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「沖ノ鳥島の有効利用を目的とした視察団」報告書

 事業名 海洋・船舶の実情調査及び研究等
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


「沖ノ鳥島」の国際法上の地位
東洋英和女学院大学 教授・慶應義塾大学 名誉教授 栗林 忠男
はじめに
 今日の演題はやや固苦しい感じがするが、要するに、国際法から見た「沖ノ鳥島」はどのような地位をもつのか、ということである。まず、「島」一般について国際法の規則がどのような内容を定めているか、そして次に、それらの国際法規則が具体的に「沖ノ鳥島」との関係でどのように解釈されるかということを見ていきたい。また、最後に、この問題の今後の展望を述べてみたい。
 
第三次国連海洋法会議における議論
 国際法における「島」の制度については、かなり以前にさかのぼることも出来るが、時間の関係もあるので、ここでは、新しい海の秩序を纏めた国連海洋法条約を1982年に採択した第三次国連海洋法会議(とその準備段階を担った、その直前の国連海底平和利用委員会)での議論から始めることにする。この会議で島の制度について各国から様々な意見・提案が出されたが、提案されたものの内容を大きく分類してみると、(1)「島」を何らかの基準によって分類して、その基準によってそれぞれの島に異なる地位を与えようとするもの(分類派)*と(2)島に差別を設けずに、すべての島に同一の地位を与えようとするもの(一括派)**、の二通りの立場に分けることが出来る。いずれの提案でも、領土として認められる島がその周囲に12海里の「領海」を持つことが出来るとする点では同じであるが、第一の、島に分類を設けようとするものは、それによって、周辺海域に排他的経済水域・大陸棚を持てる島と、もてない島とに分類しようとする立場であり、第二の、島に同一の地位を与えようとするものは、すべての島に周辺海域に経済水域・大陸棚の設定を認めようとする立場である。
 第一の分類派に共通する考え方は、人間が居住できず、経済生活もできないような小さな島が、その周囲に200海里もの経済水域などの広大な周辺海域を取得するのは、海洋の利用の自由や「人類の共同遺産」である深海底の範囲を不当に制限することになる、という理由である。これに対して、一括派の立場は、例えばニュージーランドは、島に対する主権とその他の領域に対する主権とを区別すべき論理的根拠は無いといい、フィジーは大陸の無人部分と無人島を比較して、無人であっても大陸であるというだけで経済水域をもつことに反対はないのに、島にそれが当てはまらないのは不公平であるといい、地中海の島嶼国であるキプロスもこれに同調して島を分類することに反対し、カリブ海の島嶼国のジャマイカも、島の大きさや人口といった基準は島のみならず大陸部分にも当てはまるのであって、なぜ島の海域決定の場合のみに用いられるのか理解しがたいと述べている。
 このように、会議における議論は二つに分かれて、相互の立場からの応酬が繰り返される中で、島をめぐってさまざまな国の利害が対立していることを顕著に示した。しかし、結果的には、「島」の定義の中に、その形状、大きさ、人口の多寡などの要素を一切考慮しないことになった。配布した資料は国連海洋法条約の「島の制度」に関する121条の規定であるが、その第一項では、島と呼ばれようと、または小島、小島に類似の島、あるいは岩と呼ばれようと、いかなる島であれ、それが「自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるもの」という、従来からの国際法上の要件を満たす限り「島」であるということが再確認されたからである(121条1項)。そしてまた、そのような島がどのように周辺海域を決定することが出来るかについても、従来から認められてきたように、「島の領海、接続水域、排他的経済水域および大陸棚は、他の領土に適用されるこの条約の規定に従って決定される」(121条2項)こととなったのである。その限りでは、島の定義と地位については、一括派の立場が基本的・原則的に承認されたといえる。1975年の第3会期という、第三次海洋法会議が開始されてから早い段階で「島の制度」に関する第121条の条文が起案されて以来、しばしば修正の必要を主張する声が上げられたにもかかわらず、条文案の内容は最後まで変わることはなかった。
 このように、島の分類を試みた提案がすべて採用されなかったのであるが、島の分類派と一括派の妥協として、分類派の立場は「間接的に」残ることになった。「間接的に残った」というのは、例外的に「岩の場合を特別に扱った」という意味である。それが、「人間の居住又は独自の経済生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない」(121条3項)という、解釈上しばしば問題となる規定である。
 
