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1999/09/09 読売新聞朝刊
[論点]21世紀の国連、調整重視で
横田洋三(寄稿)
 
 国連では、二〇〇〇年秋のミレニアム(千年紀)総会に向けて、準備が本格化している。アナン事務総長の下に、ミレニアム総会担当事務次長補が任命され、来年早々に発表される予定の事務総長報告書の起草が始まっている。
 その報告書に、アジア太平洋地域の意見を反映するための公聴会が、九、十日の二日間、東京・渋谷の国連大学で開催される。日本をはじめインド、インドネシア、オーストラリア、韓国、タイ、中国、パキスタンなどの有識者が、ニューヨークから来る国連本部の幹部職員の前で、国連の将来について意見を述べ、討論を行う。
 昨年十月に設立された日本国際連合学会は、今年初めにミレニアム総会提言プロジェクトを発足させ、二回にわたるワークショップと数回に及ぶ研究会における討議をもとに「二十一世紀の世界における国連の役割」と題する提言書をまとめた。この提言書は、八日午後、町村外務政務次官に手渡された。また、九日午前の公聴会において、国連事務局代表にも提出される。
 これまで出された国連改革案の多くが、事務局機構の効率化、スリム化を中心としていたのに対して、この提言は、二十一世紀において、国連が果たすべき役割を中心に据えて論じている点に特徴がある。
 提言書は、六つの部分から成る。第一章の総論では、紛争形態の多様化、経済のグローバル化、科学技術の発達、交通通信技術の進歩などにより、二十一世紀の世界は、貧困、環境破壊、人口爆発、難民流出、テロ、国際組織犯罪、感染症などの問題に、地球的規模で取り組む必要がある。だが、五十四年前にできた国連は、機構・機能の両面で、適切ではなくなってきているとする。そして、国連は、政治、経済、社会、技術などのあらゆる分野で前面に出た活動をするのではなく、むしろ、国連が持つ普遍性、正統性、包括性を生かして、課題選定、政策立案、行動基準設定などの活動に力を入れ、すでに存在し活動している国家、自治体、国際機構、民間活動団体(NGO)、企業などの活動に指針を与え、それらの活動を調整する役割を強化すべきであるとする。
 第二章は、安全保障と軍縮・軍備管理の分野を扱う。この分野では、国連は依然として中心的役割を果たす必要があり、その場合、伝統的な国家間戦争のみならず、ボスニア、コソボ、ソマリア、ルワンダなど、冷戦後の世界で多発する内戦型紛争に対しても、国連が積極的役割を果たすべきである、と提言する。特に、集団殺害、民族浄化などの大規模な人権侵害や人道に対する犯罪に対しては、国連が直ちに行動できるよう法的、制度的条件を整える必要があると述べる。
 また、平和維持活動を含む予防外交の強化、戦時から平時への移行期における復興・開発のための援助の強化、安全保障理事会の理事国数の十五から二十四への拡大と常任理事国数の五から十への拡大、常任理事国の拒否権の制限、生物・化学兵器の禁止と核兵器全廃への努力などを提言する。拡大する常任理事国メンバーについては、国名を明記していないが、当然、日本も含まれる。
 第三章は、経済・社会分野の国連活動を扱う。この分野は開発、人権、環境、保健、教育、犯罪、通貨、金融、貿易、交通、通信など広範で、そのすべてに国連が自ら取り組むことは効率的でなく、むしろそれぞれの分野で活動する国連の関係機関や専門機関の活動を効果的に利用・調整することが望ましいとする。そのために経済社会理事会のもとに、経済開発環境委員会と社会人権人道委員会を常設的に設置するよう提言する。
 第四章は、国連の活動を支援する市民社会やNGO、学会などとの関係強化を謳う(うたう)。特に総会の補助機関としての「世界市民議会」の設置と、経済社会理事会の下の「NGOフォーラム」の設置を提言する。
 第五章は、国連の財政基盤強化のため、分担金滞納国に対する罰金と完納国に対する報奨金制度の導入、国連経費の国別分担率の公平性の観点からの見直し、国連の独自の財源確保策の検討などを提言する。
 提言書は、最後に国連の人的基盤の強化と日本など職員数の少ない国からの採用の拡充、専門分野の多様化、職員の年齢構成の見直し、男女職員数の均衡化などを提言する。
 日本の学会の提言が国連の将来にどう生かされるか、注目したい。
◇横田洋三(よこた ようぞう)
1940年生まれ。
国際基督教大学卒業。東京大学大学院修了。
国際基督教大学教授、東京大学教授を歴任。
現在、中央大学法科大学院教授、国連大学学長特別顧問。
 
 
 
 
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