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1996/03/30 毎日新聞夕刊
[牧太郎の競馬はロマンだ]入門扁 「草競馬」は経営ピンチ(日曜競馬)
 
◇メディアの扱いも冷たく−−日の当たらないドラマを探しに行こう
 阪神にも中山にも、もうじき桜前線。桜花賞を皮切りに、春のGIシリーズが華々しく開幕するというのに、“草競馬の空っ風”を書きたくなった。ともかく地方は“空っ風”なのだ。
 栃木県の足利競馬場は存続の危機にひんして県議会の議論の的になっている。バブル崩壊からの不景気。競輪、オートレース、競艇と近くにある他の公営競技とのギャンブラー獲得戦争。これに音をあげた訳ではないが、足利競馬は完全な赤字経営。地方自治体の台所を助けるという大義名分の草競馬が赤字続きで、逆に自治体の足を引っ張る。
 こうしたピンチは足利だけでなく、北は北見(北海道)、南は中津(大分県)まで29の草競馬が一部を除いて経営的に青息吐息だ。
 こんな地方競馬を取り巻く雰囲気が馬のやる気に影響するのか、今年の4歳桜花賞、皐月賞トライアルで、地方馬は全滅である。
 地方競馬の衰退にはいろいろ原因があるとは思うが、一つは地方のメディアが“草競馬”に協力的でないことが挙げられる。中央競馬と同じことをやっていながら、草競馬はメディアにのらない。まるで博打(ばくち)のサイコロのような扱いで、草競馬のドラマがなかなか紹介されない。
 メディアがソッポを向いているから元気がないのだ。地方にも大スターはいる。例えば昨年の大みそか、寒い寒い水沢競馬場(岩手県)で、引退レースに勝ったトウケイニセイ。3歳の時、屈けん炎で競走馬生活に赤信号がともった。
 トウケイニセイは1987年5月21日に生まれ、現在9歳。父のトウケイホープは、南関東の有馬記念、東京大賞典に勝ったが、血統は今いちで、種馬としては買い手がつかなかった。
 オーナーがどうしても子孫を残したいというので、生まれたのが彼である。トウケイホープの血を受け継いだのは彼だけ。そのニセイが屈けん炎という、競走馬にとって致命的な病を克服して何と43戦39勝。東北の馬を総なめにした。
 こんなドラマチックな馬が地方には何頭もいる。春のGIシリーズ。たまには近くの草競馬に、日の当たらない隠れたドラマを探しに行くのもいいものだ。
(編集委員)
 
 
 
 
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