国連海洋法条約第121条3項の多義性
 前述のように、121条3項は、経済生活などの一定の要件を満たさない「岩」については、200海里のような広大な管轄水域を与えることを否定しようとする考えを背景としている。しかし、「岩」とは何か、について会議でもほとんど議論は無かったし、また国連海洋法条約の規定の中にも全く定義づけがなされていない。私の知る限り、唯一「岩」の定義を下したのはアフリカ14カ国提案(分類派)であるが、そこでは、「岩とは、自然に形成された岩状の高地(rocky elevation of ground)であって(水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう)」と定義している。これはまさに循環論に他ならない。
 他方で、「岩」を地質学的意味での「岩石」(たとえば、硬質な大陸地盤で構成されたもの)と解釈する考えもある。これは、条約の解釈に当たって「通常の条文の意味」から引き出そうとするものであり、このような解釈は、私の考えでは、必ずしも第3項が挿入された趣旨には合致しそうもないが、もしこの解釈に従うとすれば、台状をなす小島、礁、岩礁などは3項の「岩」には該当せず、従って居住又は経済的生活の維持の要件をみたすかどうかとは無関係に、それ自体の経済水域または大陸棚をもてるこになるであろう。巷間、沖ノ鳥島は「島であって岩ではない」という言い方がこのコンテクストで述べられるのであれば、それはそれで意味をなす表現であるが、そうではなく、岩も「島の一種」であって、ただ人間が住めないか経済生活も不可能なものは「岩」として経済水域・大陸棚をもてない、というコンテクストであれば、単に「島であって岩ではない」(とか、逆に「岩であって島ではない」)という言い方では不適切だということになろう。
 「人間の居住又は独自の経済生活を維持することのできない」(分類派のルーマニアの提案がこれに最も近い表現)という要件も意味が不明確である。人間の居住性「又は」経済生活の維持性というのであるから、そのいずれかを充たせばよいと思われる。ただし、「居住しない」ではなくて「居住することができない」という文言であるから、現に人間が居住している必要はなく、無人の島であっても、人間の居住を可能とする条件が整っていれば、経済水域や大陸棚を設定できることになる。同様なことは、「独自の経済的生活」という要件についても言えることで、具体的にその意味を限定することは著しく困難だからである。第三次国連海洋法会議の議論でも、その意味内容についてはほとんど議論されなかった(公式記録としては、僅かにトルコが「航行の権利及び軍隊・警察の施設は経済水域設定のための十分な正当化とはならない」と述べているだけである)。他方、学説のほうは、そこが航路を示す道具として利用されている場合であるとか、気象資料の収集のため定期的に利用されている場合であるとか、また、幾つかの島国にとっては国家の発展の原動力となる要素がもっぱら海の資源に依存しているため、より広い海域の確保こそ経済生活そのものに繋がるので、およそすべての岩を含む島が経済的生活を有するとか、さまざまな例が挙げられてはいる。結局、第3項の岩の定義の不明確性のゆえに、第1項が規定する島の要件を満たすものであれば経済水域や大陸棚を設定できると解釈しうる余地を残していると言えよう。
 
