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釣り人とのら猫
 藍島は釣りの名所として有名で、シーズンには多くの釣り客が来る。島外からの客を迎えてというべきか、釣った魚の“おこぼれ”を狙ってというべきか、島の住人以上に我がもの顔をした多くの猫が、民家の玄関先や塀の上、小さな路地、港の待合室に思い思いに寝そべっている。売店の方が、島の別名は“猫島”だとおっしゃっていたが、その多さは島の中を歩いていても人より猫に出会う方が多いかもしれない、と思うほどだ。
 
藍島の猫
 
徒歩で島内一周!
 集落は南部・中央部・北部の三地区に分散して形成されており、島内は徒歩でも一時間ほどで回ることができる。南部の本村地区は小倉からの船着場があり、藍島隧道(ずいどう)(トンネル)で中央部の大泊地区に通じている。大泊地区には島に唯一の学校「藍島小学校」や、守り神である「荒神社」がある。また、北部の寄の浦地区には「千畳敷」と呼ばれる岩礁が広がり、そこからサメの歯や貝の化石が多く見つかっている。
 
奥に見えるトンネルが藍島隧道
 
スナメリ(藍島小学校ホームページより)
 
 島の中を散歩していると、ひときわ目を引く建物が中央部に建つ給水塔である。水道は、北九州市若松から市の水道が全長26・4kmの海底送水管で引かれている。遮るものがない空に、青と白のコントラストが映えて美しい。
 
密貿易船を見張った江戸時代
 高台に残る「遠見番所旗柱台跡」は、江戸時代に小倉藩が設置した遠見番所の跡である。小倉藩は地理的に清国(中国)に近いことから響灘に出没する密貿易船を取り締まる役目を幕府から命じられ、ここ藍島では唐船を発見すると三階菱の旗を揚げて小倉の見張り所に知らせたという。現在でも高台に登ると海を隔てて遠くに小倉の街を見ることができる。
 
スナメリウォッチング
 釣り場以外に島周辺の海域は「スナメリ」が生息していることでも有名だ。体長約1・6m〜1・7m、体重約50〜60kg、世界最小の鯨の仲間であるが、現在では生息域も限られ、水産庁のレッドデータでは日本の哺乳類の絶滅危惧種に指定されている。
 スナメリは綺麗な海にしか生息しないといわれることから、藍島小学校は1999年から環境教育の一環として「スナメリウォッチング」を実施している。スナメリの観察や海水の温度、透明度を測ることを通して、島の自然や環境を考えようという学習活動である。これ以外にも、藍島小学校では地域の教材に根ざした様々な体験学習が行われている。
 
温かな人情に触れて
 七月の中旬、小倉からの最終便に乗って夕暮れ時に島に到着した。予約していた民宿に荷物を置いて港の近くへ戻る。子どもが二〜三人と若いお兄さんが散歩しながら遊んでいた。岸壁に腰を下ろして、しばらく傾きかけた夕日で光る水面を見ながら島の空気を味わう。風が気持ちいい。
 どのくらい経っただろうか、おばさんが一人自転車に乗って来てすぐそばに止まった。そして「もしかして、船に乗り遅れたんかい?うちの子から港に女の子が一人おるけど、船に乗り遅れたんじゃないかって聞いて。よかったら、うちに泊めてあげるよ。」と。きっと港の近くにいたお兄さんが心配してくれたのだろう。思いがけず親切な心遣いに触れて、島の温かさを感じた。
 小倉からほど近い場所にありながら、一歩足を踏み入れるとそこは歴史と伝統、自然、そして温かな人情が豊かに残る島の中。北九州へお越しの際には、ぜひ足を運んでみて頂きたい。
 
青と白のコントラストが美しい給水塔
 
旗を揚げて密貿易船を知らせた遠見番所旗柱台の跡
 
【藍島情報】
・所在地・・・福岡県北九州市小倉北区
・人口・・・299人(平成12年)
・面積・・・0・68km2
・周囲・・・13・2km







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