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2004/08/27 読売新聞朝刊
常任理事国入り 安保理改革で「準常任」設置案(解説)
◆憲法9条持つ日本には“限界”も
 国連安保理(安全保障理事会)改革が再び動き出しそうな気配だ。日本は常任理事国になれるのか。
(解説部 笹森春樹)
 安保理改革をめぐっては、一九九四年以降、国連の「安保理改革作業部会」で議論してきたが、具体的な進展はなかった。安保理改革という総論では一致しても、安保理の議席(常任理事国五、非常任理事国十)をどこまで拡大するか、どの国が常任理入りするか、などの各論になると、各国の利害が対立するからだ。
 この十年間で、安保理改革に弾みがつきかけたのが九七年、当時のラザリ国連総会議長(マレーシア国連大使)が安保理改革の枠組み案を起草した時だった。この案は、〈1〉新たな常任理事国は、先進二か国、及びアジア、アフリカ、中南米の三地域から一か国ずつの計五議席〈2〉非常任理事国は四議席増〈3〉新たな常任理事国は拒否権を持たない――などの内容で、日本、ドイツ、インド、ブラジルの常任理入りを想定していた。
 しかし、常任理入りが望めないイタリアを中心に反対工作が展開され、アメリカも、非常任理事国が増えすぎると安保理が機能しないと異論を唱え、改革は先送りされた。
 ここへ来て再び動き出しそうなのは、昨年十一月、国連改革に関するアナン事務総長の諮問機関が設置され、今年末までに報告書をまとめる予定だからだ。諮問機関では、任期五年、拒否権なしの「準常任理事国」を設ける案が検討されているが、新旧で常任理事国を区別すべきではない、というのが日本の立場だ。
 そうした中で、日本が常任理入りした場合の覚悟を試すような発言がアメリカから伝わっている。パウエル国務長官は「常任理事国としての義務を果たそうとするなら、その観点から憲法九条を考える必要がある」と指摘した。
 日本の常任理入りは、外務省の宿願ではあっても、確固とした国策とは言い難かった。それは、海外での武力行使ができないと解釈される憲法九条の下、安保理の軍事制裁を含む決定に積極的に加わることへの躊躇(ちゅうちょ)でもあったろう。日本は九二年以降、国連平和維持活動(PKO)の実績を積み重ねているが、多国籍軍への参加問題になると国論が割れてしまう。
 明石康・元国連事務次長は「常任理事国になりたいという日本の願望と、憲法九条という日本の法律論との間にはギャップがある。国連への日本の財政的貢献は大きいが、多国籍軍への参加については、日本と似たような立場にあるドイツに比べ、日本の貢献は極めて小さい」と言う。
 元国連大使の波多野敬雄(よしお)・学習院女子大学長は「常任理入りが進まないのは、アメリカやイギリスが『支持する』と言いながら本気ではないからだ。『五大国』にとっては現状がいい。また、日本に常任理入りに消極的な世論があるため、アメリカも本気にならないのだ」と指摘する。
 小泉首相も、もともと常任理入りに慎重な立場だった。最近首相は、「今までのP5(五つの常任理事国)と違った常任理事国があってもいい」と語ったが、これも憲法九条を持つ日本の“限界”を認めた格好だ。それは常任理事国とは似て非なる「準常任理事国」を容認することにつながるかもしれない。
 
 
 
 
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