最近における諸国の実行と学説
 こうしてみると、現在の国連海洋法条約の関連規定からすれば、沖ノ鳥島は121条1項の要件を充たす「島」であり、同条2項により周辺海域に排他的経済水域・大陸棚を設定しうる島である、と言っても決して不当だとはいえない。沖ノ鳥島が同条3項にいう人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない「岩」に該当するかどうかはアプリオリに決定することはできないのであって、今後、科学技術の力によって、例えば同島に経済生活を維持できる状況を生み出す可能性をまったく否定することはできないのである。現在のように、島、小島又は岩を分類する国際法上の明確な基準がなく、さらに「人間居住」とか「経済生活」の法的概念についての国際的合意も無い中では、沖の鳥島を121条1項の「島」として認定し、(3項の岩としてではなく)同条2項に基づき、排他的経済水域・大陸棚を設定することができると考えることは、それなりの妥当性が認められてよい。比較的小さい島について経済水域や大陸棚を設定している国家として、フランス、イギリス、日本、アメリカ、ベネズエラ、ノルウェーなどが挙げられるが、それらの諸国が現在行っている国家実行はそうした事情をふまえたものと考えられよう。
 ただし、そうした小さな島に対する国家の一方的な海域の設定に対しては、そして特に沖ノ鳥島に対する日本の実行については、外国の国際法学者、特に欧米の学者の論文の中では、121条3項に違反するとする批判があることにも注目しておかなければならない。学者の論説・批判は国際法上直ちに効力を持つわけではなく、いずれかの国家が外交的に抗議するなどの行動をとらない限り紛争とはならないが、周知のように、沖ノ鳥島については、日本が1977年に200海里の漁業水域を設定した時も、また200海里の排他的経済水域を1996年に設定した時も沈黙していた中国が、突如として最近、121条3項違反を理由に批判の声を上げたところである。もっとも、皮肉なことに、中国はかっては沖ノ鳥島の工事を「優れた試みとして」評価したことがあったと伝えられている。また、中国は1988年から南沙諸島の6箇所のサンゴ環礁の中の岩礁に施設を建設したことがあるが、それも沖ノ鳥島の工事を先例として正当化したと言われている(しかし、ベトナム側からいえば、それらの岩礁は「満潮時に海中に1〜2メートル没してしまう」岩である、とも言われている)。 また、島に関する諸国の実行に中にも、沖ノ鳥島のような現状にとって必ずしも有利とは言えない事例もでている。例えば英国は、これまでロッコール(Rockall)島周辺に漁業水域を設定してきたが、国連海洋法条約への加入の際に、英国の漁業水域の再定義が必要となる理由として、同島が121条3項の下で漁業水域のための有効な起点ではない、という声明が付されている。
 
おわりに〜今後の展望
 国連海洋法条約の規定は妥協の産物としての色彩が濃いものが多くある。島に関する121条の規定、特にその3項もそうした規定のひとつであって、その具体的に意味するところは、同条約の他の重要な諸問題と同様に、今後の諸国の国際法実践の中から決定されて行くと考えられる。新しい海洋秩序の中核をなす排他的経済水域の制度に代表されるような、沖合への管轄権の拡大傾向の中で、周辺海域を広く取得できる「島」の重要性が一層高まる結果になったのであるが、それだけに、島の法的地位をめぐる争いは今後も増すと考えるべきである。各国の利害関係が絡むダイナミックな形成途上にある新海洋法秩序の中にあって、島の制度もまた形成途上にあると見なければならない。このように、今後の諸国の実行の集積によって3項の不明確な要件の解釈が補完されることになるとすれば、そこに、わが国が島の国際法制度の確立に向けて、国際社会において先導的役割を果たす余地がある。121条3項の不明確性に対して、現代の科学技術に照らして新しい光を当てることもできよう。島国としての立場を強調するのであれば、太平洋やカリブ海などの島嶼国と連帯して、島の制度のあり方について共通の立場を形成したり国際世論の形成を図ったりすることもできよう。重要なことは、単に資源のための水域として周辺海域を囲い込むための「島」の位置づけでなく、最近では、ますます海の総合的管理に対する要請が強まりつつあるから、海洋の「持続的開発」の原則を基礎に、海洋環境の保全に配慮しながら、海を管理するための諸施策を、その周辺海域に展開する一つの「拠点」として位置づけるということである。そうした観点からすれば、沖ノ鳥島について、今こそ海の専門家達によるさまざまな「創意」が期待されているといわなければならないし、とかく海洋の総合的な政策とそのための行政組織を欠く日本にとって、この問題を契機としてそうした面についての論議が行われるようになることが望まれる。
 
 去る12月15日に日本財団本社において行った「『沖ノ鳥島』の国際法上の地位」と題する講演の内容をもって報告書に代えさせていただきます。
 

[注]
*   第三次国連海洋法会議におけるこの立場の公式提案の提案国は、トルコ、ルーマニア、ケニア、チュ二ジア、アイルランド、アルジェリア、象牙海岸、リベリア、マダガスカル、マリ、モーリタニア、モロッコ、シエラレオネ、スーダン、チュ二ジア、オートボルタ、ザンビアなど。デンマーク、シンガポールなどがこの立場を支持する発言を行った。
**  この立場の公式提案の提案国は、ギリシャ、ブルガリア、東ドイツ、ポーランド、ソ連、フィジー、ニュージーランド、トンガ、西サモア、日本、ウルグアイなど。なお、トリニダード・トバゴ、カナダ、フランス、英国などが、この立場を支持した。







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更新日: 2019年11月9日

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