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沖の鳥島視察報告
阿嘉島臨海研究所 大森 信、谷口 洋基
 とにかく時間がなかった。30時間を超える長い船旅の後、上陸は30分足らずでは、行ってきたというだけが、正直な印象である。急な計画で仕方がなかったのだろうが、運航に使われた船は、現在の法規では建造できない構造が残されている老朽船で、しけの海での航海は、全ての参加者にとって楽ではなかった。
 事前に行われた生物調査の記録から、現地のおおよその様子はつかんでいたので、二つの小島を含むリーフ上のサンゴを含めた生物相の貧弱さは驚くほどのものではなかった。島の生物多様性が陸地からの距離と島の広さに反比例するという理論上の仮説は、沖の鳥島でもあたっていると思われた。しかし、観測施設の東側のくぼみ(礁池)やリーフの東側に広がる礁池には魚類も比較的多く、サンゴももっと分布しているかも知れない。1988年に調査がおこなわれた際に撮影された水中写真(詳細な場所は不明)をみたところ、今回観察した場所に比べてはるかにサンゴの種数は多く、被度も高い。このような場所が現在でも存在するのか、それともその後の白化現象などによって今では全体が貧弱な状態になってしまっているのかということも確認する必要がある。
 生物相とその分布密度について、今後、機会があれば調査したいところは以下の3つの場所である。1. リーフの東側に広がる礁池、2. 南側の礁嶺の内側に連なる深み(空洞)、3. 東端の長い礁嶺の内側と外側。
 東小島で採取した堆積物(粗砂)はサンゴの破片で、有孔虫はほとんど見られなかったことから(分析結果は別紙表1)、サンゴを増やし、それからの破片(サンゴ砂)によって島の陸地を大きくすることが考えられる。この陸地化推進戦略の効果は短年に現れるものでなく、100-数100年規模のものと考えなければならない。
 対策としては、1. サンゴ群集を増やし、その生産速度を高めること、2. できたサンゴ砂などの堆積物をリーフ内に留めること、が大切である。このための構想は以下の通りである。
1 リーフ上の潮汐流など海水の流動を、年間を通して詳細に観測して、静穏化と、できるだけ リーフに海水の滞留を促す構造(人工提)を設置する。(図1)
2. 海水の循環の中心付近に、サンゴの卵・幼生の滞留を促す「育成礁」を数十個(成功すれば 中心からリーフ全体に広げる)設置する。また、実験的には、育成礁の一部には電着技術を 用いてサンゴの生育を助長する。電源には太陽電池を用いる。(図2、図3)
3. 礁池内にできるサンゴ等の石灰化生物の遺骸(サンゴ砂)を沖合に流出させず、リーフ上に 堆積させるため、波の屈折や回折を利用して砂を貯める。このためには地形をわずかに改変 することも必要だろう。(図)
 なお、沖の鳥島は遠隔の地にあり、頻繁な観察や効果の検証が不可能である。したがって、沖縄の適地に同様の設備を作って実証実験を行い、効果を検討することが望ましい。
 
図1 人工堤
 
図2 
沖縄県宮古島のタカセガイ中間育成礁にできたサンゴ群集







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