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2004/12/02 読売新聞朝刊
[社説]国連改革報告 安保理の機能強化につながるか
 
 アナン国連事務総長の諮問を受けて、緒方貞子・元国連難民高等弁務官ら有識者で構成するハイレベル委員会が、国連改革に関する報告書を公表した。
 国連安全保障理事会の機能強化や議席拡大など、百一項目の改革提言を盛り込んでいる。
 冷戦終結後、テロや大量破壊兵器の拡散などの新たな脅威が台頭した。世界が直面するこうした脅威に、国連は有効に対処していけるのか。そのための議論のたたき台が、来年の創設六十年という節目を前に、提供されたことになる。
 報告書は、安保理の拡大に向け、A、B二つの案を具体的に提示した。現在、拒否権を持つ常任理事国五か国と、二年交代の非常任理事国十か国の計十五か国によって構成される安保理を、九議席増やして二十四か国に拡大する案だ。
 A案は、拒否権を持たない常任議席六と非常任議席三を設ける。B案は、任期四年で再選可能な準常任議席八と非常任議席一を設ける。
 常任理事国入りを目指す日本にとってA案は、拒否権を別にすれば、具体化に向けての有力な提案である。両案とも米国の同意取り付けがカギだ。
 イラク戦争の際、安保理は理事国の対立によって、武力行使の可否を決定できないまま、冷戦時代同様の機能不全に陥った。イラクの大量破壊兵器の脅威を深刻に懸念した米国は、明確な武力行使容認を求めたが、フランスなどに反対され英国とともに先制攻撃に踏み切った。
 アナン事務総長は、こうした先制攻撃は国際法に違反するとの見解を表明している。しかし、米英が抱く懸念に安保理としても有効に対応する必要がある、として、武力行使を正当化できる基準を検討するよう委員会に諮問していた。
 報告書は、加盟国の武力行使について国連憲章五一条の自衛権の発動と安保理が容認した場合に限られることを、確認した。その上で、武力行使を容認する判断基準として、「脅威は深刻か」「目的は適切か」「あらゆる手段を尽くした末の最後の手段か」など、五つの指針を満たす必要があるとした。
 だが、自衛権の拡大につながる憲章改正の必要は認めなかった。伝統的な国際法を重視する立場の反映と言える。
 基準を明示したことは、安保理決定の有効性を高めるうえで一歩前進だ。問題は、イラク戦争のときのように安保理の見解が割れた場合だ。必要なら単独でも先制攻撃することを躊躇(ちゅうちょ)しない、とする米国の立場とどう調整するか。
 報告書は、依然、議論のたたき台の段階にとどまっているように見える。
 
 
 
 
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