分同じだろうと思います。
 先に行ってるとか、後から来ている、追いつかれる、真似される、もちろんそれはあります。いろんな意味で変化が起こり始めているのです。中国は20年遅れている、20年前のことを応用すればいいというのは確かにあるんですけれども、先程の環境問題とか、自動車やパソコンのリサイクルとか、そういうものは日本と同じスピードか、あるいは日本よりも深刻な問題として社会問題化しているわけです。今の日本の悩みが規模を凄く大きくして中国で起こっているというわけですから、この両方の視点が必要になってきているのかなということを最近感じます。
 そういう意味で日本の企業が中国でモノを作る時に日本から部材調達して、保税で加工してまた再輸出するということから、できるだけ中国で調達するようにどんどん変化していまして、中国人を使って設計したり、企画し、モノを作って、そして中国で売るという風に、中国で完結し始めているのです。中国国内での物流ロジスティクスとか、そういうサービスとか情報とかを展開しようとしているのです。
 私のお手伝いしているある会社も高級品とかハンドメイドとか、受注生産とか、いいモノ程中国でつくらせています。つまり中国は労働力も豊富だけれども、スキルも上がったということです。高級品、ハンドメイドほど中国で作るのです。一方、全自動化、機械化して、納品がすばやい安価な量産品を日本で作るという、まったくこれまでとは逆のケースも出てきております。
 
●九州をめぐるこれからを考える
 そういう中で最後、私からのメッセージは、先程から言ってますように、これから九州と中国の関係は一方通行ではなくてヒト、モノ、カネ、情報が双方向化してくる。いろんなチャンスが出てきています。一体化するということが単なるお題目ではなくて、本当に国内に近いような動きが出来ています。中国とASEANの間でのFTAの締結などで、東アジアとASEANでの選択肢がどのメーカーでも増えているようです。
 アジアの中で日本、あるいは九州が、皆様の地域あるいは企業が、どういう形で生き残こるといいますか、存在意義を示せるかということ、連携関係と競争関係が当然起こる中で、どう違うのかという差別性、メッセージ性というのが、これから生き残りのカギだろうと思います。
 私がおつき合いしている企業の皆様の中には、本当に元気のいい企業が増えてきたなということです。では、元気がいいというのはどういうことかというと、とにかくスピードが速い、決断が出来る、機動力がある、開放的であるということです。こういうことの重要性を知られた経営者あるいはご担当のおられる所は、今の時流に合っているのではないかなという気がします。
 それと国も自治体も非常にアジアに熱心です。今までのように単なる視察をして調査レポートを書かせてというんじゃなくて、自らどんどん事業に打って出る自治体が出てきているということは、本当に頼もしくもあり、お手伝いのし甲斐があります。
 そういう中で「走りながら考えていく」ということ、本当に信頼しあいながらビジョンをもって行動できることが大事だろうと思います。
 要は貿易の総額が増える中で、新しい風がどこから吹くのか、その風を読み取る力が必要なのです。食品ですらそうです。電力や環境保護、エネルギー開発、石炭、畜産もありましょうし、林産もあるでしょう。本当に九州の持ってる各々の個性が今、中国とすべて関わりを持っているということを、私は強調したいと思います。







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