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1997/08/10 毎日新聞朝刊
[国連改革と日本]常任理事国入りを問う 番外編 今こそ責任果たせ
吉田康彦氏
 
 ――国連改革論議が出ている背景は。
吉田氏 国連は第二次大戦の戦勝国クラブの延長だが、国際関係は激変した。冷戦が終わり、敗戦国の日本とドイツが驚異的な復興を遂げ、経済的には日独米が国連を支えている。安保理も非常任理事国のポストこそ増えたが、常任理事国は5カ国のまま。途上国が加盟国の大半を占めるに至った現状も踏まえ、地域バランス、数を増やすの2点に関して早急に改革を実現する必要がある。
 
 ――安保理改革は実現するでしょうか。
吉田氏 大きな流れは出来上がっている。一つは日独が先進国の陣営から入るべきだという点。そうすると欧米偏重、先進国偏重になるから途上国にも常任理事国の議席を与えなければならない。この2点がコンセンサス。6分4分で改革が実現するとみる。
 
 ――日本の常任理事国入りに賛成ですか。
吉田氏 「代表権なきところに課税なし」は、民主主義の基本的なルールとしてあまねく受け入れられている原則だ。しかし、金を出しているから議席をよこせでは「成り金主義」だ。当然果たすべき責任を日本国民は戦後、回避してきた。常任理事国になることは地域の平和と紛争予防、安全保障について責任を持つということだ。
 
 ――しかし、日本の果たすべき役割が論議されていないように思います。
吉田氏 日本は肩ひじ張って「国際貢献」というが、自然体で考えるべきだ。アフリカに難民が200万人も出た。大虐殺が起きた。見て見ないふりはできない、それだと思う。
 
 ――日本は常任理事国に入って何をすべきだと。
吉田氏 日本人はあまりにもきまじめすぎる。国際政治はもっとどろどろした生き物だ。国連の決定は常に正当性を持っているように錯覚している。>>>理事国にならず、蚊帳の外で結論だけ押し付けられていいのか。
 もっと積極的にアイデアや知恵を出して問題解決に加わることが重要だ。ただ日本の持ち味は広島、長崎を経験して核廃絶の願望が強くあることだ。核軍縮や核廃絶を核大国に迫ることができる。日本は平和憲法や非核3原則を持ち、事実上、武器輸出もしていない。世界の5大武器輸出国である常任理事国に禁輸を迫ることもできる。
 
 ――軍事貢献が増えるとの懸念もあります。
吉田氏 国連憲章のどこにも、常任理事国はいわゆる「国連軍」や国連平和維持活動(PKO)に軍隊を出せとは書いていない。ただ、日本だけ後方支援で勘弁してくれとはいかない。たとえ停戦監視活動でも前線に展開する歩兵部隊(いわゆるPKF)には参加できないという半人前の現行のPKO協力法は早急に改正すべきだ。
 各国と同等の責任を果たすべきだ。それが常任理事国であることの責任の一端だと思う。
◇吉田康彦(よしだ やすひこ)
1936年、東京生まれ。
東京大学文学部卒業。
NHK記者を経て、国連本部主任広報官、国際原子力機関広報部長、埼玉大学教授を歴任。
現在、大阪経済法科大学教授。
 
 
 
 
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