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2004/12/20 読売新聞朝刊
[ワイド時典]国連安保理常任理事国 日本の常任理入りは?
 
 【国連安保理常任理事国】現在は米英仏中露の五か国。日本は、安保理改革で常任理入りを目指す。
 
 アナン国連事務総長の諮問機関である「ハイレベル委員会」が、先に公表した国連改革に関する報告書で、安全保障理事会を拡大する案が盛り込まれた。日本にとっては念願の常任理事国入りが現実味を帯びてきたわけだ。安保理改革は、来年秋、ヤマ場を迎える。
(解説部 笹森春樹)
■改革の背景 利害対立で限界を露呈
 安保理事会は、常任理事国五か国と非常任理事国(任期二年)十か国の計十五か国で構成される。常任五か国は、常任を意味する英語のパーマネントの頭文字をとって「P5」と呼ばれる。安保理の決定は、加盟国を拘束する。常任理事国は拒否権を持ち、その一国でも反対すれば安保理としての決定ができない。
 冷戦期は、米ソ両国が頻繁に拒否権を行使したため安保理は十分機能しなかった。冷戦後に活性化したが、イラク戦争やコソボ紛争などで大国間の利害が対立し、安保理の限界を露呈した。これが安保理改革の背景にある。
 今回、ハイレベル委員会が示した安保理拡大案は、A、B両案がある。
 A案は、〈1〉常任理事国を六か国(アフリカ二、アジア・大洋州二、欧州一、南北アメリカ一)増やし十一か国〈2〉非常任理事国を三か国増やし十三か国――とする内容だ。
 B案は、〈1〉常任理事国は五か国のまま〈2〉任期四年、再選可能な準常任理事国を八か国(各地域二ずつ)創設〈3〉非常任理事国を一か国増やし十一か国――などだ。A案の新常任理事国、B案の準常任理事国ともに拒否権は持たない。両案ともに安保理全体では二十四か国だ。
 日本政府はA案を歓迎している。「拒否権なし」でも容認する構えだ。B案の準常任理事国創設案については、対象国の線引きが難しいとして反対している。
■宿願 改革の論議10年以上も
 日本が常任理事国入りを主張するのは、国連予算をアメリカに次いで二番目に多く負担していること(分担率は二〇〇四年で米22%、日19%)、核不拡散などに精力的に取り組んできたこと――などからだ。戦前の国際連盟で、日本が常任理事国だったことも、外務省が早くから常任理入りを目指した理由だ。
 元国連職員の吉田康彦・大阪経済法科大教授は「常任理事国になるため、外務省が戦略的に布石を打ってきたことが三つある。旧敵国条項の削除、日本人の国連職員を増やすこと、国連分担金を増やすことだ」と言う。
 安保理改革をめぐる論議は、九三年十二月、安保理改革作業部会が国連に設置されて以降、十年以上になる。九七年、常任理事国を五か国増やすことなどを内容とした改革案(ラザリ案)がまとまったとき、論議はピークを迎えた。しかし、イタリア、メキシコ、パキスタンなど常任理事国入りが望めない中堅国グループが強く反対したことなどから、ラザリ案は採決されなかった。中堅国グループは、イタリアの国連大使の名をとって「フルチのコーヒークラブ」と呼ばれた。
■展望 カギを握る米国の意向
 日本は、ドイツ、インド、ブラジルと連携して常任理入りを目指している。
 安保理拡大には国連憲章の改正が必要だ。国連憲章の改正は、総会で三分の二以上が賛成し、かつP5を含む三分の二以上の加盟国の批准を得る必要がある。中国は日本の常任理入りに慎重だが、総会で中国の賛成が得られなくとも、中国の批准は不可欠だ。
 ハイレベル委の報告書と各国の議論を踏まえ、来年三月、アナン事務総長が国連改革について勧告を出す。これを受け、日本などが決議案を提出する。準常任理事国の創設を支持する国は別の決議案をまとめるだろう。
 北岡伸一・国連次席大使は「中央公論」一月号に寄稿した論文で、「われわれが決議案を提示して、三分の二の多数が取れそうな展望が見えてくると、中間的な立場の国は勝ち馬現象を起こして、三分の二をはるかに超える多数になる可能性がある」と自信を示す。
 ポイントは、米国がどこまで本気になるか。米国は日本の常任理入りを支持しているが、安保理が拡大しすぎると機能しなくなるのではないかと懸念している。だが、吉田教授は「小泉首相が盟友関係をテコにブッシュ大統領に頼み込めば米国も乗ってくるはずだ。A案の勝利だろう」と予測する。来年九月、国連で首脳会合が予定され、そのころの総会がヤマ場になる。
 
〈旧敵国条項〉
 日本など第2次大戦の敗戦国を対象にした条項で、95年の総会決議で死文化されたが、まだ国連憲章に残っている。ハイレベル委員会の報告書も「時代遅れ」と修正を求めている。
〈ラザリ案〉
 97年、マレーシアの国連大使だったラザリ・イスマイル国連総会議長(安保理改革作業部会座長)がまとめた安保理改革案。常任理事国を5か国、非常任理事国を4か国それぞれ増やし安保理全体を24か国に拡大する内容だ。新常任理事国には拒否権を与えず、P5の拒否権についても、その行使を限定するとした。
 今回のハイレベル委員会の2案のうち、A案は、ラザリ案を修正したもの。ラザリ案との違いは、アフリカに対する新常任理事国の割り当てを一つ多い2議席にした点だ。B案の準常任理事国の創設は、もともとイタリアの主張だ。
◇安保理事会の構成比較(数字は国数)
  現在 A案 B案
常任理事国 5 11 5
準常任理事国 なし なし 8
非常任理事国 10 13 11
15 24 24
※A案とB案は、ハイレベル委員会の案
 
 
 
 
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