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2003/03/28 読売新聞朝刊
日本の国連中心主義 基盤は日米同盟、イラク戦で鮮明(解説)
◆平和主義の象徴、理想化し過ぎた面
 政府がイラクの戦後復興に関し国連安全保障理事会決議の採択を目指しているのは、日本外交の柱の一つである「国連中心主義」の表れだろう。
(解説部・吉田和真)
 米国などが武力行使を容認する新たな国連安保理決議のないままイラク攻撃を開始したことに対して、小泉首相は支持を表明し、国連中心外交よりも日米同盟関係を優先する姿勢を鮮明にした。
 国連中心主義という外交方針は、岸内閣が一九五七年に発表した「外交青書」第一号の中で打ち立てられた。この外交青書は戦後外交の三原則として、「国連中心」「自由主義諸国との協調」「アジアの一員としての立場の堅持」を掲げた。この考え方は現在も変わらず、日本外交は、国連中心主義、日米同盟堅持、アジア重視を基本原則にしている。
 国連事務次長を務めた明石康・日本紛争予防センター会長によると、先進諸国の中で日本のようにはっきりと国連中心主義を柱として掲げている国は珍しい。そして、この原則は、日本が抱いていた特異な国連観から生まれたものだという。
 日本は外交青書創刊の前年、五六年十二月に国連加盟が認められた。独立回復後、国連加盟を目指したが、旧ソ連の反対で実現しなかった。初の加盟申請から四年以上かかって実現した国連加盟は、日本がようやく国際社会に復帰できたことを意味した。
 国連は、憲法の平和主義に合致するシンボルと受け止められた。加盟を承認した国連総会での演説で重光葵外相は憲法前文を引用し、「この日本国民の信条は完全に国連憲章の目的及び原則に合致する」と表明した。
 当時、国連は米ソの冷戦構造を乗り越えるものとして、過度に理想化されていた。日本の安全保障は全面的に国連にゆだねるべきだという意見もあったほどだ。
 このため、国連中心主義という言葉は、「国連の決めたことには従う」との国連至上主義的ニュアンスで使われていたと見られる。国連中心主義には、戦前の軍国主義には二度と立ち戻らないという決意も込められていたのだろう。
 しかし、国連は、加盟国の利害がぶつかり合う国際政治の舞台だ。とくに冷戦構造の下で、米ソが拒否権を乱発し、安保理は有効な機能を果たせなかった。加盟後、こうした現実に直面すると、国連中心主義は次第にお題目的な意味合いしか持たないようになったようだ。
 しかしながら、日本が国連中心主義の旗を降ろさなかったのは、国連外交が平和主義と結びつけてとらえられていたためだ。五五年体制下、社会党は日米安保体制を批判する立場から国連中心主義を強調しており、撤回は現実問題としても難しかったはずだ。
 米ソの対立で国連は機能せず、その米国に安全保障を全面的に依存している現実では、国連中心という理想主義を掲げていても問題は生じない“恵まれた環境”にもあったと言える。
 しかし、冷戦の終結によって、国連の役割が見直されることになった。国連を中心として国際協調を図ることによって秩序を維持しなければならないという考えが国際社会の中で強まり、日本でもこうした新しい意味を込めて国連中心主義が使われだした。国連の集団安全保障機能を重視する見解が、小沢一郎・現自由党党首ら保守系政治家から強調されるようになった。この流れの中で、九二年六月、国連平和維持活動(PKO)協力法が成立した。
 とはいえ、「日米同盟は外交の基盤。その上に立って外交を展開していくにあたって、国連重視がある」(外務省幹部)とされ、この新しい国連中心主義も、日米同盟堅持という原則を乗り越えることはないというのが実態だ。国連は主権国家の集まりであり、時として国連と米国の方針が対立するのは避けられない中で、米国に安全保障を依存している日本としては、日米同盟を動揺させるわけにはいかないからだ。これに対し、国連安保理は常任理事国の方針が一致しなければ、機能しえない。
 北岡伸一・東大教授は「日本はこれまで重大な決定で米国と対立したことはない。『国連中心主義』を標ぼうしていても、実体は伴っていなかった」と指摘する。
 したがって、政府が米国などへの支持を表明したからといって、日本の国連中心主義が後退したわけではない。日米同盟堅持と国連中心主義という二つの原則の関係が、米国と仏独などとの足並みが乱れたことによって、くっきりと浮かび上がったわけだ。
 イラク復興について、日本が望んでいる国連安保理決議の採択は、まだ見通しが立っていない。日本の国連中心主義が再び問われる局面もありそうだ。
 
 
 
 
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