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私はこう考える【国連について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1996/08/18 産経新聞朝刊
【オピニオンアップ】老兵は静かに去るべき 国連改革に新たな人材を
論説委員 石川荘太郎
◆成果に乏しいガリ総長
 「世界で最も困難な仕事」と言われるのは国連事務総長の職である。その事務総長のイスをめぐって、再選を目指すブトロス・ガリ第六代事務総長と米国との対立が先鋭化している。
 現在の国連は冷戦終結後に噴出した地域紛争に対して適切な対応を求められながら、加盟各国の利害の対立や財源難もあって有効な手が打てない。
 一時は冷戦後の新国際秩序構築で国連が中心的な役割を果たすのではと期待された。だが相次ぐ平和維持活動(PKO)の挫折でその一翼を担う夢ははかなく消えた。ガリ氏を見る目は当然厳しくなる。
 そのガリ氏が六月に再選を目指すことを表明したことに米国が反発、安全保障理事会での拒否権行使も辞せずという強い反対の姿勢を打ち出したのだ。
 ガリ氏がエジプト人だけに、国連加盟百八十五カ国のうちアフリカの多くの国はガリ再選に賛成している。その理由のひとつは初代から五代までの事務総長がいずれも再選されているのに、なぜアフリカ初のガリ事務総長の再選が問題になるのか、と言うものだ。
 この他、安保理の五常任理事国のうちロシア、中国、フランスはガリ再選に賛成の模様だ。だが現段階では態度不明の国も多く、米国が強硬に反対しているだけに、九月の国連総会から年末にかけてこの問題は国際的に大きな議論を呼ぶだろう。
◆米国が反ガリの急先鋒
 米国がガリ氏の再選に反対している理由は色々ある。
 まず第一はその年齢である。一九二二年十一月十四日生まれのガリ氏は、あと三カ月足らずで七十四歳になる。高齢が不利に働くと伝えられる米共和党大統領候補、ボブ・ドール氏(七三)よりも年上なのだ。ガリ氏が再選され二〇〇一年末までの任期一杯務めると七十九歳、激務に耐えられるのか、という疑問は当然出てくる。
 国連外交筋は「二十一世紀まで国連のトップに座る人物として、ガリ氏はふさわしくない」という。またホワイトハウスのマカリー報道官も「クリントン大統領は、多くの挑戦に直面している重要な国際機関(国連)が新しい指導者を得ることが非常に重要だと考えている」と記者団に語った。
 もう一つの反対理由は、ガリ氏が国連改革と規模縮小に積極的でないというものだ。多数の高給官僚を抱え、事務能率の悪い国連に対して米国、特に上下両院で多数を占める共和党保守派の反発は強い。米国議会が国連分担金の支払いを認めないのは、国連改革が進まないことが大きな理由なのだ。
 これに対しては、ガリ氏自身もかつて「国連職員の半分は有益な仕事をしていない」と語っている。そうかと思うと、ボスニアの現地司令官がニューヨークの国連本部に連絡しようとしても相手は不在、「ニューヨークの連中は九時から五時までしか仕事をしない」と厳しく批判したこともある。
 マカリー報道官も「国連は余分な職員を抱えており、浪費と効率の悪さが目立ち過ぎる」と糾弾。また別の米高級外務官僚は「ガリ氏が事務総長である限り、国連の機構改革や経費節減は実現しない」と断言する。
 ガリ氏の性格や仕事ぶりにも米国は反発する。ボスニアでセルビア人勢力が攻勢に出た時、北大西洋条約機構(NATO)を主体とする多国籍軍は空爆を主張した。ところが国連はこれに反対し結局、関係諸国の信頼を失った。
 事務総長という各国の調整に当たるべき職責にありながら、プライドの高いガリ氏には独断専行が目立ちそれに対する風当たりも強い。とくにボスニア、ソマリアでの国連の失敗は米国の反ガリ感情を助長したのだ。
◆新しい酒袋に新しい酒
 米国の批判はともかく、ガリ氏が再選にふさわしいかどうかは、過去五年近くの彼の業績がそれにかなったものかどうかによるだろう。だがこの五年間の国連は褒められたものではない。唯一の例外は緒方貞子さんの指揮する難民高等弁務官事務所の業績くらいのものだ。
 就任直後、ガリ氏は冷戦後の国際秩序の確立を目指して「平和への課題」と名付けた報告書を発表した。予防外交を徹底し平和を創造、その平和を維持する。そのために各国に兵力の提供を求め、国連独自の緊急派遣軍を結成しようという野心的なアイデアだった。だが、その計画はPKOの無残な失敗で雲散霧消してしまった。
 一時はPKOの成功例ともてはやされたカンボジアも、その後、同国情勢が一向に改善せず尻すぼみになった。中東和平もボスニア停戦も国連抜きで行われたことは記憶に新しい。
 こう見てくると米国のガリ再選反対もあながち大国の横暴と決め付ける訳にはいかない。
 ガリ氏は九一年の事務総長選びの時、高齢批判に対して「一期五年しか務めない」と明言している。また九三年の米雑誌とのインタビューでも「一期だけでは不十分なのではないか」と問われて「いや、私は新しい国連を後継者に譲りたいと思う。後継者とは新しい世紀の問題に取り組む準備のできている人のことだ」と答えている。
 再選を目指すガリ氏に対して米国は一年間に任期を限っての再選という対案を出した。ガリ氏がこれを拒否したため、米国が態度を硬化させたのだ。
 現在の世界では米国抜きでは何事も動かない。
 興味深い前例がある。初代のトリグブ・リー事務総長(ノルウェー)の再選には当時のソ連が強く反対した。ところが米国は総会を動かしてリー氏の再選に成功。だがソ連はそれ以後リー氏を完全に無視、リー氏は任期半ばで辞任に追い込まれてしまった。米国に支持されないガリ氏が再選されたとしても、リー氏の轍を踏む可能性が高いのではなかろうか。
 国連が二十一世紀に向けて再出発を目指すなら、その新しい酒袋には新しい酒を入れた方がいい。国連も五十歳を過ぎて動脈硬化を起こしている。老兵は静かに消え去るべきだろう。
 
 
 
 
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