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4.沖ノ鳥島における海洋温度差発電の利用法
 海洋温度差発電の利用方法として、図2に示すように次の沖ノ鳥島プロジェクトの核としての利活用が考えられる。
(1)『沖ノ鳥島海洋肥沃化プロジェクト』
沖ノ鳥島における海洋深層水を利用した海洋牧場と持続可能な水産資源の開発
 我が国をはじめ、世界的に水産資源が減少している。このような状況の中、21世紀の5大問題のひとつ、「食料問題」を解決するために海洋深層水を利用した海洋肥沃化による魚場の修復と造成による持続可能な水産資源開発が期待されている。その利用の中核として海洋温度差発電が有効である。
 
(2)『沖ノ鳥島海洋資源・エネルギー開発プロジェクト』
沖ノ鳥島におけるリチウムなど海洋エネルギー物質などの開発
 21世紀の情報化社会は、リチウムイオン電池が支えていると言っても過言ではない。携帯電話やノートパソコンではリチウムイオン電池が使われている。一方、これらの資源は我が国にはなく、海外から100%輸入している。このような状況の中、海洋温度差発電で汲み上げる海水からリチウムを取り出す方法が注目されている。
 
(3)『沖ノ鳥島水素ネットワークプロジェクト』
沖ノ鳥島における水素エネルギー供給基地
 21世紀は「水素の社会」と言われている。一方、現在の水素製造は、主に化石燃料等から製造しており、環境にやさしい再生可能なエネルギーから水素製造が期待されている。このような状況のなか、海洋温度差発電による海水淡水化と発電した電気による電気分解による水素製造が可能であり、その利用が注目されている。沖ノ鳥島に水素製造基地が構築されれば、近未来での本格的な水素社会における船舶や本土への水素供給として有効となりえる可能性がある。
 
(4)『沖ノ鳥島持続可能開発総合プロジェクト』
上記の3つを総合的複合的に構築したプロジェクト
 
図2 海洋深層水多目的利用フロー図
 
<設備規模(3MWの場合)>の試算例(参考文献(1)参照)
● 海洋温度差発電設備:3MW
● 必要表層海水量:16,800m3/h
● 必要深層海水量:16,000m3/h
● 淡水の生産量:100m3/日
● 水素製造量:300Nm3/h
● 塩化リチウム精製量:60kg/日
● 深層水放流量:380,000t/日
● 取水管(口径/本数):Φ1.7m/2本
● 必要チタン量:80t
 
漁場造成・水産養殖
 海洋温度差発電では大量の深層海水を扱って、最後に海に放水します。この深層海水には栄養塩が豊富に含まれているため、周辺海域の漁場造成に活用でき、漁業の生産性の向上にも寄与することができます。
 
(深層水利用海洋肥沃化装置 マリノフォーラム21 提供)
 
(実証装置『拓海』)
 
 水産庁の「マリノフォーラム21」プロジェクトとして、相模湾で平成15年度より実海域で運転がスタートしている。このプロジェクトでは、我が国の水産資源が極めて減少しているなか、魚場の回復と創生を目的に行われている。この利用では、エネルギー源として海洋温度差発電が中核となる。
 
5.環境にやさしい持続可能な利用
 沖ノ鳥島は、過去100年あたり1cmという、地盤の沈下が極めて小さいことでも知られ、地球温暖化などに伴う海面の水位変化を調べるのに役立っていると評されている。東小島は、満潮時には海面より6cm程度、もう1つの「北小島」は16cmである。
 沖ノ鳥島の利活用を推進し、経済活動を行う場合、「環境にやさしく持続可能な経済活動」を行うことは、必須である。仮に、沖ノ鳥島で、化石燃料を使って経済活動を行うことは、沖ノ鳥島を守る行動とは結果として逆行することになる。
 環境にやさしい持続可能な活動としてエネルギー源としては、太陽光発電、風力発電、海洋温度差発電、波力発電などが考えられるが、安定性、規模、エネルギー密度、複合利用などの点で、海洋温度差発電は、沖ノ鳥島での経済活動のエネルギー源として優れた利用方法の一つである。特に、海洋温度差発電は、単なる発電のみでなく、海水の淡水化、水素製造、豊かな漁場造成、リチウム回収など複合的な利用が可能となる。
 沖ノ鳥島には、海洋温度差発電をはじめ海洋エネルギーが豊富である。これらの利用のための調査研究を詳細に実施し、その利用方法について検討することは、 沖ノ鳥島がもつポテンシャルを「引き出す」効果的方法と考えられる。
 参考に、表1に他のエネルギーと比較した海洋温度差発電(OTEC)のライフサイクルアセスメントの評価を示す。
 
表1 各発電方式の1kWhあたりのCO2排出原単位(参考文献(4))
発電方式 kg-CO2/kWh
石炭火力 0.916
石油火力 0.756
LNG 0.563
水力 0.017
OTEC(2.5MW) 0.119
OTEC(100MW) 0.014
太陽電池 0.153
 
6.我が国をはじめ国際社会に貢献できる活用
 海洋温度差発電の誕生は、今から122年前の1881年(明治14年)、世界で最初の火力発電所ができた年まで遡る。この年にフランスのダルソンバール(J.D‘ Arsonval)が最初に考案したものである。その後、海洋温度差発電に関する研究が精力的に行われてきたが、近年では我が国の海洋温度差発電技術が世界を先導しており、国連をはじめ海外の多くの政府機関及び研究機関から協力依頼や共同プロジェクトの依頼が増えている。このような状況の中、持続可能な豊かな社会の構築のための一つの手段として、我が国が海洋温度差発電を推進することは有効である。その推進の候補地の一つとして沖ノ鳥島での利用の可能性について詳細に検討することは重要である。
 
7.おわりに
 沖ノ鳥島における海洋温度差発電の利用について、約10年以上前から各界及び各分野で検討が進まれる中、研究者の一人として現地視察が出来たことは極めて幸せであった。沖ノ鳥島における海洋温度差発電の利用温度条件は極めて好条件であるので、本土からの距離的問題を超え、地理的条件を活かした利活用のための詳細な調査研究を推進し、本格的な環境にやさしい持続可能な経済活動と国際貢献が行われることを期待したい。
 
8.参考資料
8.1 海洋温度差発電とは?
 基本的な海洋温度差発電システム(クローズド方式)を下図に示す(2)。主な構成機器は、蒸発器、凝縮器、タービン、発電機、ポンプからなる。これらの機器はパイプで連結され、作動流体としてアンモニアが封入されている。作動流体は、液体の状態でポンプによって蒸発器に送られる。そこで、表層の温海水によって加熱され、蒸発し、蒸気となる。蒸気は、タービンを通過することによって、タービンと発電機を回転させて発電する。タービンを出た蒸気は、凝縮器で約600m〜1,000mの深層より汲み上げられた冷海水によって冷却され、再び液体となる。この繰り返しを行うことで、化石燃料やウランを使用することなく海水で発電することができる。
 
 
 近年は、新しいサイクルとして、ウエハラサイクルが発明されるなど、海洋温度差発電の技術は新しい展開を推進している。
 
8.2 参考文献
(2)上原春男他, ”海洋エネルギー利用技術”, 森北出版(1996-4)
(3)佐賀大学海洋エネルギー研究センターパンフレット
(5)池上康之、「海洋温度差発電の動向-持続可能なエネルギー資源の確保のために-」電気評論者、2004年







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