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1996/07/20 産経新聞朝刊
【ウイークエンド首都圏】おもしろゾーンを行く JR武蔵野線 競輪場はいま
 
 競輪、競艇、オートレース。JR武蔵野線沿線は公営競技(ギャンブル)場の花盛りだ。公営ギャンブルは、ギャンブラーのかけ金が主催者の地方自治体の財政を潤す仕組みだが、ここ数年、どこも売り上げが落ち、思うようにはいかないらしい。そこで、今回はかつて“キング・オブ・ギャンブル”といわれた競輪場の現状に迫ってみた。
(半田泰)
◆新たなファン獲得へ大車輪
●否・トレンディー
 埼玉県所沢市の西武園競輪場では、県と所沢など四市が年間十二回(七十二日間)、レースを開催している。開催日の七月十四日、初めて訪ねてみた。百二十億円をかけて改修を進めているだけあって、確かに設備は驚くほど整っている。全面ガラス張りの特別観覧席、四十一インチの大型テレビを二十四個並べた「サイクルシアター」、お茶の無料サービスもうれしい。
 スタンドも七割方は埋まっている。ただ、女性の姿がほとんど見あたらず、客のほとんどは中年男性なのが、人気の中央競馬との最大の違いだ。
 肝心のレースで本当の勝負になるのは、最後の一周半。鐘が打ち鳴らされると、けん制し合っていた各選手の動きは一気に激しくなり、スタンド前を時速七〇キロで駆け抜けていく。
 ゴールのたびに「恥さらし」「二度と出てくるな」など、ば声を選手に浴びせる人も。それでも、スタンドにいた五十歳代の男性が「昔はノミ屋が場内にたくさんいたし、デンスケとばくまでやっていた」と話すように、風紀面の改善も進んでいるようだ。
●負けて地域に貢献
 この男性は最終レースの後、「のめり込んじゃだめだよ。昔から『勝負ごとで蔵建てたやつはいない』っていうだろう」と言いながら去っていった。場内にいた予想屋の人も「私も予想するだけで、車券なんて買ったことないよ」。
 どんなギャンブルでも「胴元」が必ず勝つ。競輪の場合、車券売り上げのうち、払戻金は七五%で、残りの二五%はいわゆる“テラ銭”となる。ただ、パチンコなどと違う点は、選手の賞金を引いた残額が主催自治体の収益になり、公共福祉に活用されることだ。
●施設改善へ全力
 ところが、バブル崩壊後、このシステムが狂いつつある。所沢市は西武園競輪を年間、二回開催(十二日間)しているが、昨年度の競輪収入は、最盛期だった平成二年度の約一割(約七千五百万円)にまで落ち込んだ。福岡県では門司など三競輪場でレースを主催していた「五市競輪組合」(大牟田など五市で構成)が平成六年度に約一億三千万円もの赤字を出し、今年三月末で解散している。
 西武園など首都圏の競輪場が施設の改善やイメージアップに躍起になるのも、胴元の赤字だけは、絶対に許されないからだ。
◆“黄金期”は25年間売上高トップ
 競輪は昭和二十三年、戦後の復興資金調達のために考案された日本生まれのギャンブル競技だ。翌二十四年から二十五年間、すべての公営ギャンブルの中で売上高トップを誇ってきた。だが、昭和四十四年の「後楽園競輪」(現在の東京ドームの場所にあった)廃止をきっかけに、人気は徐々に中央競馬などに移り、現在は三位になっている。
 それでも、バブル期までは“右肩上がり”に成長してきたが、バブル後は売り上げの減少が目立っている。日本自転車振興会によると、原因はファンの減少ではなく、一人当たりのかけ金が少なくなったためだという。平成三年度には一日に平均約五万七千円分の車券を買っていたが、平成六年度には約四万八千円にまで落ちている。
 日本自転車振興会では「昔は家を抵当に入れて勝負をしていた人もいたが、そんなにお金を使わずに、気軽に遊ぶ人が増えてくれれば」(広報課)と、既存のファンに加えて、競輪に縁のなかった新規のファンの取り込みに必死だ。
 
 
 
 
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